Rellaが感じる“初音ミク像”の変遷 ササノマリイと共作したテーマソング
──今回の個展では、テーマソングが用意されているのも特徴的ですね。楽曲はササノマリイさんによる「Little Missing Star feat.初音ミク」です。
Rella 個人的に、初音ミクという存在を語る上では、音楽面とビジュアル面の両方が必要だと思っています。だからこそ、初音ミクの作品をつくってきた私の個展であれば、音楽は絶対必要だろうと考えました。
「Little Missing Star」は、私からキーワードをいくつか提示させていただき、それらを元にササノマリイさんに作詞作曲していただきました。
Rella 私は、ササノマリイさんがボカロPの“ねこぼーろ”名義で活動されていた時代から大好きで、楽曲を聴いていたんです。初音ミク16周年というタイミングで、コラボレーションできてとても嬉しかったですね。
今回の個展では、ピアプロキャラクターズ6人それぞれのバージョンと全員合唱版を、1ループ30分で流す予定です。
──楽しみです! MVでは、Rellaさんが映像ディレクターを担当されました。どのような点にこだわったのでしょうか?
Rella 誕生から16年が経つ中で、初音ミクのキャラクター性には多くのバリエーションが出てきたと考えています。アイドルのように歌って踊るミクやファッションリーダー的なビジュアルのミク、ライブで活躍するミクなど、“初音ミク像”の幅は広がってきました。
私とササノマリイさんは、ちょっと不器用というか、違和感を覚えるくらいの電子音で、感情を持たないような初期の初音ミクが好きで、楽曲は最初の頃の初音ミクをテーマにつくっていただきました。
MVでは、当初はあくまでもツールだった初音ミクが、時代と共に変化していく姿を表現したいと思いました。
──映像の2分前後から、作品などを背景に歩いている初音ミクが、様々な姿に切り替わるシーンは特に象徴的ですね。
Rella 歩く中で、ツールとしての「VOCALOID2 初音ミク」から、「V3」「V4X」、そして「NT」までの進化を描きました。
MV全体としては、最初はツールだったものが、人の思いを受け止めて歌い出し、これからはクリエイターやファンの影響を受けて、感情も豊かになって変わっていくというストーリーを表現しています。
Rella 映像の終盤には、最初の初音ミクと変化した初音ミクとが融合して、新たに髪の毛が五線譜になった初音ミクが誕生します。最初の音楽ソフトとしての初音ミクが、いろいろな要素が融合して今の概念のような初音ミクになるまでの物語をつくりたいと思いました。
ちなみに、背景には初音ミクのヘッドホンや髪飾り、ベルトの模様、ニーハイの上にあるピアノのキー、ネクタイなどを散りばめています。
「新しい初音ミクが生まれるたびに、初音ミクの概念も広がる」
──初音ミクについて深く考えた上で表現に落とし込んでいるんですね。Rellaさんは5年前のインタビュー(関連記事)で、「初音ミクは鏡」と話していましたが、その考えは今も変わっていませんか?
Rella 変わっていません。初音ミクは、鏡のように自分が求めるものを映し出す存在──そこは変わっていませんが、それ以上の深さがあることにも最近気がつきました。
「Little Missing Star」のMVで描かれたストーリーのように、新しい初音ミクが生まれるたびに、初音ミクという概念の幅も広がっている印象です。
これは縮まることなく広がり続けるもので、みんなが求める様々な形で初音ミクは存在し続けると思います。振れ幅の広さというか、受け止められる表現の深さが、初音ミクの特徴だと思っています。
──初音ミクという概念の今後をRellaさんは楽しみにしていると?
Rella 楽しみですね。私が描いた初音ミクの誕生日イラストの中で、最も反響の大きかったのが、10周年の際に描いた「ねぇ、」です。
Rella 衣装部屋で、いろいろな衣装に囲まれる初音ミクを描いたものですが、彼女がどんな服を着ているのかは意図的に描いていません。それは「これから何を見せてくれるのか楽しみ」という意味を込めたからです。
一番綺麗で、一番みんなが見たい初音ミクは、過去ではなく絶対に未来にあると思っています。
「伝えたいことや気持ちを込めて、初めて作品になる」
──作品の細部に至るまで徹底されたこだわりやテーマの言語化など、創作という行為を非常にロジカルに考えているような印象を受けました。西洋美術の知識もそうですが、大学などで本格的に学ばれたのでしょうか?
