総合格闘技イベント「RIZIN」の記念すべき10回目となる大晦日大会「RIZIN DECADE」が、12月31日(火)にさいたまスーパーアリーナで開催される。
RIZINにとって10年の節目となる今大会は、ナンバーシリーズ「Yogibo presents RIZIN.49」として各階級のタイトルマッチが行われるほか、「雷神番外地」として朝倉未来さん率いる朝倉未来軍と平本蓮選手率いるBLACK ROSEによるチーム対抗戦も繰り広げられる。
KAI-YOUでは2024年7月の「Yogibo presents 超RIZIN.3」から本格的にRIZINを現地取材。取材を重ねるごとに、大会運営における対戦カード──すなわちマッチメイクの重要性を実感してきた。
気になることは担当者に直接聞くしかない! ということで、RIZIN公式での見どころ解説でもお馴染み、マッチメイカーである“チャーリー柏木”こと柏木信吾さんにインタビューを敢行。
対戦カードを決めるマッチメイカーの役割はもちろん、RIZINや格闘技の魅力、マッチメイカー視点での注目選手など、大量の疑問をストレートにぶつけてみた。
取材/文:恩田雄多 編集:米村智水
※取材は11月21日に実施
目次
総合格闘技イベント「RIZIN」のマッチメイク担当者 柏木信吾とは?
──そもそもマッチメイクを担当される方の役割を教えてください!
柏木信吾 格闘技イベントにおける要の一つですよね。たとえば製造業で言ったら、広報があって、営業があって、開発があって──といろんなセクションがあると思うんですが、おそらくマッチメイクは、“開発”の部分にあたるんじゃないかなと。「もの」があって、はじめてそれをマーケティングできるし、売ることができる。
イベントを開催するにあたっても目的は多様です。お金を最優先にして集中するのか、ストーリー性を重視するのか、若手を育成するのか、海外に向けた戦略を立てるのか。その全体的な方向性を、一つのものとしてつくる上での骨組みの部分がマッチメイクかなと思っています。
──そういう意味では、大会ごとに重視するポイントが変わってくるとは思うんですけれど、RIZINにおいてはいかがでしょう?
柏木信吾 RIZINにおいても、基盤です。RIZINは、いろんなシリーズを立ち上げて、ナンバーシリーズをはじめ、「超RIZIN」や「RIZIN LANDMARK」など様々な大会があって、大会ごとに用途や目的が異なっているんです。
たとえば「超RIZIN」の場合だと、コアな格闘技ファンだけではなく「格闘技にはあんまり興味ないけど、見てみたい」という方々にまで届くようなコンテンツをつくらないといけない。
そうなると、純粋な格闘家だけで固めてしまうと、我々が想定する層にまでリーチできない。でも逆に、インフルエンサーだったり、影響力のある選手だけを集めると、コアなファン層がいなくなってしまう。
そういったバランスや需要を予測しつつ、多種多様な条件に合わせて、カードを用意する。RIZINというフェデレーションの特殊性もありつつ、やはりマッチメイクは要になる部分だと考えています。
──実際、柏木さんやRIZINの組織が担当されているマッチメイクは結構特殊だったりするのでしょうか?
柏木信吾 私自身、マッチメイカーという肩書きではあるんですけれども……実は海外や他の格闘技の団体って、マッチメイカーってそんなに数がいないんですよ。団体に1人とか2人くらい。
でもRIZINの場合はそうではなくて、社内にマッチメイクチームというものが存在しまして。
そこには広報も入ったり、営業が入ったり。それこそ榊原(信行)社長、広報の笹原(圭一)さんまで、様々な立場からガンガン意見を出し合います(笑)。
柏木信吾 そういった中で、各選手の担当は「じゃあ、こういう選手はどうでしょうか」とオーダーを出し合っていく。本当に一つのチームとして、マッチメイクは議論して決めていく形になっています。だからすごくユニークな大会が生まれて、多様なカードが出揃うんですよ。
ただ、RIZINの他の人はみんなそれぞれ立派な肩書きを持ってるから、その中で肩書きがない私が対外的に“マッチメイカー”と付けられているのかなと思ってるんですけど(笑)。
──いやいや、そんなことないと思いますけど! とはいえマッチメイカーとして顔役がいるのは大事なことのように思います。
柏木信吾 まあ、そんな組織形態なんです。マッチメイクチームが存在して、別に私1人でやっているというわけでは全くなくて。いろんな部署の意見を聞きながら、コンテンツをつくっていくことを前提にしています。
その中で、あえて私の役割を挙げるとすれば、主に海外の選手の獲得やスカウト、契約ですね。海外の広報活動、あるいは日本のコンテンツを、海外向けにローカライズするための企画とか。あとは海外記者との交流や海外向け配信のディレクター、同時通訳まで──基本的に日本語ではできない仕事は、私がやらせていただいてます(笑)。
──柏木さんの語学力はファンの間でも度々話題になりますよね。そもそも柏木さんがRIZINに参画するに至った経緯やバックグラウンドが気になります。
柏木信吾 私がこの業界に入ったのは、おそらく2006年の8月ぐらい。その時はアメリカにいて。カリフォルニアの格闘技団体「King of the Cage」っていう団体がスタートなんです。
子供の頃からずっとアイスホッケーをやっていて、たまたま同じチーム「King of the Cage」の社長が所属していて、「お前、日本人か?」「日本人は格闘技好きだろう、俺と働かないか?」と誘われたのがはじまりです。
アメリカで数年プロモーターとして経験を積んだ後、紆余曲折を経て、RIZINが旗揚げした2015年の夏あたりに声をかけていただき、現在に至るという流れですね。
選手のストーリーを見せる RIZINが格闘家に求めるプロ意識
──アメリカでもプロモーターとして活動されていたんですね。現在の活躍にも納得です! 先ほどのお話の続きになりますが、RIZINのマッチメイクでは、具体的に何を重視しているのでしょうか?
