連載 | #1 ネットイラストを巡る冒険

ネットイラストを巡る冒険 Vol.1 pixivの誕生、奪われたものと奪い取ったもの

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pixivの誕生

pixivのスクリーンショット

それから少し経ち、2007年にpixivが誕生します。それまでの「イラストSNS」という分野を、さらに大きく切り拓きました。pixivがイラスト文化に与えた影響は計り知れず、お絵かき掲示板以上の大きな革命となりました。 2014年3月時点で会員数は1000万人を超える大所帯のサービスとなり、さらにその勢いを増しています。

それまでのネットでのイラスト交流は、個人サイトのお絵かき掲示板への投稿やレスポンス、チャットなど、描き手がある程度能動的に動かないとコミュニケーションできない文化がありました。つまるところ、宣伝などのアクセスインフラは、描き手自身が担わなければいけませんでした。

pixivは、これらの宣伝をほぼ全てサービス側が請け負ってくれます。さらに、そのアクセス数も桁違いです。例えば人気サイトのお絵かき掲示板に自分のイラストを投稿して、そこからのサイトへの流入数を調べた場合、せいぜい50人が自分のサイトを見てくれればいい方だと思います。しかしpixivでランキングにでも入れば2007年のリリース当初でも閲覧数は1000人を超えたでしょう(データ元は自分)。

もちろん、これらの比較はデータとして正確ではありません。それでも、最近のpixivではより顕著に、「人気作家」や「人気ジャンル」などがわかりやすく、検索機能もより充実した快適なツールに日々進化しています。ランキング上位に入れば、閲覧数も2万を超えるようになってきました。これによって同人誌など個人の販促もやりやすくなっていると思います。

pixivの罪

「お絵かき掲示板」と「pixiv」との違い

そんな便利で素晴らしいシステムを用意してくれるpixivではありますが、複雑な思いをしているユーザーも少なからず存在します。その一つとして「格差の顕在化」があります。つまりイラストの人気の度合いが簡単に測れてしまい、pixivで点数や閲覧数を取ることのできないユーザーが自信をなくしてしまうという問題です。

これが例えば従来の個人サイトのお絵かき掲示板であれば、技術の巧拙に関わらず「常連さん」として大切にしてもらえることがあります。個人サイトのコミュニティというものは、大抵アクセスが少ないので、管理人からすると投稿/コメントしてくれるだけでかなりありがたい存在なのです。仮にその掲示板が馴染まなかったら別の掲示板に移住すればいいだけで、かつての絵描きはそれを繰り返し自分の行きつけの掲示板を見つけるのです。

お絵かき掲示板はいわば老舗の専門店のようなもので、その店をよく知る仲の良い常連によって構成されているミクロな世界。それに対して、pixivは、デパートのようにあらゆる品物が陳列されているマクロな世界です。使う側にとってどちらが魅力的かというと、やはり多くの作品をより簡単に閲覧することができる後者なのです。

その結果、ユーザーは、2009年以降はアクセス数という圧倒的な武器を持つpixivにどんどん移住、適応します。少なくとも交流という意味において、お絵かき掲示板や個人のイラストサイトを運営するメリットは減少していきました。

職業イラストレーターから見たpixiv

一方でイラストを職業にしたい人にとってはよくできたツールでもあります。「現在の流行」「自分の絵の人気度」──この二つのデータを簡単に入手できることは、多くの絵描きの技術を飛躍的に高めたと思います。そのせいか(オレの感覚の話になりますが)現在の10代の絵描きの画力は、10年前にくらべて非常に高く、コミュニケーション面でもとても優れていると感じます。これはツールの発達もあるので一概には言えませんが、pixivの影響はとても大きいと思います。仕事を発注する側も、pixivを通して作家を見つけるのが容易になってきているでしょう。

まとめ

やや駆け足になってしまいましたが、90年代後半から現在にかけてのネットでのイラスト交流について紹介しました。

こうして振り返ると、昔は自分の絵を人に見せるだけのことでどれだけ苦労をしたかがよくわかります。今より能動的に活動しないといけない分、イラストそのものよりもその人の人格自体が評価されていたこともよくあるでしょう。

一方、最近はTwitterの普及もあり別の視点で人格面が見られることも多くなっているようです。この辺のことを話すと長くなりそうなのでまた次回にでも語っていこうかなと思います。

まとまってない感じもありつつも連載開始となりますが、次回も読んでいただければ嬉しく思います。

次回は、いまや多くの人にプレイされるようになっているソーシャルゲームアプリ、いわゆる「ソシャゲ」の発展が、イラストレーターたちにどのように影響していったか──こちらについて考えていきたいと思っています。(内容は構想中のため、予告なく変更される場合があります)
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虎硬

イラストレーター

1986年生まれ、東京都在住。フリーランスとして書籍、web、CDなどでイラスト、デザインやアートワークなどを手がける。同人サークル「project百化」主宰として、優れたアーティストたちを率いて世に送り出す。2010年、菊地信義賞受賞(講談社)。2012年、インターネットイラスト論を展開する『ネット絵学』を刊行。現在は会社にてイラストレーターとして勤務。

@anofelus
http://netegaku.tumblr.com/

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