アニメ『美少年探偵団』西尾維新×坂本真綾対談 青春と無茶ぶりとミステリーと

POPなポイントを3行で

  • アニメ『美少年探偵団』放送記念 西尾維新×坂本真綾対談
  • 〈物語〉忍野忍/キスショットから『美少年探偵団』瞳島眉美まで演じる坂本真綾
  • アニメ制作秘話から、江戸川乱歩のミステリー談義まで
2021年4月から放送・配信中のTVアニメ『美少年探偵団』。

〈物語〉シリーズの忍野忍/キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードに続いて『美少年探偵団』では主役の中学生・瞳島眉美を演じた坂本真綾さんと、両作の原作者である西尾維新さんを迎えて対談を行った。

「なぜ私に中学生役を?」──2人の対談のスタートは、坂本真綾さんが役を演じる上で感じた素朴な疑問から始まった。

アニメスタジオ・シャフトによる独特なアニメ制作現場の裏話や、〈物語〉シリーズとの共通点と相違点、そして西尾維新さんのミステリーへの偏執が紐解かれた。

目次

西尾維新×シャフト初の1人2役(?)

西尾 坂本さんとは、『偽物語』のアニメにご参加していただいて以来ですから、もう10年くらいになりますよね。

坂本 西尾さんはアフレコにわりとよく来ていらっしゃって、いつもおいしいものを差し入れしてくださるんですよ。

──西尾さんは、坂本さんが『美少年探偵団』でも眉美を演じると決まったときにはどう思われましたか?

西尾 もともと『化物語』を皮切りに、シャフトさんにアニメ化していただくにあたっては、たとえ〈物語〉『戯言』とシリーズが違っていても、キャストさんは重ならないようにして全体の世界観をつくっていくという意向が製作委員会にあったんです。

ただ、キャラクターがどんどん増えていってその方針に限界がきたところで白羽の矢が立ったのが坂本さんだったようで。アニメの制作サイドから「眉美を坂本真綾さんでお願いしようと思っています」という話をいただいたときには「それはぜひ!」と即答しました。

もともと〈物語〉に登場するキスショットと忍だって同じ役なのか? と考えると、何段階もある年齢の演じ分けも含めて、眉美以前から坂本さんには5役くらいやっていただいている気がします。眉美も男装姿を含めれば一人二役とも言えますし。

坂本真綾さん演じる、男装姿の眉美

坂本 そこはおもしろいところで、眉美の場合、男装はしても男として振る舞っているわけではないんですよね。見た目だけが変わって、中身は変わらない。だからお芝居を分けていないんです。眉美に関しては、回を重ねるなかでの変化のほうが大きいですね。

はじめのうちは私もがんばって「中学生」ということを忘れないようにしていたんですけど……今は全然意識していない(笑)。眉美の素がだんだん出てきて、それに合わせて私もつくり込まずに演じられるようになっているというか──不思議なフィット感のある役ですね。
TVアニメ「美少年探偵団」第1話~第3話 ダイジェストPV
西尾 坂本さんの中では、忍と眉美はどういう意識で演じ分けられているんですか?

坂本 忍と眉美では口調から年齢からあまりにも違うので「演じ分けよう」と思わなくても違うというか。スイッチが全然違いますね。
終物語 / 「しのぶメイル」PV
──今回の眉美役に関しては、坂本さんにはどんな形でオファーがあったんでしょうか。

坂本 「こういう作品で、ぜひヒロインの女子高生のイメージに合うと思いまして」と打診がありました。その時点ではまだ原作を読んでいなかったので「最近、女子高生役なんてやっていないから大丈夫かな?」と不安になりながらも、西尾先生の作品だし、きっと考えがあっての打診なんだろうなと思ってお請けしたんです。

それで原作を読んだら「あれ? 中学生じゃん!」と余計にびっくりして(笑)。普通はなかなか中学生に私をキャスティングしないですから「おや?」と。5人いる美少年探偵団の役者も若手が揃っていたので「なんでこの中学生を私にやらせようと思ったんだろう?」という謎からこの役には入りました

1話のアフレコ前には美少年探偵団役のみんなに「ごめん、今日どうやっていいかわからないから時間がかかるかもしれない」と言っておいたくらいです。アフレコにいらした西尾さんにも不安すぎて「眉美、こういう感じで大丈夫ですか?」と聞きに行ってしまいましたよね。それでテスト録りをしたら「そんな感じでオッケーです」と監督と音響監督から言われ、ますますわからなくなりました(笑)。

だけど話数が進むにつれて眉美は徐々に素が出てくるんですよね。そこが女性から見ると非常に親近感が持てるところがあって。男子が夢見るような女子ではない、「ああ、中学生の頃こんな感じだったかも」と自分のことのように受け入れられる、かっこつけない感じの女の子なんです。だから私も「リアルな女の子像が描けたらいいのかな」と思いながらやらせていただいています。

〈物語〉シリーズとの比較から見える『美少年探偵団』の魅力

──作品として見て〈物語〉シリーズと『美少年探偵団』で相通じている部分と、違う部分、それぞれどう捉えていらっしゃいますか?

