「部屋の匂い」を感じる場にしたい Web音楽即売会「Apollo」座談会

自分で出来てしまうと、他人に頼る余地がない

──ここでちょっとお聞きしたいのですが、ボカロ界隈の人たちがメジャーに行く中で、きくおさんはそのオファーを全部断ったそうで。それがすごく珍しいのですが、その動機をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

きくお 別に個人活動したいという強いこだわりがあるわけではなくて、レーベルの方ともちゃんと打ち合わせをしているんですよ。「きくおさん個人の音楽活動では手の届かない部分、わずらわしい部分を私どもでお手伝いできる事があれば、そこを担わせていただけたら嬉しい」という風にお誘いをいただけるのですが、そこで自分のCDのデザインや流通、制作形態の説明をすると、どのレーベルからも「それでは私達にお手伝いできる部分は何もありません」って回答になっちゃうんです。

これまで5,6レーベルからお誘いがあったんですけどね。自分も手の届かない部分に広がりを持つこと自体には前向きで、一緒に案を考えたりもしたんですが、結果的に何も出来ることがないと。映画の主題歌とかゲームの案件も現状、音楽事務所やマネージャーなど挟まずに受けちゃいますし。

与作 そういう時代だもんね、今。

きくお 仕事を持ってきてくれる方ももちろんいるんですけど、そこと専属契約するほどの必要もないし、マネジメントしたいという人もたまにやって来るんですが、大概のことは自分でやっちゃうから他人に頼む余地が無いんです。

のりお 別に商業レーベルお断りって訳ではないんですね。

AnitaSun でも実際、本当はそうした会社にやってもらうことがないはずなのに、お買い上げされちゃってる人って結構いるんですよね。メジャーから出す看板の大きさの魅力も、もちろんあるのだけれど。アーティスト本人からデザイナーやイラストレーターに連絡したほうが、肌感覚で良い物をつくる人を捕まえられる部分もありますから。

それこそ同人でやれている人については、独力で全部つくるやり方のほうが合っているケースが多いですよね。逆に大きなレーベルでないとできない売り方というものもあって、それはこちら側の人間には極めて難しい。

プロデュースとはヘッドショット率を上げること

 
──やや画一的な言い方になりますが、クリエイターに対する信仰から制作以外は外から手伝ってあげなきゃ、という思いがメジャー側にはあるのではと思うのです。他方で、今はむしろセルフプロデュースできる作家じゃないと生き残っていけない部分もあるのかなと。

AnitaSun 最近では音楽とネットは切り離せないものになってきていますが、少なくともネットでは、今はセルフプロデュースがうまい人が生き残る可能性が高いのは確かですね。その辺があまり上手くない人を見つけて、外から手を加えることで一発当てる例は、ネットに関してはあまり見ないですからね。

のりお そもそもセルフプロデュース力がないと広がらないということなんでしょうね。そしてセルフプロデュースできるならわざわざメジャーに頼る必要がないのでしょう。

与作 今はメジャーだけが持っていた情報もネット上で得られるからね。CDのプレスの方法とかも見つけられるし。

きくお 自分もセルフプロデュースは上手い方ではないと思うんですが、そういう物のおかげで楽に出来過ぎてる感じがするんです。

AnitaSun いやいや、上手いですよ。動画のつくり方とか他の人と絶対カブりませんもん。

きくお ただ単に他人との交流がないせいだと思っているんですが……

与作 ちょっと失礼かもしれませんが、ボカロ界隈から遠い自分の所まで名前が流れてくるきくおさんって珍しいのですよ。

AnitaSun NHKの「みんなの歌」みたいなPVがいきなり出てきて、手描きで何かすごいなぁと思っていたら、あ!死んだ!!、血だ!!!って(笑)。

きくお あれはまだ動画を投稿しても1万再生もいかない時代で、勝負をかけるためにインパクトの強い内容でいったんです。

AnitaSun その考え方こそセルフプロデュース中のセルフプロデュースですよ! 例えばそういう事考えるのがプロデューサーって言うんですよ!

与作 シューター的に言えばヘッドショット率上げるのがプロデューサーってことですね。

AnitaSun 音楽以外にも言えることだけど、複数人でモノを考えると、安打は増えますが、角が丸まってホームラン率が下がるんです。角が丸まると何が起こるかと言うと、2ちゃんまとめサイトに載らなくなるんですよ!

与作 わかりやすい(笑)

AnitaSun 多くの人にフックされるには強烈なネタがないといけなくて、これを複数人でやると絶対にならされちゃうんです。そこをひとりの判断だけで突っ走れば、命中率は極端に下がるけどヘッドショット率だけは上がる。今、そいつらがトップニュースを占拠している中で突き抜けるには、同じく一人の独善的・独裁的な判断で突っ走らないと、まとめサイトが記事にするような衝撃的な何かは中々でてこない。

与作 クリエイター側は火力のパラメータを持っていて、プロデューサー側が命中率のパラメータを持っている感じだね。

AnitaSun そこで補い合える関係だといいんだけど、頭として考える側のメンバーが4人とか5人とかに増え過ぎると、ヘッドショットは狙えないと思います。

与作 ってなると、今俺の目の前にいる、全部1人で出来ちゃったきくおさんはやっぱり強いなぁ。
【次ページ】今回のイベント開催の意義
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