Rella そうですね。中国の美大はかなり倍率が高かったので、受験の時は死ぬ気で頑張って勉強しました(笑)。でもだからこそ、美術の奥深さにも気づけたし、素敵な先生方と出会って審美眼を身につけることができたと思います。
印象的だったのが、予備校時代の先生の言葉です。私が直接言われたわけではないんですが、生徒が各々制作した作品をもって「自分たちの作品はどうでしょうか?」と意見を求めたところ、その先生は「それは作品ではない」と言ったんです。
──どういうことでしょうか?
Rella 先生によれば、「君たちはテストに合格するために、スキルを上げるために描いているのであって、そこに伝えたいことはありません。本当に伝えたいことや気持ちが込められて、初めて作品になります。だから、まだ自分が作品を描いているとは思わないでください」と。
厳しい指導ですが、その言葉が私の心の中でずっと生き続けていますし、創作への向き合い方にも大きく影響しています。
最初に「活動をはじめてからの10年間は遊びの延長でした」と言ったのも、この先生からの言葉の影響があるからですね。
西洋美術のバックボーンと、とある“贋作画家”の話
──Rellaさんとイラストと言えば、美しい発光表現が特徴です。そういった現在の創作において、学生時代に学んだ西洋美術などからの影響はあるんでしょうか?
Rella あると思います。学生時代は、色彩の勉強でモネをはじめとした印象派の画家の作品を模写していました。
そこで、光が当たると白くなるだけでなく、複雑な色の変化があることに気づいたんです。今の私の作品でも、光の当たり方で雰囲気が大きく変わることを意識しています。
──先ほど展覧会に行かれたお話もありましたが、モネがお好きなんですね。
Rella 西洋美術の画家の中ではモネが一番好きです。モネは印象派の代表的な画家で、油絵の中で光を表現しました。
日本ではレンブラントが光の表現で有名ですが、彼の作品は室内の光が中心です。モネの時代から、絵の具がチューブに入って持ち運べるようになり、画家が外に出て自然光の中で絵を描けるようになりました。
──大学の講義のような話になってきました。
Rella 最後に少し雑談をしていいですか(笑)。美術界には、有名な作品の偽物(贋作)を描いて生計を立てている人がいます。
ある時、亡くなった有名作家の作品だと偽って売り出し、大金を稼いだ贋作画家がいました。その偽物の油絵を、亡くなった作家の家族が見たところ「作家本人が描いたとしてもおかしくない」という評価を受けたんです。
──家族からそう評価されるのはすごいですね。一体なぜでしょうか?
Rella この贋作画家の創作の流れを説明します。彼はまず、その作家が生まれた地域に行き、作家の人生を辿りながら、「この状況なら作家はどう考えるだろうか」というイメージを繰り返しながら、最終的に絵を描き上げたんです。
作家の人生をできる限りエミュレート(真似/模倣)したからこそ、「本人が描いたもの」という評価を得た。人が生きてきた歴史は、その人の作品に大きな影響を与えます。
Rella 私は贋作を描いているわけではないですが──イラストを描く際には、自分の経験や体験を踏まえて、テーマや内容を深く考えて表現しています。
だからこそ今回の個展では、作品それぞれについて背景などをテキストで説明して、来てくれる人たちが私の作品からより多くの情報を感じてもらえることを願っています。
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イベント情報
Rella初個展「Stargazer & Lucid Dream(スターゲイザーと明晰夢)」
- 会期
- 2024/7/25(木)〜8/4(日)
- 時間
- 11:00〜19:00 最終入場〜20:00 終了
- ※7/25のみ11:00〜16:00 最終入場 〜17:00 終了
- 会場
- SAI MIYASHITA PARK 3F
- 〒150-0002 東京都渋谷区神宮前6-20-10 MIYASHITA PARK SOUTH 3F
- 入場料
- 前売券 770円(税込)
- 当日券 880円(税込)
- チケット予約ページ
7/31より一部展示の入れ替えを実施します。
※展示数は予定です。最終的に変動する可能性があります。
<全日程共通>
・個展描き下ろし「asteroid」シリーズ(6点)
・「初音ミク Happy 16th Birthday -Dear Creators-」シリーズ(3点)
・「初音ミクシンフォニー」シリーズ(19点)
・「初音ミク Birthdayファンアート」シリーズ(10点)
・原案担当フィギュアの実物展示(25点以上)
<入れ替え展示>
7/25 11:00〜7/30 20:00
・「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(95点)
7/31 11:00〜8/4 20:00
・「初音ミク ファンアート」シリーズ&「Rellaオリジナルアート」シリーズ(初音ミク34点、Rellaオリジナル7点)
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