坂本 共通しているところは……台詞が長い(笑)。〈物語〉シリーズでも忍がずっとしゃべっていることはよくあったので今回も覚悟はしていたんですけれども、〈物語〉で主役の(阿良々木)暦を演じていた神谷(浩史)さんの苦労がわかりました。でも、今回の作品でも(咲口)長広役の坂泰斗さんは台本6ページ分ぶっ通しでひとりでしゃべり続けるシーンなんかがあって、眉美より大変なんじゃないかな?

西尾 〈物語〉にしても『美少年探偵団』にしても「あれ? アニメってこんなに台詞長かったっけ?」と思いますよね。

坂本 逆に違う点は、もちろん主人公が男女というのもありますけど、私の思う暦は、いざというときにすべてを受け入れる懐の深さが見える人物なんです。一方で眉美にそういうところがあるかは、今のところはわからない。

西尾 もともと、眉美は美少年探偵団の仲間に入れる予定ではなかったんですよ。そういえば名前に「美」って入っているな、とあとから気づいたので仲間に入れました。

坂本 えっ?(笑)

西尾 いや、それは冗談ですけど(笑)。書きながら、どうも眉美は感化されてどんどん変人になっていく資質があるなと思って仲間に入れてみたんです。その結果、美少年探偵団の面々とわたりあえる逸材になっていきました。

坂本 眉美はそれまで学校や家庭では、なるべく一般的なものに合わせる生き方をしようとしてきたのかな、と。だけど美少年探偵団の5人と出会うことで本来の姿がどんどん出せるようになって、自由になっていく。

そこは〈物語〉とも通じるところで、暦もいろいろな人との出会いの中で変化していく。ふたりとも10代のときしか得られない人間関係のなかで自分ができていく感じがして、それが私のような大人になった人から見るとまぶしくもあり、素敵だなと思いますね。“青春”に見える

西尾 アニメの『美少年探偵団』を見ていると心が痛いですね。こちらは大人になってしまったので。

最初に『美少年探偵団』を書いたのはもう5、6年前ですから「ああ、書いた書いた、この文章!」と思いながらアニメを観ています。「今、同じこと書けるかな?」と自分で書いたものに若さを感じる部分もあります。

今まで自作をいくつかアニメ化していただいていますが放送は久しぶりな感じもあって、初めてアニメ化された『化物語』のときのように、嬉しくも気恥ずかしい。

坂本さんから“青春”という言葉がありましたけれども、『美少年探偵団』では〈物語〉シリーズの阿良々木くんたち高校生よりも年下の中学生にすることで、放課後に美術室に集まってはしゃいだりといった“楽しい学校生活”を描きたかったんです。暗くならないようにしよう、と。 〈物語〉シリーズは、アニメではフォローしていただいていますけれども、時としてすごく暗い話になっているんですよね。なので、こちらに関しては、なるべくそうならないように心がけていました。ただ……よく知らないんですよ、“青春”って。これで合ってるのかな?

坂本 (笑)。『美少年探偵団』は出会えてよかったと思える“仲間”との喜びを書いているお話なのかなと思っていて。構図としては「たくさんいる美少年のなかに女の子がひとり」なんですけど、よくあるような「それぞれと雰囲気がよくなって……」ではないじゃないですか。

西尾 ラブコメにはならない。そこは成功したところですね。

〈物語〉シリーズも本来はそのはずだったんです。阿良々木くんと戦場ヶ原(ひたぎ)さんが付き合うことになるはずではなかったんです。阿良々木くんは俗世を捨てたクールな男、高校生の恋愛とは切り離されたキャラクターとして描いたつもりが……2話で崩れた(笑)。その後はご存じの通りです。

その点、『美少年探偵団』はブレませんでしたね。そして、眉美がどんどんクズになっていった

坂本 眉美って「クズ」「クズ」言われるんですけど「そんなにクズかな?」と私は思っちゃう。私がクズなのかな?(笑)

西尾 眉美は話が進んでいくにつれて横柄になっていくという、僕が書いているなかでは珍しいキャラですね。

たとえば阿良々木くんは、話が進むにつれて自分の居場所を見つけて、落ち着きを得ていく。でも眉美はだんだん暴れていくんですよね。今回のアニメで久しぶりに最初の頃の彼女を見て「はじめは落ち着いた依頼人として出てくるんだよな」と思い出しました。

坂本 そうなんですよ。

西尾 ……もしかしたら、僕も眉美のことをクズだと思いすぎていたかもしれない。

坂本 あはは(笑)。でも眉美が邪険にされる、ぞんざいにされるところが見ていて気持ちいいんですよね。 西尾 5人から「俺達はなんてやつを仲間にしてしまったんだ」と思われているのが、書いていても楽しい。もともと眉美は探偵団への依頼の仲介役みたいな形を考えていたのが、そうはならなかった。でもそれは嬉しい誤算で、だからこそ筆が進んだ。

