男同士の絡みが少ない? 女性読者から観た『葬送のフリーレン』
でも、その割にはっていう感じも一方でないですか?
どういうことですか?
人気なのは間違いないし流行っているけど、『鬼滅の刃』みたいな全国民大熱狂!みたいな勢いは感じないといいますか。
ここでよねさんの話に戻るけど、結局は「物語が少年漫画的ではない」からだなって思っていて……例えば、コスプレとかあんまりいなくないですか?
いや、わかる。おそらく、まだ女性層に強いリーチができてないように思います。ミームの流行り方とかを見ても、なかなか男性比率が高そうです。
現代ではオタク女子に受けないと“覇権”とは言えないですからね。
そうなんです。オタク女子の立場から観ると……男性キャラクター同士の萌え要素があんまないんだよね……。
わがります✋ ただ──黄金郷編で、間違いなく女性人気も爆発します。
マハトと領主のカップリングですさまじいことになります。新見さんの話じゃないけど、完全に女性ファン取りにきたなって思いましたもん。
いや、分かる! 分かるんだけど、そこ一点突破じゃね、ダメだと思うんですよね(笑)。もうちょっと、組み合わせがね、多様じゃないと。少年漫画はそのキャラクターの数と関係性の多様さで女性ファンが食いついてるんですよ。
それでまた話が戻るけど、やっぱり『フリーレン』はすごい少女漫画的で。少女漫画にはBL要素って必要とされないというか、見い出しづらい。
同時に夢女子も、なかなか入りづらい。ヒンメルにはもうフリーレンがいるから。『名探偵コナン』の安室透さんとかみたいに、「あの人の恋人みたいになりたい!」って感情も持ちづらいんです。
強固な公式男女カップリングがあると、なかなか女性層に火がつきにくいっていう。そこで“国民的ヒット”みたいな感じにはなってないんじゃないかなと。すごくいい漫画なんですけど、同人誌が大量に制作される、というようなブームにはなりずらい漫画だと思います。
巷では「ハンター試験編」なんて言われている「一級魔法使い試験編」でたくさん新キャラクターが登場しましたが、それだけだと足りてないですよね。それこそ女性キャラクターが多かったですし。
なるほどね……。それでも黄金郷編で変わると思うけどな。このエピソードは映画化しそうだなって思ってます。
これは予想というか“ネタバレ”レベルかもしれませんが……黄金郷編のオープニングのタイトルは、YOASOBIで「黄金」で決定です!
またYOASOBI!
あり得る!
「黄金」っていう主題歌で、国民的にめっちゃ売れます。映画化の際は、この記事に戻ってきて確認して欲しいです。これは予言です。
フリーレンは、人間を理解することができるのか?
基本的に良い人ばっかりの世界ですよね。悪意がほぼないというか。
主人公チームも、魔族もなんなら無邪気っすからね~。
その点で俺はアウラの「ヒンメルはもういないじゃない」という台詞がすごく象徴的に感じたんです。
これまでの話に繋げると『フリーレン』の世界では“死ぬ”ということは、何かを残すことという価値観がずっとある。アウラの悪気のまったくない「ヒンメルはいないじゃない」っていう台詞は、真っ向からそのテーマを否定している。
なるほどね。
だから、無邪気であらゆる解釈を拒む魔族っていう存在が興味深いなと思うんですよね。
魔族の描かれ方はたしかにすごく気になるトピックですね。僕の好きなキャラクターのマハトのエピソードで特に色濃く描かれているけど。
マハトもそうなんですが、一緒に出てくる無名の大魔族ことソリテールちゃんの存在も大事だなと。
ソリテールちゃんね。人類と魔族が分かり合えない象徴ですね。
最新刊で過去に遡ってまた登場していますね~。わざわざ2回も出すあたり重要そうです。
人間と魔族との間には無理解が横たわっているけど……悲しいだけの結末にはならないはずなんですよ。『フリーレン』の物語のテーマ的に。
僕もそう思いますけど、でも実際後から、死んでしまった人が、自分に恋愛感情持ってたなんて知ったら……もうどうしょうもないからね^^;
というか、フリーレン、あまりに時間感覚も違いますし、最終的には分かり合えない(人間のことを理解できない/ヒンメルと対話できない)と思いますけどね。
絶妙なところだと思う。魔族は本当にわかり合えない存在として、ある種明確に置かれていて。
フリーレンがどっちに転ぶかというと、多分どっち側にもあり得るんだけど、今のところ物語として『フリーレン』が描こうとしてるテーマは、やっぱり俺も継承の方にウェイトが置かれてると思うから、人間を理解する形に帰結するんじゃないかなあ。
うーん。それだと今描かれる作品として陳腐になってしまわないかという危惧が……。
さっき新見さんは『フリーレン』を「すごい現代的な作品」と評していたけど、だとすると「分かり合えない」というメッセージも、すごく現代的だとは思うんです。