柏木信吾 榊原CEOとしては、ファンの方々が求めているものを、その時に旬な状態で提供する方針です。だから、具体的にこれというのはあまりないんですけど、あえて言えば、華があって、キャラクターとして魅力的で、強さもある選手……でしょうか。
重視する要素は本当にいろいろあるんですけど、格闘技の魅力や面白さを伝えるという意味では、“プロ意識”を持っているかどうかは重要になると思います。
──プロ意識というと具体的には?
柏木信吾 たとえば「つまらない試合でも勝てばいい」というメンタリティの選手は、一緒に仕事をしづらいのかなと。勝利至上主義を否定するわけじゃないですけど、競技であってエンターテインメントでもあるので、ファンに「見たい!」と思わせる選手がRIZINには適していると思います。
もちろん、そういった選手だけじゃなくて、世界に対してアピールできる強さを持った選手も必要になってきます。大会ごとに様々な要素を考慮して最適なマッチメイクを考えているので、一概にお答えするのが難しいんですよね。
──それこそ、選手同士の試合に至るまでの関係性やストーリーなど、“文脈”も重要に感じています。
柏木信吾 そうですね。RIZINの魅力の一つは、そういった選手個々や選手同士のストーリーを、しっかりと繋げて見せていくことだと思います。
あらかじめ物語がつくられているわけじゃない、本当に自然発生型のリアルなヒューマンドラマをどうやって紡いでいくか。試合前後の人間関係だったり、選手の印象的な発言だったり。それらを盛り込んでストーリーを形づくっていく──すごくユニークな手法ではありますね。
──選手同士の背景を踏まえるとなると、マッチメイクもぎりぎりまで調整が必要そうですね。大会開催のどれくらい前から準備するんでしょうか?
柏木信吾 選手としても、我々のオペレーションとしても、理想を言えば、大会の3ヶ月ぐらい前には全部決めておきたいです。
でも、先ほども言ったように、一つの勝負、一つの試合の結果次第で、次の大会に向けたストーリーや方向性が決まったり、それによって次の大会にも連続して参戦させたり、ある意味リスキーなマッチメイクをする場合もあります。
たとえば、大晦日まで6週間を切ってますけど(※取材は11月21日に実施)、11月17日に行われた「RIZIN LANDMARK 10 in NAGOYA」に出た選手が、大会の結果を受けて大晦日にも出場するというストーリーも考えられます。
柏木信吾 当然、早く決まるのが理想なんですけど、ぎりぎりまで粘って、より最高の大会をつくっていきたいんですよね。
ただし、外国人選手はビザ取得の時間の兼ね合いでそういった対応は難しい。なので、事前にある程度ストーリーとしての大枠を決めておいて、遅くても2ヶ月〜1ヶ月半ぐらい前には試合を決定するっていう流れになっています。
──実際、RIZINデビュー戦に続き、名古屋大会でも勝利した18歳の秋元強真選手に対しては、「大晦日大会にも出てほしい」と思うファンも多いですよね。マッチメイクが一筋縄ではいかないのは納得です。
柏木信吾 スターがつくられていく過程においては、“鉄は熱いうちに打て”じゃないですけど、最適な時期に試合をすることが重要だと思います。
たとえば、2023年に最も輝いたであろう鈴木千裕選手(※RIZINフェザー級王者)は、彼自身が畳みかけるように試合をしたことで、短期間でストーリーがつくられた結果、鈴木千裕というブランディングが確立できたのかなと。マッチメイクにはそういった視点も必要なんだと思います。
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