RIZIN柏木信吾インタビュー “物語”を紡ぐ格闘技とマッチメイクの裏側

人生が一瞬に凝縮──刹那的で、時に残酷な格闘技が放つ魅力

──運営に関する詳細をうかがったところで、格闘技およびRIZINそのものの魅力についても、マッチメイク担当の柏木さんにお聞きしたくて。たとえば、サッカーや野球のように、総当たりのリーグ戦があって、なおかつ参加チームが開幕時点で決まっているようなスポーツと比較すると、格闘技は一試合あたりの重みがとてつもないなって。

柏木信吾 そうですね、そこは本当に感じます。

マッチメイカーが感じる格闘技の一試合の“重み”とは?

──その一試合の持つ魅力を、マッチメイクを担当される柏木さんはどう考えていらっしゃるのでしょうか。

柏木信吾 格闘技は、対決する両選手の人生が、一つの試合にぎゅっと凝縮されている感覚です。我々は、そんな貴重な時間を目撃させていただいていると強く思いますね。

たとえばサッカーであれば、どれだけ実力差があっても90分は戦える。野球ならコールドはともかく、9回裏表まで戦える。もともと最後の最後まで頑張れば、勝てる可能性があるっていうのが、一般的なスポーツの概念だと思います。

でも格闘技だと、“KO”や“一本”などによって、規定されているラウンドよりも早く終わってしまう可能性がある。どれだけ頑張っても、頑張ろうと思っても、最後まで戦えない側面があるからこそ、戦ってる時間が本当に尊い。選手たちが強く光り輝いて、魅力的に見えるんじゃないかなって。

──戦える時間が短いからこそ、選手が輝いて見えるということですね。

柏木信吾 そういう意味では、良い面もあれば、やっぱり残酷な部分もあるんですよね。11月の名古屋大会(※RIZIN LANDMARK 10 in NAGOYA)メインイベントで、摩嶋一整選手がヴガール・ケラモフ選手に1ラウンド28秒で負けてしまったんです。

彼は本当に苦労人で、フルタイムで働きながら、家族を養いながら、必死にやれることをやってこの試合に向けて頑張ってきた。そうしてようやくたどり着いたメインイベントが、28秒で終わってしまうのは本当に残酷です。

ヴガール・ケラモフ vs. 摩嶋一整

──9月の「Yogibo presents RIZIN.48」のライト級タイトルマッチで、現王者のホベルト・サトシ・ソウザ選手にルイス・グスタボ選手が挑んだ試合も衝撃的でした。開始21秒で……

柏木信吾 そうですね。ルイス・グスタボ選手は、タイトルマッチにまでたどり着くのに6年かかっています。

22歳の時にRIZINと契約してから、コロナ禍でいろんなオファーがある中で、「自分はRIZINのタイトルを目指してる」と言っていろんなオファーを蹴って、この一戦に備えてきた。待ちに待ったタイトルマッチで、ブラジルのクリチバから37時間かけて来日して、体重をつくって、それなのに21秒でTKO負けですからね。

勝負の世界なので、勝ち負けは仕方ない部分なんですけど、本人としては、今までやってきたものが何一つ出せなかった。6年間自分を支えてくれた家族や周囲の人々に申し訳ないっていう気持ちが強いようです。その感情は、我々の想像を絶するものがあるんじゃないかと思います。

ホベルト・サトシ・ソウザ vs. ルイス・グスタボ

柏木信吾 だから格闘技は、人間の感情という意味では、一瞬で最高にも最低にも到達させてしまう。

普通……っていう言い方もどうかなとは思うんですけど、普通に生きてたらどちらの感情もなかなか味わえないので、本当にエクストリームな競技だと思いますし、だからこそ戦う選手たちの姿に惹き込まれるんじゃないでしょうか。

「あの日、あの場所、あの瞬間、鈴木千裕の方が強かった」

──どうすることもできない部分ではあると思いつつ、期待された試合が一瞬で終わってしまうことに対して、マッチメイカーとしてはどのように感じていますか?