「多様性とは、お互い関わり合わないこと」みたいな──よくXでそれっぽく書いてる人いますよね。自分としては、それが嫌だと思ってます。最終的にはすべてに関わりたいし、知りたいと思っているから。
でも現代社会的には、不可能性が横たわっている。実際に今も行われている戦争もそうだし、インターネット上のフェミニズムの人とアンチフェミニズムの人の対立とかもそう。
そういう無理解者同士の関わりを見てると、たしかに無関係でいることこそが多様的な社会を実現する無難な手段なのかもしれない。結論はもう出てて、正直。
だから現代に寄り添った作品だからこそ、フリーレン自身も最終的にやっぱりヒンメルのことも分からないまま終わっていくんだろうなっていう感じで読んでいました。
まあたしかに。
そうですね。
「分かり合えない」ことが、悪いことばかりじゃないっていうのは、僕もその通りだと思ってます。
かつて取材した谷口悟朗監督も「自分の作品では、分かり合えずに逃げることを肯定的に描いてる」という話をしてたんです。
この今の時代性っていうところも含めて考えると、完全なハッピーエンドではないかもしれないけど、ある程度そういう結末もあるかもしれないと思います。
他者と他者は「分かり合えない」ことを知るのも、また成熟だとも思います。
あと、明確に『葬送のフリーレン』の現代的な価値観が、そこに出てるかなと思ったんです。僕の一番好きな漫画は『幽☆遊☆白書』なんですけど、『幽☆遊☆白書』って完全に和解するじゃないですか。
はい、はい。
最終的には、霊界も魔界も人間界ももうごちゃごちゃに入り乱れて撹拌状態になる。行ったり来たりできるようになって、人間の世界にも、魔族たちが普通に生活するような世界観になる。
でもそれはもうかつての「理想だった価値観」なんじゃないかと。戦った後は完全にノーサイド。でも今の物語は、もう完全に敵と味方は最後まで無理解で、憎しみ合う。『鬼滅の刃』もそうだったよね。
なるほど。ただ、フリーレンが人間を理解できるか/理解できないか──そのどちらに転んでも、陳腐にはならないと思ってて。だからそのために魔族がいるんだなと思うんですよね。
人間を理解する側にはどうしてもいけなかった、それこそifの存在としての魔族。
魔族の「人間を知りたい」けど関係を持てない、その気持ちに肩入れしちゃってます。
そう。それがキャラとして際立ってるからこそ、フリーレンには別の道が残されているんじゃないかと思っています。
冷徹なテーマだなと思う。結局、分かり合えない存在としての魔族は死んでいくしかないという描かれ方もしているから。
フリーレンも魔族と「共存はできない」って言い切ってて、ことごとく抹殺しますからね。
そう。
フリーレン、戦う前は「絶対に勝てない」とか言ってるのに、戦ったら絶対に殺してるから、やめてほしいですね^^;
完全に、100%キラー! 共存の道が今のところ完全に絶たれている。なかなか冷徹な視点ではあるなと。
魔族のことは必殺だけど、人間のことは分かろうと歩み寄ってるじゃないですか、フリーレン。分かろうとしてるっていう……それをすることはすごい大事だと思う。
そう思います!
そのテーマで描いてて、最終的に「分からない」だったら、悲しいなと思っちゃいます;;
わがります✋ フリーレンというキャラクターで少し気になるのは、自分は「人間を知るための冒険」をしてる反面、魔族に対しては「知ろうとしてるから危険だ!」みたいなことを言って殺すんです……。
その矛盾が気になっていて、フリーレン自身は、今後そこに気づいたりすることあるのかなって、今後の描かれ方に注目したい部分です。
うーん。そうですね……。
魔王はマハトと同じくらい、人類との共生を望んでたという話じゃないですか。実際にどんな奴だったのか、すごい気になりますよね。魔王の正体が明かされるのはだいぶ後半になりそうな気はしているんですけど。
結構、『葬送のフリーレン』は長期連載になりそうですね。
前の魔王討伐の冒険が、作中で10年かかったという話でした。今の旅が始まってから、何年経ってるんでしたっけ?
フェルンを引き取ってから、実はまだ4年ぐらいしか経ってないですね!
そうなると、めちゃくちゃ長くなりそうですね、本当に。
このペースで物語が進んでいくと、36巻くらいになる計算ですね! 今後も楽しみです!
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その時々のエンタメ業界に現れた覇権コンテンツについて編集部が議論する連載。コンテンツ自体はもちろん、そのコンテンツが出てきた背景や同時代性、消費のされかたにも目を向け、ネタバレ全開で思ったことをぶつけ合っていきます。
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