ネットとイラスト、ふたつの潮流はこの10年で大きく変わった。

ソーシャルゲームバブルの崩壊や市場規模の縮小など、イラスト業界に陰りが見える中でも、SNS時代との相性の良さもあって、文化としてのアイデンティティはより強固になっている。 そんな中、ネット発のイラストレーターとして第一線を走り続けているredjuiceさんが新会社レッドボックスを設立。その記念的な個展「REDBOX」が2024年3月22日から31日にかけて開催される。

今回はそんな大きな変化を迎えるredjuiceさんと、西洋美術をバックボーンにしながら、ゲームのコンセプトアートや様々な作品のキービジュアルで活躍するNaBaBaさんの対談を公開。

その出自は違えども、長年イラストシーンで活動してきた2人は、変化する時代をどう視ているのだろうか? そしてイラストレーターに求められる変化とは。

取材/文:虎硬 編集:わいがちゃんよねや

目次

pixiv黎明期──「布が上手い人」のフォルダに保存した

──redjuiceさんとNaBaBaさんは活動時期は近い部分もあるかもしれませんが、直接お話するのが今回の企画ではじめてと伺いました。まずはお互いの印象から教えてください。

左:NaBaBa 右:redjuice

redjuice NaBaBaさんを最初に認識したのは2008年頃──pixiv初期の方ですね。

すごく上手な“布”を描く人だなと。あの描き方が鮮烈に印象に残っていて「布が上手な人フォルダ」に保存していた感じです(笑)。

西洋美術的な、きちんとしたアカデミックな手法でネットイラストのシーンに殴り込みをかけてきた印象でした。

NaBaBa「晴天」

NaBaBa 当時は質感に強いこだわりを持っていた時期でしたから。僕は美大の油絵科出身なので、こういったディテールの表現は得意だったんです。

当時のpixivはローンチしたばかりで、所謂バズる絵みたいなロールモデルも存在しなかったから、皆手探り故の作風の多様性があり面白かった。

一方で「ランキング」という絶対的なヒエラルキーが出現した時代でもあり、みんながそれに執心し、今日のSNS上の悪しきフォロワーマウント蟲毒のはじまりでもあった(笑)。

redjuice まさに蠱毒の様相でしたね(笑)。僕自身、pixivのランキングはもの凄く意識していました。

もちろんランキングの上位は狙って取れるものでもないけど、サムネイルの画角とか、人物のサイズとか、細かなことをかなり考えてました。どうすれば見ている人にウケるのかって。今考えると地獄のような点取りゲームにのめり込んでいました。

ただ、ランキングでのポイント稼ぎだけ重視しても、絵は上手くならないんですよね。

二次創作イラストがすごく伸びやすくて。ポートフォリオとしても、オリジナルと二次創作の比率も検討していました。

redjuice「ワールドイズマイン」 Art by redjuice ©REDBOX / supercell / © Crypton Future Media, INC. www.piapro.net

NaBaBa それなあ。当時の僕ら「自称サブカル絵描き」からすると、redjuiceさんとhukeさんは完全にスター的な存在でしたよ。ただ、正直に言うと滅茶苦茶「ずるい」とも思っていた。

オリジナルも二次創作もバランス良くこなし、しかも二次創作きっかけでしれっと公式に抜擢されるじゃないですか。それら諸々が「redjuice」のブランドになっていたし、イラストレーターのキャリア形成の理想形でした。

その器用さに、当時は嫉妬に身を焦がしたものですよ。

redjuice なるほど。自分の場合は、元々が二次創作のイラストが好きで絵を描いていたという部分もある。スタートが二次創作なので、全く抵抗はなかったですね。

そのコンテンツのファンにリーチすれば自分の知名度も上がるという意味で「ずるい」というのも理解できます。今はむしろ、そういった「ずるさ」「あざとさ」も意識しつつ、ファンとの交流を楽しんでいます。

NaBaBa フォロワーを増やす目的で二次創作をやる、というのは今も昔も一般的な手ですよね。

ただ、自分にはそのモチベーションが全然無いから、お陰でフォロワーも増えないんですよね(笑)。

redjuice それもわかります。もちろん二次創作でも一次創作的な考え方やオリジナリティを出していくこともできる。

例えば、韓国のイラストレーター・モ誰さんの100日チャレンジは本当に凄かったですよね。二次創作ですが、技術的にも群を抜いていました。彼のオンライン講座(外部リンク)は僕も購入しています。基礎から応用までを網羅したハイレベルなカリキュラムになっているので、おすすめです。 NaBaBa 名実共に二次創作イラストレーターのトップランナーですよね。

redjuice ただ、ひたすら二次創作だけ描いていても、自分の成長を感じられない瞬間もある。

コミックマーケットに参加していろんな作家さんとの交流を持つ中で、オリジナル作品への興味や作家としてのプライドが芽生えてきました。こういった方々と肩を並べるには、オリジナルが描けないとダメだなと思いはじめて、一次創作と二次創作を行ったり来たりしつつ今に至ります。

でも、一次創作って辛いんですよね……。

──一次創作はどのあたりが辛いのですか?

redjuiceさん

redjuice もちろん絵を描いていて楽しいこと、辛いことは両方ある。でも一次創作はその辛い割合が多いかなと。

まず必要な勉強の量ですね。特に僕は制作に3DCGを使うことが多いんですけど、あれってほとんど調べている時間なんですよ。

NaBaBa ソフトウェアの操作や手続きを覚えて、それを再現するの繰り返しが、3Dの基本ですもんね。まずインプットを膨大にしないとはじまらない。

redjuice そうなんです。3DCGは技術のアップデートが頻繁で、追いかけるのも大変です。知らないことをひたすら調べて、試して、応用して、スキルとして身につけた上で、はじめて絵が完成する。

一次創作はデザインや世界観も自分で考える必要があるから、アイデアノートを書いたり、リファレンス収集、ラフやスケッチの工程から膨大な時間がかかる。試行回数も膨大になります。

そうやって二次創作の何倍も時間をかけて描いた絵でも、二次創作と比してリアクションが薄い。だから、楽しさに対するコストが違います。二次創作は低コストで快楽が得られる面がある

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プロフィール

redjuice

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イラストレーター/デザイナー

高知県土佐清水市出身のイラストレーター/デザイナー。2011年放送のTVアニメ『ギルティクラウン』のキャラクター原案に抜擢されたことで脚光を浴びると同時に、いわゆる絵師というものから、コンセプト策定・デザイン・キャラクター原案といった分野まで活動範囲を広げる。「ギルティクラウン」中に登場した架空のアーティスト『EGOIST』のビジュアルを担当。以後、2015年公開映画『Project Itoh』全作品(『虐殺器官』『ハーモニー』『屍者の帝国』)のキャラクター原案、小説/TVアニメ「BEATLESS」のキャラクター・コンセプトデザイン等、様々な分野で活躍している。そのイラストが持つ独特の雰囲気と既存の枠にとらわれない表現が、国内外を問わず高い評価を得ている。

NaBaBa

NaBaBa

イラストレーター

イラストレーター。多摩美術大学油画専攻卒。京都芸術大学イラストレーションコース教員。大手ゲーム開発会社に入社後、フリーのイラストレーターに。2012年にKaikai Kiki Galleryで開催されたグループ展「A Nightmare Is A Dream Come True: Anime Expressionist Painting AKA:悪夢のドリカム」に参加。ネオンカラーを取り入れたキャラクターイラストと、西洋美術の手法を横断した作風で様々なクライアントワークを手がける。代表作に『ゼノブレイド2』(モノリスソフト)コンセプトアートなど。

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