イラストレーターRellaインタビュー「みんなが見たい初音ミクは、絶対に未来にいる」

イラストレーターRellaインタビュー「みんなが見たい初音ミクは、絶対に未来にいる」
イラストレーターRellaインタビュー「みんなが見たい初音ミクは、絶対に未来にいる」

のイラストレーター・Rellaさんの個展「Stargazer & Lucid Dream」のビジュアル

「初音ミク Happy 16th Birthday -Dear Creators-」や「初音ミクシンフォニー」など、初音ミク関連の大規模プロジェクトを中心に、15年間に渡り活動している中国人イラストレーター・Rellaさん。

2009年、イラストコミュニティサービス・pixivに、巡音ルカの二次創作イラストを投稿して活動をスタート。繊細な色彩と独特の発光表現を得意としており、神聖な雰囲気が漂うキャラクターイラストが高く評価されている。

2019年の「KYOTO NIPPON FESTIVAL」では北野天満宮を舞台にした初音ミクのビジュアルを手がけ、2022年の東京国立博物館創立150年記念施策「踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト」とのコラボでは「見返り美人ミク」をデザイン。

唯一無二のレンズを通してピアプロキャラクターズを描いてきた。

初音ミク16周年の誕生日イラスト「君がいなきゃ、見れなかった景色」

そんなRellaさんの初個展「Stargazer & Lucid Dream」が、7月25日(木)〜8月4日(日)にかけて、東京・渋谷のアートギャラリー・SAIで開催中だ。

個展は展示内容や額装に至るまで、すべてを自らプロデュース。15年間、初音ミクと向き合い、表現に落とし込んできたRellaさんにとって一つの集大成となる。

今回は、個展のテーマや展示作品へのこだわりなどをインタビュー。その中で、初音ミクに対する解像度の高さや西洋美術という意外なバックボーンが浮かび上がってきた。

取材/文:小町碧音 編集:恩田雄多

初音ミク16周年のメインビジュアルを担当したRella

──2009年7月、pixivに巡音ルカのイラストを投稿されてから15年。この節目に初の個展を開催しようと思った経緯を教えてください。

Rella 「絶対にこのタイミングでやろう!」と決めていたわけではなく、個人的にはあくまでも自然な流れで決まった印象です。

そもそも、私のイラストの多くは二次創作が中心だったので、本当に自分の作品と言えるものなのか、疑問を抱いていました。

初期の作品「Just be friends」

Rella でも、商業イラストレーターとしてお仕事をする中で、徐々に「これはRellaの作風で、Rellaの世界観で、Rellaの作品だ」と認められるようになって。

そういった作品の量が一定数揃ったことで、そろそろ展覧会を開催してもいいかなと思えたんです。

今振り返ると、特にイラストレーターとしての活動をはじめてから最初の10年間は、遊びの延長線上のような感覚だった気がします。

──遊びの延長?

Rella 私の場合、大学を卒業する直前まで、自分の職業がイラストレーターになるとは思っていませんでした。

中学生の頃に読んだアメリカの広告デザイナーの本に、「本業と趣味は絶対に分けたほうがいい」と書かれていて、「大好きなことを仕事にすると絵が描けなくなるのではないか?」という恐れがあったんです。なので、安定した仕事を持ちながら、自由な時間に絵を描くのが理想でした。

でも大学卒業後、「初音ミクシンフォニー」や京都・北野天満宮とのコラボビジュアルなど、様々なお仕事を通じて「仕事にするのも悪くないかもしれない」と思えるようになりました。

──2023年の初音ミク16周年の企画「初音ミク Happy 16th Birthday -Dear Creators-」では、メインビジュアルを担当されました。全国5都市で広告が掲出されるなど、ご自身の作品が多くの人の目に触れる機会だったと思います。個展の開催にはそういった出来事も影響したのでしょうか?

Rella そうかもしれません。「初音ミク Happy 16th Birthday -Dear Creators-」のメインビジュアルは、正直なところ、まさか自分が担当するとは思っていませんでした。

これまでも初音ミク関連のお仕事はありましたが、基本的にはコラボ企画などが中心だったんです。だから、初音ミクそのものの16周年の企画でお声がけいただいたときは「私でいいのだろうか?」と思ったほどです。

「初音ミク Happy 16th Birthday -Dear Creators-」メインビジュアル

全国に掲出された「初音ミク Happy 16th Birthday -Dear Creators-」の広告

Rella でも、初音ミクの開発元であるクリプトン・フューチャー・メディアさんから、「16年の間に様々なクリエイターと関わってきたからこそ今の初音ミクがある」「その時間の中でボカロ文化に触れてきたRellaさんも適任ではないか」という言葉をいただいて、お引き受けすることにしました。

結果的に、メインビジュアルとして私の作品を多くの人に見てもらえるきっかけになりました。そういう意味で、Rellaというイラストレーターに興味を持ってもらえるタイミングで、個展を開催できて良かったと思います。

活動の節目で迎える初個展はセルフプロデュース

──展示作品は150点以上と膨大ですが、どのような基準で選ばれたのでしょうか?