こちらの予想を裏切る膨らみを見せたという点では、忍もそうですね。『化物語』の時点ではしゃべらない、ずっと座っているだけで終わった吸血鬼。それが『偽物語』でしゃべりはじめ、今や阿良々木くんの相棒ポジションですから。勝手に動いてくれた。

坂本 ああ、私も眉美に関しては“勝手に動く”感覚、けっこうあったかもしれないですね。現場でみんなで声を合わせてみて「こういう言い方するんだ」「こんな声で驚くんだ」みたいに初めて出てくる自分の声もあって。

私はもともとアフレコには事前にあまり考えないで臨むタイプで、現場で相手役の声に返す、そのキャッチボールによってキャラが勝手に動くような瞬間がありますね。コロナ禍でみんなでいっしょに録れないとそういう奇跡が起こらないのが残念なんですが、この現場は幸いにして美少年探偵団の面々が、二部屋に別れてではあるけれども全員が集まって収録できているんです。

アフレコ現場に緞帳があってひとりずつ仕切られていて、その幕ごしにしゃべるんですけど(笑)、それでもやっぱり同じ時間に同じ空間で演じているからこその奇跡がすごく生まれている感覚があります

──〈物語〉シリーズと『美少年探偵団』ではアフレコ現場の雰囲気も違いますか?

坂本 『美少年探偵団』は、回を重ねるごとにキャスト陣の中で「ひとつのグループなんだ」「グループで何を表現する?」というチーム感が強くなってきているのが特徴なのかなと思っています。

〈物語〉は、もっとキャラクターの「個」としての強さが際立っていたんですよね。演じる側も個性豊かでお芝居もものすごい方ばかりが集まって、「腕が鳴るぜ」「あなた、どう出ます?」みたいな無言の駆け引きが楽しい現場だったんです。もちろん長い年月をともにしてきたファミリー感はあるんですけれども、女性キャラクター同士はとくに横のつながりというか、絡みが必ずしもたくさんあるわけではなかったですから。そこは『美少年探偵団』とは違いますね。

西尾 〈物語〉シリーズでは1話につきひとりキャラクターを掘り下げて、阿良々木くんとの1対1の会話を書いてきました。『美少年探偵団』では常に団体で行動する、チームとしてのキャラを書いてみたいと思ったんです。今回、第1話だけアフレコの収録を見させていただいたんですが、良い刺激を受けて、早速新作を書きました。 坂本 そのお話を聞いてキャスト陣みんなで「筆が乗ったということは、私たちよかったってことだよね?」とホッとしていました。

西尾 演じていただいているみなさんから「このキャラクターはこんな風にしゃべるんだ」と教えてもらっているような感覚でしたね。文章を書いている時点ではアニメ化されるなんて思ってもいませんから、たとえば「プロの声優もかくや」と書いていた美声の持ち主である長広はこういう声なんだ、と。

坂本 原作を読みながら「長広の声優さん、すごくハードル上げられているけど、誰になるんだろう?」と思っていました(笑)。

西尾 『美少年探偵団』以外でも、小説で文章によって表現しているからこそできるはずの無茶をシャフトさん、声優のみなさんに映像化してもらっているところがあるんですが、今回も想像を飛び越えてきてくださって、嬉しかったですね。

物語序盤でキーになる星空の美しさしかり、オープニングやエンディングしかり。『化物語』のアニメの終盤にも星空が出てくるんですけど、今回は1話に出てくる。アニメを観て、どうも僕は星空を好きらしいと気付きましたね 坂本 眉美が夢を語るときの絵本みたいな映像もきれいでしたよね。長い台詞をひとりでしゃべっていると「聞きづらいかな?」「単調になっちゃわないかな?」という心配が出てくるんです。でもシャフトさんの場合、絵がとにかくきれいでカット数も多く、画面のテイストもどんどん変わっていく。 だから声ですべてを表現しなくても、きっと映像で思いがけない表情や動きを見せてくれるんだろうなと信じて委ねられる安心感があるというか、助けられています。といってもアフレコ時点ではできている映像はあまりなかったりもしますけど、監督が「自由にやってください。絵はあとで合わせられますから」と言ってくださって。だから今回もフレキシブルに演じることができました。

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アニメ「美少年探偵団」公式サイト

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プロフィール

飯田一史

飯田一史

ライター・批評家

マーケティング的視点と批評的観点からウェブ文化や出版産業、マンガなどについて取材・調査・執筆。単著『いま、子どもの本が売れる理由』『マンガ雑誌は死んだ』『ウェブ小説の衝撃』等。Yahoo!ニュース個人(年間486万PV)、現代ビジネス、新文化、日刊サイゾー等に寄稿。

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん

西尾先生と真綾さんの対談とても素敵でした。長年の付き合いのあるお二人ならではの空気感が読んでいて伝わるようです。私自身もお二人のようにもっと色々な作品に触れていこうと思います!

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