「モノノ怪」は現代に集団と個人のズレを問い続ける
──劇場三部作では、組織としての大義と犠牲になる個人の対比構造を描いてきました。その間、現実社会では犠牲になった個人の告発で組織が崩壊する出来事が相次いでいます。そうした時代の変化の中で何を考えながら制作されてきたのでしょうか?
中村 全体のテーマとして掲げていた「合成の誤謬」(※)は、簡単に言うと集団の正解と個人の正解はズレるということです。つまり、劇中のように集団における権力者や偉い人が言うことは集団にとっての正解なので、個人から見たら本来は気持ちのいいものではないはずなんですよ。
ただ、最近の世間を見ていると、本来個人にとっては気持ちのいいことを言わないはずの偉い人が、個人にとって気持ちのいいことを言いはじめているように感じるんです。
「合成の誤謬」感が薄れてきているというか、集団の正解と個人の正解はどうしてもズレてしまうわけですから、偉い人が個人の正解に近いことを言うのはかなりおかしな状態とも言えます。
そうやって、個人に寄り添うことを良い事として支持を集める人が偉くなる流れが生まれている。それは果たして正しいのか? 一方で個人と集団はズレていれば正しいと言えるのか? そんなことをぐるぐる考えながら制作に臨んでいました。
※「個々の構成要素について正しいことが、全体にも当てはまるとは限らない」という考え方。特に経済学においては、個人にとって合理的な行動が、全員同時に行うと社会全体では非合理になるという意味で用いられる。
越田 「合成の誤謬」というテーマは、SNSなどを通じて、個人の思いや集団の思想などがうねりにうねっている現代にこそ響くものだと思います。でも、それを「モノノ怪」のような時代劇で描くというのはかなりアクロバティックだなと改めて感じました。
中村 そこに今回さらに宗教を絡めて描いたのは、もう論理的な説明では済まない領域の話だと思っている、という理由もありました。
たとえば、御水様の説く集団の正解は、三代目御台所や幸子のような個人の立場からしたら到底受け入れられない。人の心がないような判断ではありますが、集団にとっては正解なんです。
それをピュアに貫こうとすると、個人の事情を無視することになる。ただその集団も、本来は個人の集合体なはずなのでパラドックスが生じる。この問題はもう僕らには乗り越えられない気もしています。
思考と感情の対立にも似ていて、どちらも正しくあり、どちらに寄せすぎるのもよくない。ただ、現代は少し感情に寄りすぎているような気がして、もうちょっと思考寄りになってもいいのではないかとも思いつつ、本当に大切な感情は捨てて欲しくないとも思ってしまいます。
中村健治総監督
──本作の最後もはっきりと決着をつけるものではありませんでした。
中村 全ての白黒をはっきりさせる意識はなくて、できるだけソフトランディングにしたいと考えていました。もちろん「大奥も何もかも全部燃やしてリセットしてしまえ!」みたいな決着のつけ方もあったかもしれません。
しかし、一見諸悪の根源を絶っているようでも、大奥がなくなることで生活できなくなる人もいるし、犠牲者も出てしまうかもしれない。だから大奥そのものを焼き払うとか、仕組みを崩壊させるのはやめておこうと最初から決めていたんです。
──劇的な展開で決着させる方が、作劇的には気持ちのいい締め方にも思えてしまいます。
中村 アニメの現場では特にそういう展開が好まれる場合もありますからね。でも、そんなに劇的な何かが起きなくても日々状況は変わっていく、ということは現実でもあると思うんです。そういう決着のつけ方は意識していました。
Ⓒツインエンジン
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イベント情報
劇場版モノノ怪 第三章 蛇神
- 公開
- 2026年5月29日(金)
■キャスト
薬売り:神谷浩史
幸子:種﨑敦美/天子:入野自由/溝呂木北斗:津田健次郎/水光院:榊󠄀原良子
アサ:黒沢ともよ/時田フキ:日笠陽子/大友ボタン:戸松 遥
時田三郎丸:梶 裕貴/嵯峨平基:福山 潤/坂下:細見大輔/時田良路:チョー/藤巻:堀川りょう
天局:ゆかな/常磐井:平野 文/カワ:本多真梨子/溝呂木朔:竹本英史/三代目御台所:沢城みゆき
■主題歌
「No Epilogue」アイナ・ジ・エンド(avex trax)
■スタッフ
総監督:中村健治/監督:越田知明/脚本:新 八角
キャラクターデザイン:永田狐子/アニメーションキャラデザイン・総作画監督:高橋裕一
美術設定:上遠野洋一/美術監督:倉本 章 斎藤陽子/美術監修:倉橋 隆
色彩設計:辻󠄀田邦夫/ビジュアルディレクター:泉津井陽一
3D監督:白井賢一/編集:西山 茂/音響監督:長崎行男/音楽:岩崎 琢
プロデューサー:佐藤公章 成瀬晃一 加藤はるか 上松南菜子/企画プロデュース:山本幸治
製作・配給:ツインエンジン/制作:スタジオカフカ EOTA
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