開催のたびにその規模を拡大させてきた本大会だが、MCバトルの大会を日本武道館で行うのは初。平日であることや日本武道館のキャパシティなど、客入りが心配されたが、蓋を開けてみたらチケットは瞬く間に完売。名実ともに国内最大のバトルイベントとなった。
新時代を牽引するラッパーたちのベストバウトの数々
過去の大会を彩ってきた実力派・人気ラッパーたちが凌ぎを削り合っただけでに、数々の名勝負が生まれたが、ここではベストバウトを選出。YZERR vs RACK
左:YZERRさん、右:RACKさん
YZERRさんはフリースタイルダンジョンでも活躍するT-Pablowさんの双子の弟。兄とは同じヒップホップクルー・BAD HOPのメンバーでもあり、ユニット・2WINも組んでいる。そして、第5回大会の覇者にも輝いている。
一方のRACKさんは、第3回から第7回まで、5大会連続を記録しているラッパー。第5回で念願の決勝進出を果たすものの、あと一歩のところでYEZRRさんに敗れている。
なによりも印象に残ったのはYEZRRさんの明らかなスキルの上達だった。独自性の高いライムの内容や韻の固さに定評にあったYEZRRさんだが、これまではそれらを重視するあまりか、リズムキープに難があり、かつてその点をRACKさんに見事に攻撃されて危うい場面もあった。しかし、今回のYZERRさんはビートへのアプローチも完璧かつ、もともと強いライミングにさらに説得力が増していた。
RACKさんは得意の高速ライミングを見せることもできず、審査員のMARIAさんは「RACKはこんなもんじゃないって知ってるから、もう一回(延長)あってほしかった」と言葉をこぼす場面もあった。
LICK-G vs 裂固
第9回大会の決勝は、これまで「高校生RAP選手権」が築き上げてきたものが表出したハイレベルな戦いとなっている。それだけ、このバトルの期待は大きいものがあり、観客の歓声も一際大きくなっていた。
LICK-Gさん
裂固さん
対して烈固さんは切れ味の鋭い言葉を連続して出すことができず、審査員の鎮座DOPENESSさんは「(第9回に比べて)怖くなくなってた」と評。結果はLICK-Gさんの勝利だったが、大会随一のスキルを持つ両者のバトルの面白さは健在だった。
じょう vs YZERR
第一回戦を勝ち上がった二人による一戦。じょうさんは第6回高校生ラップ選手権の2回戦で敗退。以降、特に目立った成績を残していなかった。対してYZERRさんは上述した通り、第5回の覇者だ。ビートはSOUL SCREAM「蜂と蝶」。じょうさんは1回戦で肩の力が抜けたのか、「フッドの街 背中を背負ってるんだよ(中略)夢を描いてるトムソーヤァァア!」「こいつは単なるボロ雑巾! 俺が遊戯でこいつが城之内イィィ!」と独自性の高いパンチラインを連発し、会場のボルテージを一気に上げる。
対するYZERRさんは「城之内」を連続で踏み返す「どの口 で言ってんだ 序の口 EI YO 今日は取りに来た じょうの首 地元で話せよ 今日の愚痴!」(個人的にはここでYZERRさんが『遊☆戯☆王』を知っているであろうことでアガった)。
完全に互角の勝負にもつれこんで延長へ。先行のYZERRさんは自身がすでに高校生ラッパーではなく、アーティストであることを般若やAK-69といった大御所の名を挙げることで論理的に説明する一方、じょうさんは「面白みのない」と一蹴。歌い上げるようなフロウに最後の「調子どうや グランドマスターこいつのケツの中にプラスチック爆弾!」で一気に勝利をもぎ取った。
T-Pablow vs MCニガリa.k.a赤い稲妻
T-Pablowさん
共に「高校生RAP選手権」でプロップスを得たラッパーであり、この二人なくしては武道館でやるような大会にもなっていなかっただろうし、もしかしたら未だにMCバトルはヒップホップヘッズにしか見向きのされない、小さな地下文化に収まっていたかもしれない。「高校生RAP選手権」でもすでに戦ったこともあり、またチームを組んでバトルに出るなど、その親交も周知のMCニガリとT-Pablowさんだが、今回の戦いは予期せぬ方向へと動いていった。
左:ニガリさん 右:T-Pablowさん
これに対して、ニガリさんは露骨に怒りを示し、ビートに乗せてラップするというよりも、ふつうに言い合いに。ついには「こっち向けよ」とドスを効かせた声で睨みつける場面も。
それを察知したのか、普段は時間の都合からも延長戦をなるべく止める役に回る司会の小籔さんが、率先して審査委員長の漢さんに延長を求めた。「2回ずつ優勝している二人が、裏でしゃべればいいようなことをして終わるってどういうことでしょうか?」と小籔さん。
延長戦では気をとりなおしたニガリさんだったが、やはりT-Pablowさんに的確すぎるdisの前に屈することに。詳しくは下記の記事にも書かれているが、ある種、現在のMCバトルの状況を象徴する出来事だった。
じょう vs T-PABLOW
左:じょうさん 右:T-Pablowさん
準決勝で言×THE ANSWERさんという強敵を倒し、勢いに乗るじょうさんは「T-Pablow 俺の目の前じゃかわいい ちび丸子ぉ!」と、これまでの「高校生RAP選手権」という文化をつくりあげ、多くの同世代のラッパーから恐れられるT-Pablowさんに考えもつかないような韻でいきなり攻撃。
結果は、審査員の満場一致でじょうさんの優勝となった。じょうさんの優勝者インタビューは下記をチェック。
「ヒップホップは流行じゃない、生き方だ」
2012年から続く「高校生RAP選手権」。これまでヒップホップに関心がなかった人も多く巻き込み、「高校生RAP選手権」に出場することを目的にラップをはじめる若いファンも多く存在しているという。現在、MCバトルという文化は、日本のラップ史から考えてもかつてない勢いで注目され、また進化を続けている。それは時に一過性の流行のようにも見られ、そうなった大きな要因として「高校生RAP選手権」の名前がマイナスの方向で挙げられることも多い。
しかし、「高校生RAP選手権」をきっかけに知名度をあげ、一人のヒップホップ・アーティストとして活躍するラッパーは今では少なくない。そのラッパーたちの一人一人の活躍は、決して流行などではなく、人生のすべてを賭けた戦いの結果によるものだろう。
第11回大会の開催も来春に予定されているが、あえて今回の第10回大会を過去出場者だけの特別編としたことは、一つの歴史の節目でもあると考えることができる。
若き才能が集うこの大会がどのように日本のラップシーンへと寄与していくのか、今後がさらに楽しみになる大会であったことは間違いない。
※記事初出時、一部表記に誤りがございましたのでお詫びして訂正いたします
写真提供:BSスカパー! BAZOOKA!!! 第10回高校生RAP選手権in日本武道館
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1件のコメント
怪しいものでは有馬先生
第5回に延長ってありましたか?
7かいでは?