「pixiv MEETUP -10th Anniversary-」が9月9日に開催された。
今やプロアマ問わずイラストを中心とした表現活動の巨大プラットフォームとなった「pixiv」も、今年でサービス開始10周年。その間、pixiv運営スタッフがどのような考えのもとで、様々な取り組みを続けてきたのかを発表するイベントだ。
このミートアップで発表されたのが、講談社とpixivの提携による新たなコミック配信アプリの開発だ。
国内の出版最大手である講談社と、ネットにおける表現活動の場として存在感を増し続けているpixiv。
両者の提携は、電子書籍の売上が年々大きくなってきているコミック市場を背景に始まったという。
取材・文:しげる 編集:新見直・恩田雄多
『comic POOL』と『コミックジーン』は、ともにpixivが運営するコミック配信サービスであるpixivコミックで作品を発表しており、いずれもpixivと関わりの深い2誌のスタッフが揃った形だ。 セッションにおいてまず話題となったのが、コミック業界の現状と、それに対応したpixivコミックの取り組みだ。 会場で発表された資料によると、2014年から現在に至るまで、コミックの発売総額はほぼ横ばいながら、その中で電子媒体の占める比率は20%から33%に増加。同期間での無料コミックアプリの広告料は14億円から85億円へと急成長した。 このように成長著しいWebコミック配信事業を、2012年から手がけているpixivコミック。各出版社からのコンテンツ提供によって運営される「Webマンガの総合プラットフォーム」として、確固たる地位を築いている。
特に大きなきっかけとなったのが、集英社の雑誌『アオハル』のプロモーションでpixivが協力したことだった。
永田さんによれば、この時の経験から「出版社や雑誌ごとに特設サイトを準備するのではなく、出版社が活用しやすいフォーマットをひとつつくって、そこで各社の作品を流通させつつ新しい表現ができないか」というアイデアが生まれ、それがpixivコミックにつながったという。 一方、講談社とpixivとの繋がりはpixivコミックの発足以前にさかのぼる。中里さんの解説によれば、2010年に講談社が雑誌『ITAN』を創刊した際にpixiv上で表紙イラストのコンテストを開催したのが最初の提携だった。
その後、pixivコミックが発足してからも新人発掘の窓口として複数の編集部が参加した「講談社 まんがスカウトFes」を開催するなど、pixivと講談社の結びつきは以前から密接なものだった。
後者の狙いについてより具体的に言えば、紙の本の読者と電子書籍読者との隙間を埋めることが目的となる。
永田さんの分析によれば現状はパーマネントな「モノ」としての書籍を所有したい読者と、暇つぶし的にスマートフォンで作品を消費する読者の間で断絶が起きており、新アプリの目標のひとつがこの断絶の間に収まることだという。
また、中里さんは新アプリについて「読んだことがないような、熱狂できて手元に置いておきたくなる。そんな漫画を、いつでもどこでも読めるルートをつくれれば、それはリアルな書店にも還元できる取り組みになる」と、期待を込める。
デジタルとアナログが対立するのではなく、中里さんの言葉を借りれば両者の「幸せなマリアージュ」となるものを提供したい、という意気込みだ。
また「この新アプリのフォーマットで実験を行い、うまくいけば他の出版社も同じ仕組みに乗ってほしい」と永田さんは語る。 この発言からは、アプリの形式として出版社や作品を問わず応用が効く形を志向していること、そしてpixivはあくまで「場」の提供を目指していることがうかがえる。pixivの持つ本質的なバリューを捉えた発言と言えるだろう。
セッション内で、今後も漫画文化を支えWeb漫画の最先端であり続けつつ、ビジネス化できる部分を模索し続けていくと断言したpixiv。そして出版業界の巨頭であり、長く日本の漫画文化を牽引してきた講談社。
リリース時期や具体的なサービス内容など詳細は不明ながら、両者が組んだ新たなプラットフォームの発足は、業界内の勢力図を書き換える可能性すらある。どのような形のアプリとなるのか、続報に期待したい。
今やプロアマ問わずイラストを中心とした表現活動の巨大プラットフォームとなった「pixiv」も、今年でサービス開始10周年。その間、pixiv運営スタッフがどのような考えのもとで、様々な取り組みを続けてきたのかを発表するイベントだ。
このミートアップで発表されたのが、講談社とpixivの提携による新たなコミック配信アプリの開発だ。
国内の出版最大手である講談社と、ネットにおける表現活動の場として存在感を増し続けているpixiv。
両者の提携は、電子書籍の売上が年々大きくなってきているコミック市場を背景に始まったという。
取材・文:しげる 編集:新見直・恩田雄多
コミック業界とプラットフォーマーとしてのpixiv
