「部屋の匂い」を感じる場にしたい Web音楽即売会「Apollo」座談会

同人音楽の制作姿勢

──もう古参サークルともいえるDiverse Systemですが、最近の活動で何か感じることはありますか?

与作 2年前までは年間4枚の制作だったんですが、色々あって急に年間15枚になり、きちんといろんな余裕があった上で回るようになったかな、と思っています。

DiverseのCDのつくり方って、これまでの参加者でまず挙手取って、足りなければ心当たりの人に打診して、そこから公募取ったりするのだけど、企画出すと結構みんな乗ってくるんですよ。その辺りの制作の流れも健全だとは思います。

変な話ではあるんですが、企画を延期する勇気もしっかり持てているし。2年に1度くらい企画が延期したり落ちたりすることがあるんです。曲数が事情で集まらなかったりなどの理由で。そういう時は素直に「あ、じゃあ次の何時のイベントにしよう」と焦らずきちんとやっていく感じになりました。

DiverseSystemの制作物。曲のジャンルやBPMなどで統一したテーマのもとに一枚のCDが作られている

──逆にきくおさんやAnitaSunさんは、一人でつくる場合の制作の流れはどういったものなんです?

きくお まぁイベントなどに間に合わせるための入稿合わせですね。つくり貯めがあるのでそこから出すけど、締切まで細部を詰めるので結局ギリギリになっちゃいます。

AnitaSun 私の場合は最初に曲調と各曲の秒数を決めて、そこからつくります。

きくお えっ、何ですかそのつくり方……。

AnitaSun アルバムをまるまる一枚通して聞いてもらったときに、あまり飽きずに最後まで聞けるようにつくるには、それしか方法がないので……。

だからつくり貯めも出来ないし、入稿直前に駆け足でつくると酷い目にあうからバッサリ落としちゃう。逆に完成する時はイベントの3ヶ月前にすでに出来ちゃってるとか……。

与作 僕の中ではAnitaSunさんは完全に不思議な人ってイメージです。あと、実はソロでテーマを持った一枚通しのCDをつくれる人ってなかなかいないんです。大体が途中で力尽きちゃう。
Caterpillar Song - bitplane
だからきくおさんも、この物量とクオリティはすごい。作曲についてはまだ理解できるんだけど、その上マンガまでつくれることが僕には理解できないよ。

同人音楽にレビュー文化を

 
──それこそ、pixivが開催ということもあるので、今回のApolloだとイラストやマンガを音楽と一緒に頒布するということも出来ますよね。

のりお まさに可能です。CD、ダウンロードのどちらでも、頒布の際におまけデータが付けられるようになっています。例えばiTunesだと普段歌詞データが付いてないので、歌詞などが載ったブックレットがついてくるだけでも嬉しいですよね。

AnitaSun 昔、洋楽のCDとか買うと解説がついてきましたよね。今はあれがないから次に掘るべきCDがわからないんですよ。

Amazonにも書評しかないし、買った後にはそんな所は見ないからなぁ。

のりお そう! あの解説冊子から周辺情報を得て、他のアーティストも知っていくんですよね。

AnitaSun アニメとかの場合は本編観た後でWikipedia見たり、感想を言い合う環境があるからちょっとうらやましいんです。

──BMSだと今でもレビュー文化があったりしますよね。

与作 あるある。でも大分限られた人数しかいない気がします。

AnitaSun 昔はブログでの感想も簡単に検索にひっかかったんだけどね。今はGoogleで検索してもまず良くてWikipediaかニコニコ大百科、つぎに売り場系のサイトが結果に出て、次にSNSやロボット検索の断片とTorrent交換サイトが大量に現れ、5ページ目位からやっとブログ記事が出てくる感じ。

音楽に感想を言う場はTwitterに吸われちゃって、でもタイムラインがすぐに流れちゃうからアーカイブされないんですよね。どんどん感想が短文になり、かつ流れていく状況なので、最近では逆に「超長文」なコンテンツの価値が相対的に上がってきている気がします。

