連載 | #7 KAI-YOU ANIME REVIEW

アニメ史に残すべき名作『宇宙よりも遠い場所』クロスレビュー

アニメ史に残すべき名作『宇宙よりも遠い場所』クロスレビュー
アニメ史に残すべき名作『宇宙よりも遠い場所』クロスレビュー

『宇宙よりも遠い場所』キービジュアル(左から)白石結月、小淵沢報瀬、玉木マリ、三宅日向/画像はすべて公式サイトより

POPなポイントを3行で

  • 『宇宙よりも遠い場所』はマジで最高のアニメ
  • 『よりもい』大好きマンたちが一言レビュー
  • 最終回をみんなで見ようね
1月から放送がスタートしたオリジナルアニメ『宇宙よりも遠い場所』(よりもい)。

群馬県の高校に通う玉木マリが、南極を目指す少女・小淵沢報瀬(こぶちざわしらせ)と出会ったことをきっかけに、のちに出会う三宅日向、白石結月とともに南極を目指す姿をみずみずしく描いた作品です。

KAI-YOUでは、この『よりもい』を2018年、さっそく現れてしまった神アニメと定め、最終回を目前にクロスレビューを敢行。未視聴の方もAmazon Primeでの配信や各種配信サイトで一挙放送も実施されているためぜひご覧ください。
 

そこは、宇宙よりも遠い場所──。

 何かを始めたいと思いながら、
中々一歩を踏み出すことのできないまま
高校2年生になってしまった少女・玉木マリことキマリは、
とあることをきっかけに
南極を目指す少女・小淵沢報瀬と出会う。
高校生が南極になんて行けるわけがないと言われても、
絶対にあきらめようとしない報瀬の姿に心を動かされたキマリは、
報瀬と共に南極を目指すことを誓うのだが……。 『宇宙よりも遠い場所』あらすじ

編集部:ふじきの場合

ふじき

CLANNADは「人生」、Fateは「文学」──名作アニメには必ずこういった常套句が自然とつくられます。そして2018年、アニメ史に名を刻んだ宇宙よりも遠い場所を一言で表すなら「感情」です。よりもいは「感情」。これはテストに出ます。

パッと見だと、女子高生が南極を目指すいわゆるガールズジャーニー作品なのですが、登場人物の行動原理がすべてファック! の精神であるところが『よりもい』の見どころ。 玉木マリは何もできない自分自身に。小淵沢報瀬は「南極なんかいけるはずない」とバカにした学生たちに。三宅日向はバイト続きで一人の日常に。白石結月は決められた成功のレールの上を漫然と歩くことに。

それぞれがなんとなく意識している閉塞感を、ポジティブな行動力だけで打破していく──そんな前のめりで考えなしな感情の強さを思い出させてくれます。

不条理で理不尽なできごとを、(描き方は全く異なるものの精神性としては非常に近いものがある)『ポプテピピック』のように無茶苦茶なパッションでぶっ飛ばしていく。そんな彼女たちの旅をみていると「こまけぇこたぁいいんだよ!」と背中を押してもらった気分になれます。

大事なものは理路整然とした説得や説明よりも純粋な「感情」。よりもいは「感情」です。

ストーリー:10点(序盤から緻密に積み重ねられた伏線。キャラクターが語らなくてもすべてを理解させる演出力)
キャラクター:8点(非常に魅力的だが、関係性に重きがおかれているため各個人の名前を覚えづらい)
作画:7点(全体を通して非常に高い地点で安定しているが、物語の性質上動的な見せ場は多くはない。上述したとおり演出力は神、表情の動きが見事。)

デザイナー:CKSの場合

CKS

「ざまーみろ、ざけんな、うるせーバーカ!」で降りかかる逆境をバリバリ砕氷してくのがジャーニーでロードムービーな本作の魅力ですが、描かれる人間ドラマは過去との決着だったり帰らぬ人との折り合いだったり、結構割り切りがちで悲しめな面があります。ハッピーに解決することとかは、あんまりない。

