交渉において“最後はこの一言で”みたいな決まり文句はない
──そういう意味では、選手本人の希望や格闘技ファンの声も考慮されるんでしょうか?
柏木信吾 選手の交渉では本人の要望はもちろん、ファンの方々の「見たい」という声にも耳を傾けつつ、タイミングなども踏まえて、みんなが納得する形を模索しながら交渉しています。
大晦日大会にも出場するカルシャガ・ダウトベック選手(対戦相手はYA-MAN選手)は、ファンの声という意味では象徴的な選手かもしれません。彼は2018年のRIZINデビュー戦で朝倉未来選手に負けて以降、長らくRIZINには出場していませんでした。
でも、ファンからの彼の強さを訴える声や「もう一回RIZINで見たい」という声が多くて、それらを受けてRIZINとして再び契約することになったんです。2024年6月にはおよそ6年ぶりとなったRIZINの舞台で、KO勝利を飾りました。
──選手との交渉時に、柏木さんが選手に対して伝えている言葉などはあったりするんでしょうか?
柏木信吾 日本人選手と外国人選手によって、交渉やアプローチの仕方は変わってくると思います。ただ「いつも最後はこの一言で決める」みたいな、いわゆる決まり文句はありません(笑)。
私が担当する外国人選手の場合だと、当然お互いに気持ちよく仕事がしたいので、選手の適正価格を考慮した上で交渉に臨みます。ちょっといやらしい話かもしれませんが、どれだけ“人参”をぶら下げても、最終的にはお金の話になってしまうので。
柏木信吾 とはいえ、日本で試合を行うことで生まれるベネフィットはきちんと伝えて、最終的には双方がwin-winになるようなところを目指してアプローチしていきます。
あとは交渉の準備段階として、選手の状況やバックグラウンド、どういう団体から声がかかっているといった部分は、ある程度把握するようにしています。
当然、選手が欲しているものは人それぞれ、タイミング次第なので。目標や年齢、現時点のキャリアなどによって、選手の心に刺さる言葉は違ってきますよね。いかにそこを理解して交渉に臨めるかということは心がけています。
集客力に驚いたRIZINファイター──その名は皇治
──ちなみに交渉のやり取りという意味では、最近RIZINの公式Xでの寸劇が話題を呼んでいます。
柏木信吾 RIZINの動画チームから提案されたもので、私も詳細は知らない状態で「じゃあやってください」とスタートしました(笑)。
笹原さんいわく、私が提案したってことになってるんですけど、決してそういうことではありません。新しい手法として、面白くやらせてもらっています。
──柏木さんがすごく頭を悩ませているシーンも印象的ですが、あのような場面は実際にもあるんでしょうか?
柏木信吾 あります。あの寸劇はほぼノンフィクションです。ノンフィクションをだいぶ誇張しているという。たとえばホワイトボードを使って、複数の大会を見通した上で、対戦カードや順番を考える。実際は3人ではなく、チーム全体での話し合いになりますけど。
──一つの大会だけでなく、複数を同時に考える?
柏木信吾 そうですね。各大会ごとのマッチメイクを考えつつも、年間のスケジュールを見渡した上で検討していきます。一つの大会だけに全力を注いでしまった場合、次の大会で満足のいくマッチメイクができなくなる可能性もあります。
なので、年間の大会を一覧にして、それぞれ会場のキャパシティや開催する地域などを考慮しながら決めていく。そういった会議は常日頃から行われていますね。
──マッチメイクが決定した段階で、「これくらいの集客はあるだろう」という予測は立つものなんでしょうか?
柏木信吾 意外と計算できますね。初開催の地域だと前例がないのでわかりませんが、それ以外の大会は、「この選手がいれば、これくらいチケットは売れる」というのは、過去の経験を踏まえてある程度導き出せます。
そういう意味では、勝ち目がない戦いはしないというか、興行的にある程度の勝算を持った上で、マッチメイクを考えていますね。これは当然私だけではなくて、マッチメイクチーム全体で「このラインナップならイベントとして大丈夫ですよね」といったコンセンサスは取るようにしています。
──たとえば「この選手はこれだけ人を呼べるんだ……!」と驚いたことはありますか?
柏木信吾 チケットの売り上げで「すごいな!」っていうのはありますね。特に皇治選手はさすがだなって思います。
柏木信吾 試合が決まると、関係者たちに皇治選手から一斉に営業メールのようなものが送られてくるんですよ。
読むと「すごいな、ちゃんとしてるな」「そりゃチケットも売れるしスポンサーが付くのも納得だな」って思うんですよ。営業が上手で、格闘家でありながらビジネスマンとしてもしっかりしていて、本当に感心しました。
……これ、彼の営業妨害になったりしないですよね?
──良いエピソードだと思います。
柏木信吾 褒めてますからね。本当に脱帽しました(笑)。
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