Rella 一番重視したのは作品の完成度です。趣味の延長線上で描いていた時代の作品ではなく、近年大きな反響をいただいた作品や、特に思い入れの強い作品を中心に構成しました。

作品ごとに会場内のどこに配置するか、展示の順番にもこだわっています。

個展「Stargazer & Lucid Dream」キービジュアル

Rella 例えば、毎年8月31日の初音ミクの誕生日に描いてきた作品を展示するエリア、『プロセカ』(プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク)の関連作品、他の初音ミクの商業案件や「初音ミクシンフォニー」関連と、どのように見てもらいたいかを考えながら展示しています。

個展の開催にあたって、2年くらい前から今回のギャラリーに何度か通っていました。その時から「自分の展覧会ではこの空間をこうやって使いたいな」と考えていたんです。

展覧会「Stargazer & Lucid Dream」会場の様子

展覧会「Stargazer & Lucid Dream」会場の様子

──個展の会場づくりまでご自身でプロデュースされたんですね。

Rella 何から何まで自分でやりたくなってしまうタイプなんです(笑)。私自身もアートの展覧会などによく行きますが、行くまでのワクワク感や見終わった後の充実感など、まるでライブのセットリストのような流れが好きなんです。

最近だと、1月から4月まで開催されていた「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」がすごく良かったです。今年の始まりのモネ展も大変良くて。

作家さんの年齢と共に変化していく手癖や表現、その変遷を見るのが楽しくて──自分の個展でもそれらを感じてもらえたら嬉しいです。

「私の創作活動は、夢を見続けながら、それが夢だと自覚している」

──個展のタイトルは「Stargazer & Lucid Dream」。直訳すると「星の観測者と明晰夢」です。このタイトルに込めた意味を教えてください。

Rella 私の活動のスタートは二次創作で、それ以降も多くの人の作品に影響を受けながら続けてきました。「私もこういうイラストを描いてみたい」という憧れがきっかけで、それは遠い星を眺めたり、追いかけたりするような感覚だったんです

日本でお仕事をいただくようになってからも、自分の夢を追いかけているような気持ちでした。だからといって、明確な目標や到達点があるというよりも、追いかける行為そのものや過程を楽しんでいる。それは、個人的に夢見心地のような状態だなと思っています。

加えて、絵を描く行為は、妄想や夢を現実に描き出す手段です。私の創作活動は、夢を見続けながら、それが夢だと自覚している(=明晰夢)行為でもある──個展のタイトルには、イラストレーターの私のこれまでと現在を込めました。

展覧会「Stargazer & Lucid Dream」会場の様子

展覧会「Stargazer & Lucid Dream」会場の様子

──個展のために初音ミクをはじめピアプロキャラクターズ6人を描き下ろした「asteroid(アステロイド)」シリーズについても教えてください。Rellaさんが2014年に制作した同人誌も同じタイトルですが、それぞれに関係はあるのでしょうか?

Rella 同人誌(2014年刊行)の「asteroid」という名前は、初音ミクを中心に様々な作品が生まれる構造を例えたものです。初音ミクが太陽で、初音ミクから生まれる作品が、小惑星のように彼女の周囲を回っているイメージでした。

また、「asteroid」の語感や意味が、「VOCALOID」と似ているのも面白くて。どちらも「〜のようなもの」を意味する「oid」が付いていますよね。asteroidは「小惑星のようなもの」、VOCALOIDは「人の声のようなもの」という共通点から付けた名前です

同人誌として頒布された時の「asteroid」

──具体的かつ論理的なテーマから生まれた同人誌だったんですね。個展のタイトルもそれに繋がるものなのでしょうか?

Rella 今回の個展で描き下ろした「asteroid」は、各作品が小惑星を意味する点は同じですが、意味合いが大きく異なります。個展のコンセプトは、私の大好きな「星の王子さま」です

同人誌から10年近く経ち、商業での活動を通じていろいろな反応を受ける中で、自分がどんな作品をつくるべきか、迷いが生じるようになりました。

個展描き下ろし作品「asteroid」初音ミク

個展描き下ろし作品「asteroid」鏡音リン

個展描き下ろし作品「asteroid」鏡音レン

Rella だからこそ、今回の自分の個展では、自分の言いたいことや描きたいものを表現するべきだと感じました。それらを考えていく中で、自分が一番大事にしているのは、初音ミクなどのキャラクターだったと気づいたんです。

個展では、私にとって一番大事な存在を守る意味合いを込めて、キャラクター(=「星の王子さま」におけるバラ)をガラスで覆ったイラストを描き下ろしました。

個展に向けた準備を進める中で、自分の核となる部分を再認識できた感覚があります。

個展描き下ろし作品「asteroid」巡音ルカ

個展描き下ろし作品「asteroid」MEIKO

個展描き下ろし作品「asteroid」KAITO

──Rellaさんにとって一番大切な存在を展示するからこそ、今回イラストの額装にもこだわられているということですね。

Rella そうですね。そもそも私は西洋美術、特に油絵が好きで、学生時代から「展覧会では額も含めて作品を見るように」と先生に教わっていたというのも大きいです。

個展では、展示するイラストのテイストに合わせて額を選びました。例えば、「初音ミクシンフォニー2020」のビジュアルは、オーケストラというクラシックな西洋の雰囲気が強いので、ゴージャスなデザインが特徴的な額を選んでいます。

「初音ミクシンフォニー2020」のビジュアル「Gramophone」

額装された作品/写真はRellaさん撮影

──少し話が逸れますが、額装の写真もRellaさんが撮影されたものですよね。光の当たり方がまるでRellaさんのイラストのようで、とても素敵です。

Rella ありがとうございます。無意識な部分もあると思いますが、写真を見た人から「Rellaが撮ったと分かる」と言われることは多いです(笑)。

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