連載 | #1 ネットイラストを巡る冒険

ネットイラストを巡る冒険 Vol.1 pixivの誕生、奪われたものと奪い取ったもの

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お絵かき掲示板の登場

有名なお絵かき掲示板「しぃペインター」のスクリーンショット

企業が個人に無料のWebサービスを提供すると、自然にコンテンツが増えていきます。2000年はじめ頃、新たにサイトを立ち上げる絵描きがどんどん現れ、お互いに刺激を受け、サイトの作りやイラストはどんどん洗練化していきました。

そんな中、個人でWebサービスを立ち上げる人達が現れます。それが、ネットイラストにおける革命ともいうべきお絵かき掲示板の誕生です。

お絵かき掲示板とは、2ちゃんねるなどのテキスト掲示板とは違い、Webのツールでイラストを描き、その場で投稿出来るというものでした。当時から、Photoshopやillustratorといったイラスト制作ツールはありましたが、まだまだそのほとんどは高価で、デジタルの参入障壁は高かったのです。お絵かき掲示板は基本的に無料なので、多くの絵描きがデジタル制作に参加することができるようになりました。

初期のお絵かき掲示板は機能が少なかったのですが、次第に洗練されていき、2000年に生まれた「しぃペインター」は、2004年頃にはオンラインでの同時描画を可能とする「お絵かきチャット」や「水彩ツール」など、非常に高度な機能を持つまでに進化しました。それらの機能の登場はさらに多くの絵描きを惹きつけ、お絵かき掲示板はネットでのイラスト交流の中心となっていきました。

お絵かき掲示板の交流

短時間で大きな躍進を遂げたお絵かき掲示板ですが、そこでの交流は、今のpixivなどのSNSとは少し異なるものでした。掲示板なので、それぞれがスレッドを立てることができます。ここでいうスレッドを立てるということが、イラストを投稿するということになります。そのイラストに掲示板の住民(ユーザー)がそれぞれの感想を書いていきます。

人気のあるイラストには多くのコメントが付き、関心を引かなかったイラストは無言で流れていく。もちろん中には「炎上」するイラストもあります。今のpixivの閲覧/点数のシステムに似ていますが、こちらは文字なのでより濃密なコミュニケーションになっていたのかも知れません。

同じお絵かき掲示板で長い時間を過ごした人達は強い仲間意識のようなものが芽生えます。その時の繋がりがもとで、後に同じ会社で働いたり、別の会社から引き抜いたり、新たな事業を立ち上げたりと、今日のコンテンツ産業の礎になっていると言っても過言ではありません。

祭と黄金時代

お絵かき掲示板では、「祭(まつり)」と呼ばれる、イベントのようなものが定期的に開催されていました。祭自体は昔からネットで使われている言葉ではありますが、イラスト界隈においては「一つのテーマをみんなで描く」ということを指しました。例えば「モノクロ祭」であれば、色を使わず単色のイラストをみんなで投稿し続けるというものです(テーマの解釈はかなり自由でした)。

個人のイラストサイトが成熟してくる2005年頃、お絵かき掲示板のレベルもどんどん上がっていきます。そこで開催される祭は、普段は掲示板などで見かけることのない、びっくりするような有名人も参加したりして、どんどん熱を帯びていきました。

そこには一つのグルーヴがあり、みんなで一体となってその盛り上がりを作っているような感覚がありました。サイトの管理人はもちろん重要な役割ではありますが、それ以上に参加者一人一人がオーガナイザーのようなムードが存在していたのです。

祭は、管理人が時期を決めて計画的に行う場合もありましたが、個人サイトの場合は突発的に始まることがほとんどでした。誰かが描いた変な絵を別の人が茶化して改変して、また別の誰かがそれに関連する絵を投稿して、、、今でいう「n次創作」のような出来事が頻繁に起き、それが祭となっていきました。一人、二人と踊ったらいつの間にか村人全員で踊っていたかのような、不思議なつながりがありました。それは当時を知る何人にとってのかけがえのない思い出であり、ある種の黄金時代となっていったのです。
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虎硬

イラストレーター

1986年生まれ、東京都在住。フリーランスとして書籍、web、CDなどでイラスト、デザインやアートワークなどを手がける。同人サークル「project百化」主宰として、優れたアーティストたちを率いて世に送り出す。2010年、菊地信義賞受賞(講談社)。2012年、インターネットイラスト論を展開する『ネット絵学』を刊行。現在は会社にてイラストレーターとして勤務。

@anofelus
http://netegaku.tumblr.com/

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