柏木信吾 中立の立場として、どちらに勝ってほしいというのはないんですけど、両選手が見せ場をつくって決着がつくのが理想ではあります。ただ、そういう試合はなかなかないんですよね。

早く決着してしまう試合に関しては、それ自体が衝撃的な終わり方という意味で格闘技の醍醐味だと思います。観戦した人が必ずしも笑って帰れないというか、満足して帰れない、様々な感情を持ち帰る。決着の付き方においてもいろんなバリエーションがあるので、個人的には、格闘技は一番感情が揺さぶられるスポーツなんじゃないかって思っています。

のめり込めばのめり込むほど、選手に感情移入すればするほど、自分の感情も揺さぶられる。笹原さんのつくったキャッチコピー「泣いて、笑って、格闘技。」は象徴的で、人間臭さがこれ以上ないくらい出ている部分に、魅力を感じています。

──試合が早々に決着してしまう=実力差があるというわけでもない?

柏木信吾 そうですね。実力差があるというわけではなくて、格闘技は相性や作戦、タイミングなど、いろいろな要素が複雑に絡み合って結果が出るものです。よく言われているのが「その日、彼の方が強かった」ということ。

たとえば、鈴木千裕選手がヴガール・ケラモフ選手に勝利して、フェザー級王者を勝ち取った試合(※RIZIN LANDMARK 7 in Azerbaijan)も、詳しい人の意見を聞くと、前評判としては鈴木選手が圧倒的に不利だったわけです。でも、彼は勝った。

「RIZIN LANDMARK 7 in Azerbaijan」でフェザー級王座を獲得した鈴木千裕選手

柏木信吾 極端な言い方をすれば、10回中1回しか勝てない可能性が高い試合で、鈴木選手はその10分の1を試合当日に持ってきたわけなんですよね。

だから、現時点で鈴木選手がケラモフ選手より強いのかといえば、それはわからないわけで、「あの日、あの場所、あの瞬間、鈴木千裕の方が強かった」というのが、正しい解釈の仕方だと思います。

“ハイレベル=良い試合”ではない RIZINにランキング制度がない理由

──マッチメイカーとしては、「実力が拮抗している選手同士でやらせてあげたい」というような意識はありますか?

柏木信吾 興行の目的によってケースバイケースです。拮抗しているからといって、必ずしも面白い試合が見られるとは限りません

RIZINは選手のランキングシステムがないんですけど、ランキングというシステムに縛られると、その時その場における良いマッチメイクがつくれなくなってしまう。競技的には、2位と3位の選手の試合を組むのが正しいかもしれないけど、玄人にしかわからない試合展開になってしまう可能性もあります。

9月にあったRISE(※RISE WORLD SERIES 2024 YOKOHAMA)というキックボクシングの大会を見に行ったんですけど、メインイベントのタイトルマッチ「志朗選手 vs. 田丸辰選手」が、ものすごくハイレベルな試合だったんです。

柏木さんが“ハイレベル”と評したRISEの一戦

柏木信吾 ただ、“ハイレベルな試合”としか表現できない。レベルが高すぎて、両選手共にやっていることが異次元すぎる。フェイントで勝負しているというか、チェスで言うと“三手先で勝負している”ような状態。だから、格闘技に詳しくない人にとってはわかりづらい。

言い換えると、“わかりやすい面白さ”が欠けてしまう。そういった試合を見て、どれだけの人が「すごかった! 面白かった!」と感じられるか? を考えないといけません。

もちろんこれは良い悪いの話ではなくて、そういう試合のニーズが多いマーケットであれば、玄人向けの試合を多く組むべきです。ただRIZINの場合は、できるだけ幅広い方々に格闘技を見てもらいたいという思いがあるので、もう少し間口を広げたマッチメイクを意識しています。

RIZINではより間口の広いマッチメイクを意識しているという

──RIZINではランキングシステムがないからこそ、そこに縛られず、格闘技として“幅広い面白さ”を意識していると?

柏木信吾 簡単に言えばバランスですね。当然、玄人好みの試合も間違いなく必要です。ハイレベルな試合によって、RIZINというイベントのアイデンティティが保たれる側面もあると思います。

でも、そんな試合ばかりだとなかなか理解しづらいというか、見ていて「よくわかんないな……」と感じられてしまったらもったいないので、RIZINとしては正しくないのかなと思います。

選手個々の強みと弱みが、ぶつかり合った時にどういった化学反応が起きるのか。もしくは、強みと弱みが認識されている選手に対して、未知の外国人選手をぶつけることで、試合前からワクワクしてもらう。いずれの場合も、実際の試合で答え合わせをしてもらう。そういった形で楽しめるのが、格闘技の魅力なんじゃないでしょうか。

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