与作 AnitaSunさんが言ってたことだけど、長文書けば書くほど人が読むってことだね。超まとめも、TOPのを読んで、「あー、ここが入り口なんだなぁ」って思った。

きくお いいですよね、あれ。

AnitaSun もっというと、最悪あの長文自体はあまり読まれなくてもいいんですよ。熱量が伝わるので、それだけで価値がある。(笑)

きくお AnitaSunさんの面白いところは、その熱量がまんま文章中にも出るんですよね。途中で「〜じゃないですか!」って、読んでる自分への投げかけが書いてあったりする。

のりお 「Apollo」もTOPにあれだけ抱負が書いてあるのが重要ですよね。あれがないとpixivがなんで音楽をやるのかわからないし。

AnitaSun あれがないと絶対炎上しましたよね! きっと「pixivは金儲けのことしか考えてないんじゃないか」って。本当は「超まとめ」の名前を出すかも迷ってたんだけど。

きくお あの文章もAnitaSunさんが頑張ってる感じがして好きですよ。

与作 僕もAnitaSunさんが関わってること知らなければ、「んん〜?」って思うことがあったかもしれないね。音楽方面からだと、こちらからpixivに絡むことって何もなかったので、本当なら今更なんで寄ってきたんだろうと思うところなんだけど、AnitaSunさんがOK出してるなら大丈夫なんだなって思った。

AnitaSun 「超まとめ」をリリースするときも、心臓が飛び出るかってくらいドキドキしてたんですよ。

意見を訊きに、大手レーベルの若いプロデューサーさん数人にも見てもらったんですが、彼らは意外にもあの文章にすごく賛同してくれたんです。でもこれから商業やっていこうっていうセミプロくらいの人にとっては、業界批判なので取っ付きにくいはずなんですよね。こんなことをRTでもしたら、商業で上手くやっていけないんじゃないかと思ったりして。

きくお でもそもそもメジャーや業界に憧れを持ってる人も減ってるんじゃないですかね?

AnitaSun 今はまさにそういうタイミングなんですよ……!
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のりお

ピクシブ株式会社開発マネージャー

UIおよびサービスデザインを担当。pixivで実験的に制作されたWebサービス「retime.me」のデザイン・開発を担当。「BOOTH」開発マネージャー。著書に『Rails of Ruby on Rails ~Case of LOCUSANDWONDERS.COM』がある。


Twitter:http://twitter.com/norio

AnitaSun

同人音楽サークルBitplane主催

2014年2月まで「初音ミク」の開発・販売で知られるクリプトン・フューチャー・メディアに勤務。2014年4月にWebサービス「同人音楽超まとめ」をリリースし、ネットで大きな話題を生む。


Web:http://bitplane.info/
同人音楽超まとめ:http://dm-matome.com/
連載:http://kai-you.net/series/44

きくお

作曲家/作詞家

2002年より作曲を、2008年より作詞を開始。DTMによる楽曲制作を主体とし、オリジナル楽曲やVocaloid楽曲、ライブ活動をはじめ、アーティストへの楽曲提供、映画やゲーム音楽・映像作品全般の商業制作、様々な企画立案、自主漫画制作に至るまで幅広く活動中。

Twitter:http://twitter.com/kikuo_sound
Web : http://kikk.uunyan.com/

同人音楽サークルDiverse System主催

2000年に勢いと成り行きで発足した同人音楽サークルDiverse System主催。音楽を書く事、イラストを描く事、デザインをする事『以外』を全て担当。企画運営や金銭管理は勿論、人間関係や夕飯の献立まで相談に乗ります。最近では同人音楽通販サイト「Diverse Direct」も一人で運営。15年ほどコミックマーケットにはスタッフとしても参加。
アーケードゲームの全国一位を幾つか取ったらこうなってました。

Twitter : http://twitter.com/ysk439
Web : http://diverse.jp/
Web(private) : http://www.gamersnest.com/

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