連載 | #10 KAI-YOU編集部ネタバレ全開座談会

『葬送のフリーレン』座談会 成熟と喪失、冷徹なリアリズムと緻密なファンタジー

『葬送のフリーレン』を江藤淳『成熟と喪失』から考える

SNS上では、ネタとして扱われがちな側面もあるんだけど──とても真摯な物語だなと僕は思っております。

そうですね。

私、読み始めた時から「これ、よねさん絶対好きな話だな」って思いましたね。もう明らかに“継承”をテーマにしてるって思って!

継承!?

どう次世代へと受け継がれていくか、みたいな。前にポケモンでそういうコラム書いてたじゃないすか。

なるほど。そういう意味では今回はむしろ逆の側面で注目していて……。批評家の江藤淳っているじゃないですか。

江藤淳!?

出た、文学部。

江藤淳っていう国内でも有数の文芸評論家がかつておりまして。代表作に『成熟と喪失』っていう評論があるんです。

江藤淳『成熟と喪失』(画像はAmazonより)

その中でとても有名な一節があって「『成熟』するとは、喪失感の空洞のなかに湧いて来るこの『悪』をひきうけることである」っていう論があるんですけど。

『葬送のフリーレン』は、まさにそこから始まってるんです。ヒンメルを喪うことによって、人を知りたいと願うようになる。それを第1話に持ってきてるっていうのが本当にすごい。そこで反少年漫画的だと思ったんですよ。少年漫画の形式というのは、獲得していく物語だから。

それは言い方を変えると、もう最終話の結論も見えてるっていうか……。

なるほど。

フリーレンって1000年以上生きてるんですけど、基本的にはとても子供っぽいじゃないですか。同時におばあちゃん的でもあるという、非常にアンビバレンスな存在として描かれています。

基本的には他の人からも子供扱いされてるんだけど──俺はもう第1話の時点で、フリーレンはもう江藤淳的な意味で“成熟”しきったと思ったんです。

そして、それを確かめる旅になると。だから結局、最終地点まで行っても、その喪失を味わうことになる。つまり、ヒンメルとは二度と出会えないということを決定的に思い知らされる結論になると思うんです。

はい、はい。そうですね。

俺は学生時代から江藤淳の『成熟と喪失』にとても影響を受けているので、こんなにどストレートに描いてるの、良いな^^って思って!

そういう見方してたのね。よねさんは受け継がれていくんだ、みたいな話が好きなのかなって思ってました。

受け継がれていくとか、誰かの記憶に残るとか、すごい大切なことなんだけど……。

まず、フリーレンはかなり特殊なキャラクターじゃないですか。“葬送”の名の通り、フリーレンの人生は喪失の連続で、はるかにそこらの人間より喪失していく。とても興味深いです。

なるほどな~。

だから作品の中でアナウンスされる時間経過も重要で。はじまってからもう20年ぐらい経ってるのかな。

勇者ヒンメルが死んでからは30年ぐらいは経ってるはずですね。

そうですよね。だからフェルンをはじめ、周りの子たちはどんどん大人になってくんだけど、フリーレンは成長性もすごく遅いというか基本的に停止していて。

むしろさっき言ったように、第1話で何よりも強い喪失を経験して、成熟した。だからすごい、アンチ少年漫画だと思ったのです。

なるほどね。他の方はどう思われますか?

よねさんの言ってること、めちゃめちゃ面白いです! だからさっきすごい特殊な漫画って言ってたんですね。

たしかに少年漫画は、何もないところから、仲間を獲得して、成長して──みたいな感じですもんね。

そう。でもフリーレンは、少年漫画的には結論からスタートしている

これからも、仲良くなった人も、勝手にみんな先に死んでいく(涙)。ここまで失うことによって成熟していく、完成していくっていうキャラクターってこれまでいたのかなと。

同時に、これこそ生きとし生ける人間の本質なんだよなって思った次第でございました……。フリーレンのことを思うと泣けてきます( ;∀;)

だから僕もハマったのかなって思いました。

よねさんの話を聞いて納得したというか。自分でも王道とは違うし、フリーレンのキャラクターについても、随所で良い意味で違和感を感じてたというか。

本来こういうファンタジーもののキャラからしたら、すごい違和感あるんだろうなと思って読んでて。僕、本当にこのファンタジーっていうジャンルが苦手で。

苦手なんだ!

それこそ勇者一行が魔王を討伐しに行く! みたいなテンプレートがダメなんですよね……。

苦手なのって、最近のファンタジーとか「なろう系」とかの話ですかね?

いや昔からあるRPGとかもそうですし、なんなら『指輪物語』とかもです。

なので、僕も『葬送のフリーレン』はKAI-YOUで記事になったりもしていて、存在は知ってたんですけど、アニメになってから「ああ、こういう話なんだ」と知って。“魔王が討伐された後の物語”という設定だけで、まず個人的には新鮮だったんですよね。

で、なおかつ、その勇者一行って役割が決まってるじゃないですか。僧侶がいて、魔法使いがいて、みたいな。今まで全然ファンタジーに触れてこなかったから「やっぱパーティーにはこういうメンバーが必要だよね」みたいな会話とかも含めて、とにかく新鮮で楽しめてます。

ああ、そうなんだ。逆にね(笑)

それでフリーレンが「人間を知ろう」という目的で旅をはじめるのも良くて……今のよねさんの話を聞いて、その良さの理由が分かったというか、心底納得してしまいました!

ありがとうございます。この座談会のために僕、ちゃんと考えてきてるんで!

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