しかしそんな悲しめな背景とは裏腹に、本作はなんかちょっと素っ頓狂でオモローな雰囲気があります。それは、リアクションがデカく突っ走りがちな主人公の4人組JKたちの漫才によってなされてるところが大きく、『よりもい』はここも大きな魅力の1つです。 いきなりスットコドッコイなピーヒャラBGMが流れはじめて、女の子たちがくるくる表情変え声を枯らしながら、よく動く絵で全身を使いボケとツッコミを畳みかけてきます。かしましいというより、やかましい! ギャグパートそんないる? (特に3話が酷くて、笑えます)

セーブ役がいなくて、基本姿勢は当たって砕けろ。その場のノリで思いついたちょっと底の浅い作戦を数撃ちゃ当たるで撃ちまくる。しかし最後にはギリギリチャンスを掴んでくハラハラ感も。それが逆に笑いを助長させているのかもしれません。

そんな突っ走りが本筋のストーリーでも痛快に発揮されてて、通して気持ちのいい本作。ギャグも含め、最終回が楽しみです。

8話:70点(お楽しみのレポートシーンがここにきて面白さを発揮してくる。ノリのいい乗組員にも注目。)
7話:100点(息の合った気持ちのいい動き、かわいい絵、面白いギャグ。楽しいアニメとはこういうこと。)
3話:満点(報瀬3段落ち。振り向きノリツッコミの日向。3話という重要回、ギャグてんこ盛りで視聴者を掴みに来たこのアニメの本質を見ることができます。)

編集部:おんだゆうたの場合

おんだゆうた

現状に不満や悩みを抱えた女子高生4人が、南極という非日常的空間へ力技で飛び出していく青春ストーリー。

家族の「死」、そして友人の「裏切り」など、一歩間違えればどす黒く描写できてしまうのに、怒っても泣いても、いつだって痛快で爽快。そんな作品に、30年以上生きてきて出会えた幸せを噛みしめています。

弱さや汚さを力で乗り越えるのではなく、一緒に泣いて、一緒に笑って、受け入れて前に進んでいく。どう転んでもポジティブな物語に、現代社会を生きる大人になった僕らが惹かれるのもよくわかります。

魅力的な物語と並んで、どうしても気になってしまうのがこの座組。

文部科学省
国立極地研究所
海上自衛隊
SHIRASE5002(一財)WNI気象文化創造センター


「協力」にクレジットされている文字だけを見ると、まさか女子高生が主人公の話とは思えない。一方で、オタクならば「国立極地研究所」という見たことのない漢字の並びにワクワクしてしまうんじゃないでしょうか。正直、1話でこの文字を見ただけで「今後も見ていこう」と思いました。

(左から)早見沙織さん、花澤香菜さん、水瀬いのりさん、井口裕香さん

座組という意味では、水瀬いのりさん、花澤香菜さん、井口裕香さん、早見沙織さんという、主役級の4人が主役ってすごくないですか? しかもラジオを聞く限りはオーディションだった模様。

スタッフにキャスト、そして協力した機関、それらが1つの作品に集うという奇跡が起きたからこそ、僕たちも宇宙よりも遠い場所を目指すことができたのかもしれません。

声優:400点(主人公4人を主役級4人が演じる贅沢)
ラジオ:200点(主人公2人を演じる主役級2人がパーソナリティ)
MVP:国立極地研究所(ありがとう)
備考:EDのカップリング「ONE STEP」も聞いたほうがよい

フリーライター・オグマフミヤの場合

オグマフミヤ

──I am (not) 小淵沢報瀬

小淵沢報瀬は大いなる目的と、それを実現せんとする強いバイタリティを持った魅力的なキャラクターだ。『宇宙よりも遠い場所』という後世に語り継がれるべき大傑作の中で、私は特に彼女に心を惹かれる。 『よりもい』はただでさえ魅力的な作品だ。強い個性とそれを形成する確かなバックグラウンドを持つ主人公の4人。迷い惑いながら仲間とともにそれぞれが乗り越えるべき過去と困難に立ち向かう物語。その全てが心を奮わせ、頬に熱い涙を伝わすEmotionの総合芸術。

