“環境適合”の結果、「キャラクターイラスト」に辿り着く
──創作論でいうと、NaBaBaさんは完全に一次創作のイメージが強かったのですが、最近は版権キャラクターの絵も描いてますよね。特に『プロジェクトセカイ クリエイターズフェスタ2023』のキービジュアルはXでも1万RT以上されて大きな話題になりました。モチーフだけでなく、作風も大きく変化したと思っています。NaBaBa 一言にすれば、”環境適合”の結果ですね。プロジェクトセカイ クリエイターズフェスタ2023のキービジュアルを担当させて頂きました。自分がプロセカのイラストを手掛ける事になるとは思わず、大変光栄です。イベントは6月3・4日に開催予定です。皆々様方、宜しくお願い致します。#プロセカ pic.twitter.com/6EPS55awAh
— NaBaBa (@NaBaBa) March 23, 2023
振り返れば厚塗りの時代、リアルとデフォルメの中間を狙っていた時代、ネオンカラーの時代と来て、今は線画とアニメ塗りの時代となっていますが、全ては当時の風向きを見て画風を選択しています。
僕にとっての“絵柄”って、例えるなら言語の様な物だと思ってるんですよ。最も重要な価値は言語を操って何を伝えたいのかという、テーマやコンセプトの部分にある。英語より日本語の方が伝わりやすいと判断すれば、躊躇なく変えます。
ただこれは裏を返せば、世間的に認知される「NaBaBaスタイル」を持ち得なかったからでもある。スター性やブランド価値が自分自身にはないから、「何でも描けるマン」になってクライアントにとって使い勝手の良い人材になる他に、仕事を獲得する術がなかったんですよ。
そこにコンプレックスは当然感じていますし──とは言え単純に新しい技術を獲得していく楽しさもあるんだよなぁ。「お前の技、覚えたぞ」みたいな。コピー系能力者の気分になって自分を慰めてますよ(笑)。 redjuice それは確信的な意見だと思います。
僕もredjuice的な作風として「少女×メカ」というように言われることもあるんですが、自分のブランドとして意識して作り上げたわけではなく、あくまでもクライアントワークの一環として生まれた”環境適合”の一つにすぎないと考えています。
以前担当した伊藤計劃の劇場アニメシリーズ(外部リンク)は、3作品それぞれの世界観に合わせて絵柄を個別に調整しています。 NaBaBa 共感しつつも、やはり嫉妬してしまいますね。
redjuiceさん自身の評価や感慨は別であるとは思うんですけど、自分から見ればどの作品も差異はありつつも「redjuiceが描いた絵だな」と認識できるんですよ。ブランドってそういう物じゃないですか。
僕にはそれがないから、「仕様通りに納品されれば誰に頼んでも良い」という仕事にすがりつくしかないんです。
それこそ泥水を啜る思いで、コンサバティブな絵でも、児童向けでも、ご注文とあらば、あなた色に染まりますってスタイルで続けてきました。クレジットされない仕事もごまんとあります。
redjuice まず、それを可能にしている絵の基礎力と対応力がすごいですよ。下手に作家性が認知されてしまうと、クライアントも忖度が発生して柔軟な発注ができなくなりますからね。
──ちなみに、redjuiceさんは「自分じゃなくてもできそうな仕事」の依頼は来ますか?