新アプリについて発表されたのは、「日本のマンガ文化の変遷とpixivの取り組み」と題したセッションにおいてだった。 登壇したのは講談社でなかよし・ARIA・エッジ編集部 部長を務める中里郁子さん、一迅社で『comic POOL』編集長を務める鈴木海斗さん、KADOKAWAより『コミックジーン』編集長の瀬川昇さん。加えて、pixivからは取締役会長の永田寛哲さんが登壇した。『comic POOL』と『コミックジーン』は、ともにpixivが運営するコミック配信サービスであるpixivコミックで作品を発表しており、いずれもpixivと関わりの深い2誌のスタッフが揃った形だ。 セッションにおいてまず話題となったのが、コミック業界の現状と、それに対応したpixivコミックの取り組みだ。 会場で発表された資料によると、2014年から現在に至るまで、コミックの発売総額はほぼ横ばいながら、その中で電子媒体の占める比率は20%から33%に増加。同期間での無料コミックアプリの広告料は14億円から85億円へと急成長した。 このように成長著しいWebコミック配信事業を、2012年から手がけているpixivコミック。各出版社からのコンテンツ提供によって運営される「Webマンガの総合プラットフォーム」として、確固たる地位を築いている。
イラストコンテストをきっかけとしたpixivコミック誕生
続いて紹介されたのが、pixivコミック誕生までの経緯だ。 そもそもpixivコミック誕生のきっかけとなったのは、企業と協賛して開催されていたイラストコンテスト。その中で出版社と提携して、「新人賞の窓口や作家のスカウトの場として、このコンテストの仕組みを使えないか」という要望が出始めたのが契機だ。特に大きなきっかけとなったのが、集英社の雑誌『アオハル』のプロモーションでpixivが協力したことだった。
永田さんによれば、この時の経験から「出版社や雑誌ごとに特設サイトを準備するのではなく、出版社が活用しやすいフォーマットをひとつつくって、そこで各社の作品を流通させつつ新しい表現ができないか」というアイデアが生まれ、それがpixivコミックにつながったという。 一方、講談社とpixivとの繋がりはpixivコミックの発足以前にさかのぼる。中里さんの解説によれば、2010年に講談社が雑誌『ITAN』を創刊した際にpixiv上で表紙イラストのコンテストを開催したのが最初の提携だった。
その後、pixivコミックが発足してからも新人発掘の窓口として複数の編集部が参加した「講談社 まんがスカウトFes」を開催するなど、pixivと講談社の結びつきは以前から密接なものだった。
紙の本と電子書籍の隙間を埋める新アプリ
この流れの中で発表された講談社とpixivによる新アプリの開発。追い風になるのは、小学生でもスマートフォンの普及率が50%を超えるというデバイス環境だ。 新アプリの狙いは「発表されたにもかかわらずWeb上で埋もれていく優れた漫画を発掘して読者に届けること」。もうひとつは「電子書籍上でファンを満足させるリッチな体験を提供すること」だという。後者の狙いについてより具体的に言えば、紙の本の読者と電子書籍読者との隙間を埋めることが目的となる。
永田さんの分析によれば現状はパーマネントな「モノ」としての書籍を所有したい読者と、暇つぶし的にスマートフォンで作品を消費する読者の間で断絶が起きており、新アプリの目標のひとつがこの断絶の間に収まることだという。
また、中里さんは新アプリについて「読んだことがないような、熱狂できて手元に置いておきたくなる。そんな漫画を、いつでもどこでも読めるルートをつくれれば、それはリアルな書店にも還元できる取り組みになる」と、期待を込める。
デジタルとアナログが対立するのではなく、中里さんの言葉を借りれば両者の「幸せなマリアージュ」となるものを提供したい、という意気込みだ。
「場」を提供するというpixivの本質的バリュー
確かに現状、電子書籍と紙の物理的な書籍の間には溝がある。物理書籍に慣れ親しんだ層は、電子書籍に心理的な抵抗を覚える読者も少なくない。 一方で若年層を中心に、デジタルで課金して物理書籍はあくまでファンアイテムという捉え方も存在する。 講談社とpixivによる新アプリは具体的な形式はまだ不明ながら、この現状に第3の選択肢を与え、新しいビジネスの形をもたらすことを目的としている。また「この新アプリのフォーマットで実験を行い、うまくいけば他の出版社も同じ仕組みに乗ってほしい」と永田さんは語る。 この発言からは、アプリの形式として出版社や作品を問わず応用が効く形を志向していること、そしてpixivはあくまで「場」の提供を目指していることがうかがえる。pixivの持つ本質的なバリューを捉えた発言と言えるだろう。
セッション内で、今後も漫画文化を支えWeb漫画の最先端であり続けつつ、ビジネス化できる部分を模索し続けていくと断言したpixiv。そして出版業界の巨頭であり、長く日本の漫画文化を牽引してきた講談社。
リリース時期や具体的なサービス内容など詳細は不明ながら、両者が組んだ新たなプラットフォームの発足は、業界内の勢力図を書き換える可能性すらある。どのような形のアプリとなるのか、続報に期待したい。
紙と電子書籍の幸福な関係を巡って
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しげる
Writer
1987年岐阜県生まれ。プラモデル、アメリカや日本のオモチャ、制作費がたくさんかかっている映画、忍者や殺し屋や元軍人やスパイが出てくる小説、鉄砲を撃つテレビゲームなどを愛好。好きな女優はメアリー・エリザベス・ウィンステッドとエミリー・ヴァンキャンプです。
https://twitter.com/gerusea
http://gerusea.hatenablog.com/
1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:1154)
いい加減誰か一人でも
電子書籍のカバー下やカバー裏を収録しない問題を指摘して欲しかった
わざとなんだろうけど
同じ金額とってこのしうちはないよね