映画『カタシロReplica』インタビュー 監督ディズムが向き合ったTRPGとは違う「正解」

「正解」を目指すという不自由さと向き合う

──コントという形ではありますが、『カタシロ』の映像化としては「バカシロ(※)」が存在しています。ディズムさんも出演されていましたが、やはり撮影の感覚は違いましたか?


※鈴木翔平さんと白夜零兎さんが運営するTRPGバラエティ企画チャンネル「スシハンマーch」にて制作されたコント動画。ディズムさんが「患者」役を演じている


ディズム そうですね(笑)。「バカシロ」はコントとして、台本を用意したうえで撮影していたので。

台本があるということは、撮影する時点で「正解」があるんです。明確なビジョンがあり、そこに近づけるため試行錯誤する。

TRPGコント「バカシロ」PL:ディズム

ディズム 一方で、TRPGには答えがないじゃないですか。シナリオという枠組みはあるけど、プレイヤーの選択に基づいてGMがその物語を自由に改変することができる。

だからこそプレイヤーの数だけ物語が生まれるし、どんな結末になっても「今回はそういう話になったね」と受け入れられる。舞台として行った『カタシロRebuild』にも、そういった自由さがありました。

今回は、撮影自体は『カタシロRebuild』と同じ形式でしたが、映像作品として仕上げるためには編集が必要だった。そして編集には、テンポや構成など、きっと何かしらの正解があるんですよね。

自由につくったものを、どこかにある正解という型にはめるために、もう一度試行錯誤する必要があったんです。

僕は定まった正解がないという自由さを求めてTRPGをやっていた部分もあるんですが、かつて逃れようとしたものにもう一度向き合うことになった気分でしたね。

舞台からさらにリアリティを増した世界観

──舞台の話も出ましたが、今回のセットは『カタシロRebuild』の時とは別のものになるのでしょうか?


ディズム 今回のセットは、『カタシロRebuild』の時よりもさらにリアリティを追求したものになっています。

『カタシロRebuild』はライブコンテンツなので、「患者」役の人が物語に関係のない箇所を探ってしまうと、テンポを損なってしまう。なので、関係ない部分は探られないようあえてセットを簡略化していた部分もあったんです。

今回は編集もできるので、本物の医療道具をレンタルしてもらったりと、ディティールを上げてセットをつくり込んでもらいました。

ディテールが追求された小道具

ディズム スタジオにはエタノールのような「病院っぽい」と感じる匂いが漂っていて。撮影時には「患者」役の方の中にも、手術を受けた時のことを思い出したという方がいましたね。


──今回はディズムさんが演じる「医者」も、潜水服のようなマスクを被っているなど、衣装が変わっています。役づくりの一環だったのでしょうか?


ディズム そうなんですが……あれは物語とは全く関係のない事情から始まっていまして(笑)。

僕が顔出しをしていないので、今回のメインビジュアルを描いてくださったしまどりるさんに、衣装について相談したんですよ。

そこで、映画化だしインパクトが欲しいということでフルフェイスのヘルメットを使うことが決まって。

ヘルメットを被っている理由を物語的に落とし込んでいった結果、彼はやはり人間的に壊れている部分があるんだということになりました。

舞台『カタシロRebuild 侵蝕』での「医者」/画像は外部リンク配信アーカイブから

異様な空気を身に纏った『カタシロReplica』の「医者」

ディズム 最終的にはそこから、壊れている人間の演技を模索していって。ビジュアルから逆算的に今回の「医者」像をつくりこんでいきましたね

「患者」役のみなさんも、あんなフルフェイスのマスクを被った人間に「お話をしよう」って言われても、「本当に話す気があるのか?」と感じたと思います。そういう点でも、異様な雰囲気のディテールは上がっていたでしょうね。

惹きつけられる物語を即興で生み出す力

──撮影時のやりとりについて、キャストごとに反応や演じ方は違いましたか?


ディズム もちろん全然違いましたね。特に普段から演技をされているみなさんは、動きや視線、体の全てを使い、間を持たせてお話をされるので。僕もついていくのに必死でした。

あとは、テスト撮影に出演していただいた倉島一幸さんは、目の付け所がすごく印象的でした。これまでも小説家やイラストレーターの方に出ていただきましたが、物語をつくっている人たちの答えには、どこか突飛だったり現実的ではない部分があったりする。

でも、それ以上に魅力的で、惹きつけられる物語が生まれていく。そういうものを即興でつくり出す力を感じました。

物語が生み出される病室

ディズム それぞれの演じ方が違うのは大前提として、どうしたらそれぞれの良さを引き出せるのかを考えながら一緒に演じるのはやっぱり楽しかったですね。

そして「患者」だけでなく、「もう一人の患者」役のみなさんも本当に個性豊かでした。

特に声優の相羽あいなさんなんかは、収録前に軽くお話ししたら「相手がこういう反応だったらこうしよう」と色々なプランを用意してきてくれていて。

VTuber、アイドル、声優と様々な方が演じてくれましたが、みんな演技が熟達していて、相手に合わせてアプローチしてくれました。本当に、全ての回が全く違う話になっているので、ぜひ見てほしいですね。

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4件のコメント

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mirainwonder

小林優介

コメントありがとうございます。KAI-YOU編集部の小林です。
ご指摘いただきありがとうございます。

大変失礼いたしました。該当箇所の記述は先ほど訂正いたしました。
どうぞよろしくお願いいたします。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:10409)

記事楽しく拝読させていただきました。

「惹きつけられる物語を即興で生み出す力」の章の中で声優「相馬愛奈さん」と記載がありますが、上演スケジュールでは「相羽あいなさん」になっています。

個人のお名前なので、お手数ですがご確認いただけますでしょうか。

mirainwonder

小林優介

コメントありがとうございます。KAI-YOU編集部の小林です。
ご指摘いただきました件、大変失礼いたしました。
先ほど訂正いたしました。
どうぞよろしくお願いいたします。

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