恐怖は“克服する”のではなく、“楽しむ”
──そんなクレベル選手ですが、一度実戦で向き合ってみて、どのような感慨を抱きましたか?
鈴木千裕 正直、圧(プレッシャー)はかなりありますね。寝技の圧というか──それは強く感じましたし、今までいろいろな選手とやってきたけれど、そういう意味では異質の圧でした。彼も強い男ですよ。脅威はある。
でも、次にやったら絶対に俺が勝ちますよ。観ててください。
──すさまじい自信ですね。ふつうは一度敗戦した相手について、一般的な感覚からすると、恐怖心を持つと思うんです。例えば、日常生活でも苦手な人のことを克服できないとか、一度怒られたことで委縮してしまうとか……どうしたら鈴木選手みたいに、強い精神を保つことができるのでしょう?
鈴木千裕 たしかに気にしないほうなんですけど、完全に怖くないわけじゃないんですよ。ただ、俺はよく試合を“ジェットコースター”に例えていて(笑)。その感覚と一緒で、スリルがあるほうが純粋に楽しいし、燃えるんですよ。
実際にジェットコースター乗ってて、途中でガチャンって故障で止まったとしても「あの時、面白かったね」っていうような感覚。怖がりの人は、そんな経験したら、もう二度とジェットコースターに乗れなくなるかもしれないけど、俺はむしろ乗りたくなるんです。
前回のクレベル戦は、ある意味で不運な事故だったんですよ。ジェットコースター的に言うと。試合に不備があったせいで、俺は決められてしまった。だからこそ、また乗りたいし、次をどう楽しめば良いかを考えてます。
格闘技をやってない人も、そんな風に捉えてチャレンジしてみてほしいですね。怖さを楽しむというか、怖いなりに上手く向き合う道筋があるはず。
チャンピオンは“物語のゴール”ではなく、スタートライン
──今回のタイトルマッチは、鈴木選手の“リベンジ”という物語があります。一般的に格闘技は「選手がチャンピオンになるまでの過程」にこそファンは魅了され、熱狂するように思います。その点で、鈴木選手はRIZINというゲームをクリアして、チャンピオンというゴールを達成している。今後、鈴木選手のどのようなポイントに注目すれば良いでしょうか?
鈴木千裕 物語のクリアか……でもね、格闘家としては、チャンピオンになるって全然ゲームクリアとかゴールではないんですよ。
むしろ、チャンピオンになってからが“スタート”なんです。チャンピオンベルトって格闘家の間では“名刺”みたいなものだって言われるんですよ。
──“名刺”ですか。なるほど。
鈴木千裕 「俺、こんな名刺を持ってます。よろしくお願いします」って。この名刺をつかって何をしていくのかが、最も大切なことなんですよ。
このRIZINのチャンピオンベルトが、すごい名刺になるのか、価値があったり、本当に面白いものにできるのか──それとも悪用してしまったり、何もベルトを活かせないまま、ふつうの選手として終わっていくのか──そういうところに注目してほしいです。
──チャンピオンになって、はじめて一人前のファイターであり、むしろここからの活躍こそが歴史や社会への影響力を持っていくということですね。
鈴木千裕 格闘技/格闘家って“波”があるじゃないですか。常に最高な瞬間ばかりだったら良いんだけど、つまらない時期もある。
格闘家にとって、最も波が高い瞬間が、チャンピオンベルトを持ってる間なんですよね。チャンピオンベルトを持つことによる最も大きな効果って“誰とでも戦える”ことなんです。俺は、ただ「強い奴と戦いたい」という気持ちがあって、それで格闘技を続けています。強い奴と戦いまくって、勝って、自分が一番強いと証明したいんです。
だから、その目的のための手段として、チャンピオンベルトが必要なわけです。そして鈴木千裕という人間の物語はまだ全然序盤なんです。とにかく強い選手と思いっきり戦う。観ててください。
──チャンピオンベルトの価値を決めるのは選手次第ということですね。強い選手と戦いたいという目的があるとしたら、ゆくゆくは海外進出も考えている? 朝倉海選手のUFC参戦も大きな話題となりました。
鈴木千裕 強い奴と戦えるなら、どこでも行きます。ただ、RIZINはUFCでもベラトールでも、強い選手を呼べるフェデレーションなんですよね。
もはや“RIZINが世界”なんですよ。俺が活躍することによって、RIZINを世界基準のレベルの高い団体にします。それも目標ですね。格闘技の中心はUFCとかアメリカだとか言われますけど、そんなことない。
勝ち続けることで、世界中のチャンピオンたちが、俺と戦いたいと思ってRIZINに参戦してくる。そこで俺が勝ったら、RIZINが、日本が最強ということになるじゃないですか。
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