台詞(言葉)に還元できない画面の豊かさを生み出す、無茶ぶり

──演技に関して、音響監督から坂本さんへはどんなオーダーがありましたか?

坂本 「眉美はなるべく“普通じゃない”ような演技をしてほしい」と。台本にある台詞だけでなくて、この作品では映像に付けるアドリブのお芝居や驚いた声、走っているときの息……そういうものがすごく多いんですよ。

たとえば眉美が口笛を吹いて動揺を誤魔化しながら歩いてる場面。だんだんろくに吹けなくなってぐだぐだになる場面での口笛とか、長広にバリトンボイスを教わって練習するシーンでは「出せる限界の低い声でお願いします。歌はうまくない感じで」とか。それを「普通じゃなく」やるってどういうこと? と考えるのが楽しくもあり難しくもあります。 普通だったら「あわあわしている息の表現ください」くらいのところにも、細かい指示があるんです。ほかのアニメのヒロインだったらこんな変な声出さないだろう、ということをすごく求められる。アフレコのテストと本番で演技を変えるのは普通は御法度なんですけれども、この作品では答えがわからないからわざとテストと本番で違う演技をやってみて、それで音響監督さんから「テストの方を使いまーす」ということもありましたね。

西尾 坂本さん以外のキャストさんにもそういった、いわゆる無茶ぶりはあるんですか?

坂本 あります。台本には書いていないけど現場で「自由に海辺で遊ぶアドリブください」とかっていう無茶ぶりを皆さんされていますね。とくに眉美と(足利)飆太はメインでしゃべっているキャラクターの後ろで何かしら動いていることが多くて。 西尾 ああ、そのわちゃわちゃした感じは〈物語〉シリーズにはないですね。あちらでは画面に三人以上いること自体少なかったですから。そこは『美少年探偵団』が団体、チームを描いているからこそのおもしろさですね。

坂本 ただ(指輪)創作くんだけはあまりしゃべらないので、彼とは眉美もほとんど話していないです。キャラクターによって台詞の量の差がすごいですよね。

西尾 創作くんはもともと「1冊に1回だけしゃべる」というキャラクターとして考えたんです。美少年探偵団は番長と生徒会長のように対極的な存在が互いを補い合うことで釣り合う、チームでまとまる──そうするとひと言もしゃべらないキャラも生まれる。だからアニメでも創作は本来2、3話に一度しゃべるだけになるはずなんですね。 ただ、『美少年探偵団』では「1話放送時に、エンディングのクレジットに全員の名前を入れたいから、1話で創作を、笑わせるだけでもできませんか」という打診があって「ぜひお願いします」とお答えしました。

ですからアニメでは、原作にはないシーンで創作が苦笑するしぐさがありまして、それがあるから1話で「指輪創作:佐藤元」とクレジットされている。これも制作陣のチーム感が垣間見えるエピソードでしたね。

ふたりの乱歩体験

──『美少年探偵団』には江戸川乱歩へのオマージュがちりばめられていますが、西尾さんにとっての乱歩体験は? 西尾 たぶん『パノラマ島奇譚』あたりから読んでいますね。新本格から歴史を遡っていくうちに、乱歩や横溝正史世代の作品も当たり前のように履修していました。 西尾 読もうと思う前に、気がついたら読んでいた。少年探偵団ものは逆にあとからだったかもしれないですね。乱歩作品はたくさんドラマや映画、漫画になっていますから小説で読んでいなくても読んだ感じになっていたものもありますし、他のミステリー作品のなかでよく言及されることもあって、読む前からあらすじを知っているものも多かった。

とはいえ「『美少年探偵団』を書いているのに少年探偵団を読んでいない」となったら大ごとだよな、と(笑)。だから『美少年探偵団』を書くにあたって乱歩作品を一通り読み返しました。怪人二十面相は大人の視点で読むといい悪者なんですよ。坂本さんは乱歩は読まれていますか?

