壱百満天原サロメが“お嬢様になれた”夜──1stライブ「マイフェアレディ」レポート

壱百満天原サロメが“お嬢様になれた”夜──1stライブ「マイフェアレディ」レポート
壱百満天原サロメが“お嬢様になれた”夜──1stライブ「マイフェアレディ」レポート

にじさんじVTuber・壱百満天原サロメさんの1stライブ「マイフェアレディ」

VTuber/バーチャルライバーグループ・にじさんじに所属する“サロメ嬢”こと壱百満天原サロメさんの1stライブ「マイフェアレディ」が、2月21日に幕張イベントホールにて開催された。

今回は「にじさんじ 7th Anniversary Festival」(通称・にじさんじフェス2025)と併せて開催された、同公演の模様をレポートする。

ただその前に、触れておかなければならないことがある。公演が開催される1週間前に、販売業者の不備によるチケットの未売が発覚した事件についてだ。9000ほどの会場キャパに対して、その数なんと1000枚以上。

しかし、決して業者の不手際を改めて指弾することが目的ではない。

壱百満天原サロメさんが、本来であれば落胆した様子を見せても誰も咎めなさそうなところを、丁寧に言葉を選びつつ、あくまでポジティブに伝える姿勢を見せたこと。

即座に自ら宣伝配信の枠を取り、多くのにじさんじライバーに電凸をしたこと。

チケット未販売を受けた壱百満天原サロメさんの配信

心よく引き受けてくれる者、悲しさや悔しさを率直に滲ませる者、一芸で笑いに変える者など、にじさんじというグループの温かさが可視化されたこと。

そしてその甲斐あってか、チケットが無事完売したこと。

これらの過程そのものが「マイフェアレディ」と密接に関わるものだったことを、私たちはそのミュージカルのような公演を通して知ることになったのである。

取材・文:北出栞 編集:恩田雄多
※取材は配信での視聴

目次

“一般女性”のサロメ嬢が、なぜ舞踏会を開催できたのか?

公演は壱百満天原サロメさん自らによる影ナレの後、映像演出から幕を開けた。

舞台上に設置された、大きな2枚のパネル。そこに3D空間の街中が映し出され、観客ひとりひとりも今回のコンセプト「夢の舞踏会」のゲストであることを示す、手描きの招待状が届く。

観客は舞踏会へと招待される

会場まで一人称視点で移動していき、扉が開いてキービジュアルが映し出され、壱百満天原サロメさんが登場した。

本公演のタイトルは、オードリー・ヘプバーンさん主演で映画化もされたブロードウェイミュージカル『マイ・フェア・レディ』から取られているのだろうか。原作のあらすじは、貧しい花売りの娘が言語学教授の手引きで礼儀作法を身につけ社交界デビューするが、その顛末は……というものだ。

この記事を読んでいる方には説明不要かもしれないが、壱百満天原サロメさんは「ドレスを着てお嬢様言葉でしゃべるが、お嬢様に憧れる一般女性」というプロフィールを持つ人物。

ステージに現れた壱百満天原サロメさん

そんな“今はまだ一般人”の彼女がなぜ、舞踏会を開くことができたのか。今回のライブはその謎を、ミュージカル仕立てで解き明かしていくものだった。

1曲目「ハッピーエンドプリンセス」(上坂すみれ)のカバーを歌い上げ、舞踏会への憧れを口にしたところで、怪しげな魔女がやってくる。2Dでひらひらと舞う記号的な姿であったが、ベテラン声優の朴璐美さんが声を当てており(編注:キャストは終演後に公表された)、存在感は抜群だ。

派手な演出も相まって盛り上がる会場

雪(を模した紙吹雪)が降ってくる演出や、魔法で舞踏会会場が形になっていく映像演出をバックに、舞踏会の準備が整っていく。

しかし「なんて夢見がちな小娘だろう!」「見届けてやろうじゃないか、あの小娘が愉快に踊る姿と、その結末を」と、壱百満天原サロメさんのいないところで魔女は呟き、観客の間に不安が広がる。