redjuice 一時期のソシャゲバブルの時は特に。依頼内容が自分好みでないというのもありますが、まず第一に金額が安い事が多いので、滅多に受けないですね。
キャリアを積んでもプレッシャーからは逃げられない
NaBaBa 話が少し変わりますが「お客さんが求めている価値」は絵の先にある、というのが僕の持論で。それは音楽だったり物語だったり体験だったりする訳ですが、そんな核心的価値にお客さんがリーチする直前、手に取りたい欲を煽るのに長けているのがイラストだと。
逆に言えば、そこまでがイラストができる事の限界だとも思っているんです。
redjuice 僕がアニメ『ギルティクラウン』を担当した時に描いたキービジュアルはデザイナーの草野剛さんと一緒に進めたのですが、余白をかなり大きくつくってます。これは文字やコピーが入る事を想定している絵です。
キャラクターのポーズや構図も、普段の自分が描く一枚絵ではあまりやらないようなことに挑戦していて、デザインと一体になった時にはじめて生まれる価値というものがあることを学びました。 ──NaBaBaさんの「プロジェクトセカイ」のビジュアルはどういった経緯の仕事なのでしょうか。
NaBaBa 知り合いのプロデューサーの方に紹介してもらいました。ただ最初は断ったんですよ。キャラクターが26体に対してスケジュールが滅茶苦茶タイトという実務的な懸念もありましたが、何よりも僕には相応しくないと思ったんです。
「プロジェクトセカイ」並びに「初音ミク」は多くの熱烈なファンと歴史、文脈がある。対する僕はほぼ門外漢でしたし、自身の絵と名前でお客さんを連れてくるだけのブランド力もない。だったら若手含めてこの案件を熱望しているイラストレーターが他に大勢いるだろうから、彼らに任せるのが筋だろうと伝えたんです。
ただ最終的に実務の遂行能力を買われて引き受ける事にしました。ならば本気出しますよ。先にもお話した様に、お客さんが本当に求めている価値は絵ではない。絵の先にあるキャラクターであったり物語なんです。だから描き手の僕自身も、その価値を理解しなければならない。単に上手に綺麗に描くだけじゃなくね。
だから実務と並行してゲームも相当やりこみました。イベントストーリーは全部見たし、リズムゲームの部分もマスターをクリアできる位にまで仕上げました。今なら推しのキャラについて一晩語り通せます(笑)。
redjuice その熱意も含めて、NaBaBaさんはイラストレーターとしての生存戦略をちゃんと考えられていて、すごいです。なかなかできることではない。
例えば、締め切りを守れなくて、どれだけ絵が上手くても続けられない人もいる。僕も締め切りに関しては、怪しいところがあるし……。
──ただ、それでもredjuiceさんはイラストレーターを続けてこられている。
redjuice まぁ、なんとか。みなさんのおかげです……。
──NaBaBaさんは納期管理がかなりしっかりとしているイメージです。
NaBaBa いやいや(笑)。そもそも僕がイラストレーター業界でまとも枠に入ってしまう事自体がどうかしている。
これは自戒を込めての発言ですが、イラストレーターの職業意識はもっとアップデートしなければいけないと思うんです。
ゲーム会社時代に席を並べて働いていた、3Dモデラーやプランナー等の他業種のフリーランスの方々は、僕が霞むくらいしっかりしていました。
まず工数管理が徹底していて、そこからのギャラ提示を行う。請求書や契約書の確認や交渉もきっちりします。スケジュール管理も本当に厳密で他セクションの進捗にも気を配り、足並みが乱れていれば調整するくらいの視座を持っている方がたくさんいました。
それ以外にも国民年金基金や確定拠出年金に入って、フリーランスの社会保障面での不利を少しでも埋めようとしていますし、その為のiDeCo/NISA勉強会を自主的に開いてもいました。
彼らに比べれば僕なんてルーズにも程がある。スケジュールだってデッドラインを越えた事さえないものの、当初よりも延ばして貰う事が常態化してしまっている。その度に誰かが犠牲になっている事を考えると、僕はしっかりしているなんて口が裂けても言えません……。
redjuice 当然、それに甘んじてはいけないですけどね……。締切の延長というのは、執行猶予付きの有罪判決ですから。
"redjuice"という作家性が認められているからこそ、クライアントや世間の「期待に応えないといけない」というプレッシャーが大きくなる。むしろ、期待されている以上の品質で応えようとする。それで何度も考えたり、やり直したり──上手くいかずに精神的に追い詰められることもある。
特にキービジュアルの仕事は作家側にアイディアを求められる場合も多くて。絵柄から構図まで、すべてを検討する必要があります。
NaBaBa 「仕様化しきれていないクライアントの要望をカウンセリングする」は発注あるあるですね。というより、それも含めてイラストレーターの実務だと思うんですよ。
個々人がベストパフォーマンスを発揮する──イラストレーターであれば良い絵を描くのは言うまでもないこと。その上で互いの業務を上手くシナジーさせる為に、如何に上手くコミュニケーションをとれるか。僕の経験上、プロジェクトの成否は結局そこにかかっている気がしますね。
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