幕引きと次への幕開けにふさわしい
──そんな「ミカヅキ」ですが、プロデューサーとして初めて聴いたときの印象はいかがでしたか?森 正直にいって「『乱歩奇譚Game of Laplace』のためにつくられたんじゃないか」と思うくらい、作品へのフィット感がすばらしかったです。監督含め、現場の人間が満場一致でOKでした。
今回は、作品の世界観に合わせて「少し鬱々とした雰囲気を感じさせつつ、でも共感を呼ぶ曲」がほしいというお願いをしましたが、内容が難しいだけに、正直エンディングについては難航するだろうと予想してました(笑)。
でも、さユりさんの「ミカヅキ」を聴いた瞬間、「これはいける!」と(笑)。一発でみんなが納得するというのは、なかなか珍しいケースです。メロディーや歌詞の世界観が、アニメで描きたかったものにマッチしていて、スタッフもすごく喜んでいました。
さユり 私自身、ノイタミナ作品が以前から好きだったので、すごくうれしいです! エンディングのお話をいただいてからは、改めて、今までどんなアーティストがオープニングやエンディングを担当してきたのか調べました。
各作品の公式Webサイトにあるアーティストさんのコメントを読むと、みなさん特別な気持ちを持っていたのが伝わってきて。自分もその一員に加わりたいと、強く思うようになりました。 森 ちなみに好きなノイタミナ作品は……?
さユり 『東のエデン』です。
森 『東のエデン』のエンディング・テーマ「futuristic imagination」(school food punishment)も、すごく作品にフィットしていましたよね(※江口さんは同曲のアレンジを担当)。
江口 ありがとうございます(笑)。僕自身、タイアップ曲は、わかりやすく音に映像をつけてもらえる機会だと思っています。だから、アニソンというよりも、カルチャーとカルチャーが交わる場として、音と映像のいい掛け算ができればと考えています。
森 アニメの主題歌は特殊かもしれませんね。主題歌として、作品の顔という役割はもちろん、オープニングとエンディングで、それぞれ求められるものが変わってきます。
エンディングは、毎週30分単位で放送する中で、1話ごとにクロージングしつつ、次への期待感を抱かせる、という難しい役割を背負っています。わかりやすくいうと、“幕引きであり、(次への)幕開けでもある”。かつ、最終話を見たあとに「いい作品だったな」と思わせないといけません。
そういう意味でも、「ミカヅキ」は『乱歩奇譚 Game of Laplace』にマッチしています。例えば、第5話のラストの流れ方は、「すごいものを見てしまった、でも次はどうなるんだろう」と、視聴者の気持ちを衝撃とともに閉じつつ、次回へつなげてくれました。
アニメと「ミカヅキ」の両方に潜む「サナギ」
──第5話を筆頭に、本編と楽曲の親和性の高さが話題になっています。「(ミカヅキを)コバヤシの歌かと思った」という声が聞こえるなど、それらの反響をどのように受け入れていますか?さユり 各エピソードによって、「歌詞の感じ方が違う」といった反応があってうれしいです。特に第5話では、「4話では気づかなかったところに歌詞が刺さった」という意見もあって。
例えば、曲の最後の「次は君の番だと笑っている」というフレーズが、“今まで以上に不気味に聞こえた”とか(笑)。聴いてもらうからには、その人の心に深く入ってほしいので、より歌詞にリアリティを感じてもらえるのはありがたいですね。
楽曲が人とどのように交わるのか──アニメを見た人たちの反応から、そういった声をダイレクトに感じるようになりました。私自身、音楽を介して人との関わり方や生きている実感を感じるので、今、とても生きている実感を得られています。 森 歌詞が本編の内容と自然にリンクしているので、すごい相乗効果ですよね。
さユり 「ミカヅキ」は、満月に対する三日月というイメージから生まれています。2番のサビに出てくる「サナギ」というフレーズも同様で、蝶に対するサナギとして、それぞれの表現が対になっているんです。
とはいえ、ここまでアニメとリンクしているとは思わなかったです。もともと第1話の段階で、コバヤシに自分と共感する部分が多かったので、かなり期待は高まっていましたが……(笑)。
森 それは本当にありがたい話ですね。共感してもらえたからこそ、放送後も作品に没頭して、応援してもらえる。制作側としてはもちろんうれしいし、作品を構成する要素として、関わる人すべてがコミットしているという意味で、幸せな作品だと思います。
江口 フルバージョンの「ミカヅキ」を聴くことで、さらにリンクする部分が出てくると思いますよ。「ミカヅキ」は、きれいなものといびつなものが同居して、それぞれを立体的に味わえる楽曲。
『乱歩奇譚 Game of Laplace』も人が死ぬことがあれば、第6話のようにコミカルなエピソードもある。双方の存在によって、お互いがより引き立ちますよね。
さユり 曲としては1番が“決意”、2番で“葛藤”を描いています。1番で決意するんですけど、後半に進むにつれて、何かにもがいて葛藤する。サビの「それでも」に続く言葉が、より強く反映されていくんです。未完成で不安定な感じを楽しんでもらえると思います。
森 本編でも今後、アケチの過去が描かれる中で、彼自身の葛藤を描く場面が出てきます。一方で、カガミ以降、新たな怪人二十面相が生まれるという現象は、人間誰しもが、“いつはじけてしまってもおかしくない(孵化する)”という意味で、ある種のサナギの状態を表現しています。
実はオープニングアニメーションでも、サナギのようなものが登場しているので、そうしたリンクも含めて、今後を楽しみにしてほしいですね。
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