1990年代中頃までアニメーション制作の現場で必須だった「セル画」。
その名の通り、セルと呼ばれる透明なシートにキャラクターが描かれ、それらを専用の撮影台で撮影することでアニメーションを生み出していました。
しかし、アニメの制作体制はデジタルに移行。およそ20年前からほとんど使われない状態に。僕自身、大学でアニメ制作を学んだ2000年代中頃には、制作過程のすべてがPCで完結できる状態でした。
現代において失われた手塗りのセル画──必要な画材も入手しづらくなっていますが、実は今でもセルアニメ用の画材が製造販売されています。
有限会社六方では、「アートセル」のブランド名で生セルやセル絵の具を販売中。10月5日〜6日に開催されたイベント「インディーアニメマーケットX!」(通称・アニケットX!)でワークショップが行われていたので、人生初の“セル塗り”を体験してきました!
アニメ業界のロストテクノロジー「セル画」を体験!
当日は、「インディーアニメマーケットX!」の参加クリエイターのイラストが描かれたセルを3枚購入し、そのうち1枚を現地で実際に塗ってみる、という仕組み。
“塗る”と言っても、様々な色を着色するわけではなく、セルの裏面に白い絵の具を塗り、セル画として完成させていきます(今回はセル風の栞)。
そもそもセル画とは、セルアニメーションの仕上げ(彩色)工程における中間制作物またはその彩色技法を指します。簡単に言えば、“透明なフィルムに裏から絵の具をのせる”ということ。
本来のセル画は、主線(黒の輪郭線)を除いて手作業で描き込み、さらに色ごとに異なる絵の具を用います。複数の色を塗り、塗って乾かしてを何度も繰り返すと、時間と労力も膨大にかかります。
今回のワークショップでは、難易度低減と時間短縮を考慮して、事前に特殊印刷技術で着色されたセルを使用。裏面に白絵の具を塗ればあっという間にセル画が出来上がるわけです。
大胆かつ慎重に……セル塗り体験スタート!
というわけで、早速セル塗り体験キット(3000円)を会場で購入。
3枚選べるセルは、かねひさ和哉さん、土海明日香さん、宝丼さんのイラストが描かれたものにしました。
で、実際に塗っていくわけですが、これがなかなかに難しい。想像以上に絵の具が瑞々しくて、思い通りにセルにのっていきません。どうやら“塗る”のではなく“置く”イメージで行うのが良い模様。
コツを意識してからは、より大胆に絵の具を置くことで作業はスムーズに。とはいえ、イラストの細かな部分を塗るときはビクビクしながら慎重に進めていきました。
そんなこんなで全体を白絵の具で塗り終えて完成。プルプルとして今にも意図しない方向に流れてしまいそうなほど、こんもりと盛り上がった白絵の具。こぼれないよう丁寧に透明なケースに収納して、作業終了です。
あとは乾燥するのを待つだけ──
ですが、当日はバッグの底に入れて、できるだけ動かないようにしたものの、帰って開けてみたら白絵の具が大洪水をおこして悲惨な状態になっていました。
ただこの白絵の具、乾燥したあとはスルッと剥がせるので、イラストからはみ出た部分を丁寧に剥がしたり、慎重にカッターでカットするなどして、本当の意味での完成に辿り着きました!
近年では“セルアニメ”技術の継承とアーカイブの動きも
昭和から平成と使用されてきた手描きのセルアニメーション。今回「インディーアニメマーケットX!」では、その一端を体験することができました。
セル画の彩色は、CG技術の発展と共にコンピュータ彩色へと移行し、平成の30年間で産業的な需要が消滅。セル絵の具などの供給メーカーもなくなり、セル画の制作技法は当時を知る人々の頭の中だけという状況でした。
そうした中で、有限会社六方では、セル画の彩色をデジタルアーカイブする取り組みを展開中。そもそもの事業であるビデオゲーム開発で培った技術を活かして、産業史としても重要なセル画の記録を継承しようとしています。
その一環として、当時の制作スタッフやスタジオに対してインタビューを実施。制作技法や制作環境の再現を試みており、2021年から生セルとセル絵の具といった専用画材を復刻販売しています。
「アニケットX!」会場には自作の撮影台も展示
加えて、六方では、「インディーアニメマーケットX!」に参加したクリエイター・巡宙艦ボンタさん(外部リンク)らと共に、セルアニメーションの現場で使われていた撮影台も開発。
イベント当日はブースに展示され、来場者から注目を集めていました。
独特の質感を有する手描きのセルアニメーション。長らく失われていた技術ですが、現在は興味を持った人なら誰でもセル画をつくれる環境が整いつつあります。
技術の継承だけでなく、現代でもセル画を活用した新たな作品が生まれていくかもしれません。
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