文句のつけようがない、全てが詰まっているといっても過言ではない。

すべてを満たされる感覚の中、誰に笑われても意地を貫き通す小淵沢報瀬という強い光に私は在りし日の青春の影を重ねつつ、重ねられない焦躁に魂を焼かれながら、新たな未知の感動に出会う

そして新たな未知との出会いは私を旅へと駆り立てる、宇宙よりも遠い場所へ。

小淵沢報瀬:14000点

強烈なカリスマを備えながらも、年相応のポンコツ具合も見せる抜群の愛らしさ。
時にボケ、時にキメる四季のごとく移り変わり、見るものの心を彩らせる表情がいちいち印象的。
自己紹介で人を泣かせる女子高生がいるだろうか、いやいまい。
そんなキャラを花澤香菜さんが演る(やる)、反則。

宇宙よりも遠い場所、絶対みんなで見届けような

いかがでしたでしょうか。感想は千差万別ながら、全員とんでもなく"食らった"ことが伝われば嬉しいです。

ちなみに触れられなかった点で言えばヒゲドライバーさん作曲のED曲「ここから、ここから」が、ただでさえいい曲なのに、曲への入り方まで毎話こだわりがあってたまらないです。ドラムから入る前奏ちょっと長めの回、やばくないですか?

さてさて、興味が出た方はぜひ最初から見てください。そしてすでに見ているかたはぜひこちらの記事にコメントで感想を書き込んでくれると嬉しいです。よりもいは感情。はっきりわかんだね。

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KAI-YOU ANIME REVIEW

クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。

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10件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:4306)

13話まで視聴しました。僕は主人公達と同じ高校2年生で、将来への漠然とした不安、ここではないどこかへ行きたい!というキマリと自分が重なり忘れられない作品になりました。なぜなら、初めは(好きな声優さんだし)という気持ちで見始めたのに、なかなかヘヴィな問題も明るくポジティブに、でもしっかりと前に進んでいく主人公達がもうかっこよくて可愛くてなんとも言えなくてやばい、、、というかんじになったんです!!それに!EDや挿入歌のタイミングがもう最高すぎる、、、ほんとに大好きな作品です。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:2012)

う~ん。今、全話見ました。
多分好みの問題ですが、私にとっては70点でした。
将来への漠然な不安感とかは、学生に共感されやすそうですね。
18時前後に放送すれば良いのに。
絵的に、萌えアニメ好きな方達が見ていて未知なテーマに興奮しやすいのかな…
「生と死の狭間での人間の強さ」とかが好物な人は見ない方が良いかも(私とかw)

[良]
・メンバー全員幼かわいい。
・遠めに映った顔のくずれ等が少なく、丁寧な絵仕事。
 変に3Dポリゴンとか使わずに機械や白平原をしっかり描いてる。
・花澤香菜さんの演技の幅に感動。こんな声出せるんや感。

[悪]
・幼稚なプライドに焦点を当てる場面が多くて食傷。
 心の強い人なら普通に踏み越えられる事象にとらわれすぎてて
 共感できない。憧れるキャラが居ない。女が作ってそうな少女漫画感。
・極寒の地での死の恐怖とか、極限状態での心の葛藤や突発事件みたいな
 高刺激シーン皆無。作りやすい場所なのにもったいない。
 (孤高の人、神々の山嶺 とか好きなので比較してしまうだけですがw)

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:1980)

主人公は誰と問われたら、迷わず「小淵沢報瀬!」でしょう。
彼女の南極へ馳せる熱い思いは、旅の過程で仲間への想いを生み、それを受けて今度は仲間たちが、報瀬の亡き母への想いを昇華させてくれます。それぞれのキャラクターが上手に生かされていますが、やはり報瀬の「ざけんな!」がカッコいい!第12話は神回です!4人と一緒に泣きました!あんな泣かせ方があるなんて。映画化して欲しいアニメです。みんなと一緒に泣きたいアニメです!

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