魔女と壱百満天原サロメさんのコミカルなやり取りも

ゲストへ振る舞うケーキも出来上がる

ゲストに振る舞うケーキの準備が整ったところで、そのゲストたち──周央サンゴさん、アンジュ・カトリーナさん、ジョー・力一さん、卯月コウさん、樋口楓さん、月ノ美兎さん──が登場。それぞれのオリジナル曲を歌いながら登場する、豪華なスペシャルメドレーだ。

炎に包まれる夢の舞踏会、絶望の淵から“ダークサロメ”現る

自己紹介を挟みつつ、全員で「シャル・ウィ・ダンス?」(ReoNa)のカバーを披露。

にじさんじの仲間がゲストとして駆けつけ、まさに舞踏会のはじまりか……?

これから夢の舞踏会がはじまるというところで、「あんたたちの楽しそうな顔を見て、私も嬉しい気持ちでいっぱいさ」「この笑顔が、これから絶望と悲しみに染まるのかと思うと、楽しみで楽しみで仕方ないね」とついに魔女が本音を明かし、パーティー会場が炎に包まれる。

「それもこれもみんなあんたのせいさ、あんたが身の程知らずな夢を見たから」「ゲストたちも思い知っただろう、お前のような小娘に期待した自分が馬鹿だったと」と畳みかけ、絶望に沈む壱百満天原サロメさん。

魔女が本性を表したの同時に炎に包まれるパーティー会場

壱百満天原サロメさんも戸惑いを隠せない

全部私のせいなんだわ……私が悪い、私が全部

そこで黒い影──「ダークサロメ」(編注:呼称は終演後の本人のSNS投稿より)が現れる。

「優しい魔法なんておとぎ話だって、最初からわかっていたのにね」

壱百満天原サロメさんが「ダークサロメ」と邂逅

そして歌唱された「てぃ~たいむ」は、初披露のオリジナル楽曲。ダークさとメルヘンさの二面性がサウンド的にも強調され、この公演のためにあつらえられたような一曲だった。

「サロメ」と「ダークサロメ」に分裂し、シンクロしながら踊る演出はまさにバーチャルな存在のライブならでは。会場も動画上のコメントも、言葉にならないどよめきに包まれる。

自罰的な感情に苛まれた壱百満天原サロメさんは、ついにダークサロメに完全に主導権を明け渡してしまう。

とてつもない存在感を放つダークサロメ

背後に燃え盛る炎がダークサロメの異質さを際立たせる

Whisper Whisper Whisper」(Azari)、「パンドラコール」(ヰ世界情緒)と2曲続けて披露される、鬼気迫るダークサロメのパフォーマンス。楽曲が終わった後の、どう反応したら良いのか困惑する会場の空気感が画面越しにも伝わってくる。

パフォーマンスとしては素晴らしく、拍手を送りたいのだが、壱百満天原サロメさんの心境を思うと簡単に賞賛できないという感覚。ストーリーの迫真性に、観客もすっかり呑まれてしまっているようだった。

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壱百満天原サロメさん、次のライブも楽しみです!

来場者の9割は女性ファン「にじさんじフェス2025」が目指した“バーチャルタレント”の実在性

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大石昌良×壱百満天原サロメ「音楽にも物語を」Vol.15

シンガーソングライターにしてアニソン作家、またある時はバンドマンと、様々な活動スタイルを使い分け、独自のクリエイティブを磨き上げる稀代のヒットソングメイカーにしてエンターテイナー・大石昌良。そして、超新星の如く現れると瞬く間にシーンを席巻し、前回のゲスト・渋谷ハルをして「化け物」と言わしめるほどに眩い輝きを放つまでに至ったバーチャルYouTuber・壱百満天原…

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