坂本 小学生のときに図書室に「少年探偵団」シリーズがあって、全部読みました。小林少年が大好きでしたね。

当時「好きな作家は江戸川乱歩」と言ったら「渋いね」と言われて、楽しい冒険ものを書く作家だと思っていたので「え? 渋いの?」と不思議に感じていました。大人になってから『人間椅子』や『芋虫』を読んで「こんな作品書く人だったんだ」と(笑)。西尾さんは乱歩作品をもとに何か書きたいと思っていたんですか?

西尾 いえ、必ずしもそういうわけではないんです。「忘却探偵」シリーズに登場する掟上今日子のライバルとして探偵団を用意して対決させようと考えていたんですね。しかし「美少年探偵団」というワードが魅力的すぎると思って、独立してシリーズにしたんです。 西尾 ただ、このシリーズ、僕としては非常に無邪気に美少年を書いていますけど、坂本さんのように小学生のときに図書室で愛読していた方々の目を意識せずにはいられず、アニメを観ながら改めて戦慄しています

坂本 大丈夫じゃないですか? 私なんて少年探偵団に夢中になっていたことさえも忘れかけていて、今回お話をいただいて「美少年探偵団? なんか聞いたことあるな」と思い出したくらいで。各巻・各話のタイトルが毎回乱歩作品をもじったものだと気づいて「そういうことか!」と。

西尾 『パノラマ島奇譚』や『D坂の殺人事件』といった僕が好きな乱歩作品のタイトルと「美少年」や「美」を絡ませる形で、このシリーズのタイトルは考えていきました。

でも巻が進むほど絡ませるのが難しくなっていきましたね。僕は先にタイトルを決めて書くことが多いんですが、タイトルに見合う内容を書くとなると。乱歩全作品コンプリートを目指していたのですが。

坂本 そうだったんですね。

──坂本さんはミステリー作品は読まれますか?

坂本 サスペンスはちょっと読みますが、ミステリー小説は昔シャーロック・ホームズとかを読んだくらいで、そこまでは。せっかちな性格だから真相が知りたくてまだるっこしくなっちゃうのかもしれないですね。「早く犯人教えろ!」みたいな(笑)。

西尾さんにひとつうかがいたいんですけど、私、ミステリーを読みながら「この事件ってこういうこと?」「この人が犯人?」って立てていった仮説がことごとく違うんですよ。だから「ミステリーを書く小説家さんの頭の中はいったいどうなっているんだろう? どうやってこんなトリック思いつくの?」と感じてしまうんですが、西尾さんはどうされているんですか?

西尾 書きながら思いつくんです。筆を進めてさえいけばどこかに辿りつきますから。

坂本 結末の構想が先にあるわけじゃないんですね。すごく不思議です。

西尾 正確に言うと、キャラクターを軸にするか事件を軸にするかで変わります。事件が軸の場合はちゃんと先に考えます。僕はキャラクターのアドリブに任せて書き進めているほうが楽しいんですが、さすがに短編でその描き方だと事件が起こる前に規定の枚数が尽きてしまう。でも長編だと最初からかっちり決めないでキャラクターを軸にする方が、アドリブ度合いが上がってコントロールが効かなくなっていくので、筆が乗る感じです。

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アニメ「美少年探偵団」公式サイト

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プロフィール

飯田一史

飯田一史

ライター・批評家

マーケティング的視点と批評的観点からウェブ文化や出版産業、マンガなどについて取材・調査・執筆。単著『いま、子どもの本が売れる理由』『マンガ雑誌は死んだ』『ウェブ小説の衝撃』等。Yahoo!ニュース個人(年間486万PV)、現代ビジネス、新文化、日刊サイゾー等に寄稿。

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん

西尾先生と真綾さんの対談とても素敵でした。長年の付き合いのあるお二人ならではの空気感が読んでいて伝わるようです。私自身もお二人のようにもっと色々な作品に触れていこうと思います!

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