「押井さん、歳とったね」 劇場版『攻殻機動隊』神山健治が語った押井守の変化

「押井さん、歳とったね」 劇場版『攻殻機動隊』神山健治が語った押井守の変化
「押井さん、歳とったね」 劇場版『攻殻機動隊』神山健治が語った押井守の変化

劇場版『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』の舞台挨拶に登壇した押井守監督と神山健治監督

劇場版『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』の公開を記念した舞台挨拶が、12月2日にグランドシネマサンシャイン池袋で開催された。

総監督をつとめ過去に『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』も手がけた神山健治さんと、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『イノセンス』の押井守監督が登壇。

アニメ「攻殻機動隊」シリーズに深く携わってきた両名による貴重なクロストークが繰り広げられた。

Netflixで独占配信されている『攻殻機動隊 SAC_2045』の振り返りや、年齢を重ねたことで変化した2人の心境など、舞台挨拶の席で語られた言葉をお届けする。

目次

アニメ最新作『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』

士郎正宗さんのコミックスを原作にしたアニメ「攻殻機動隊」シリーズ。舞台挨拶に登壇した押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を皮切りに、多数のTVアニメと劇場版アニメが制作されてきた。

『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』は、シリーズ最新作として、11月23日から3週間限定で劇場公開中。

Netflixで独占配信されている『攻殻機動隊 SAC_2045』シーズン2を、『新聞記者』『余命10年で知られる藤井道人監督が新たな視点を加えて再構成した作品だ。
『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』追告PV

時代をテーマに物語をつくることの難しさ

『攻殻機動隊 SAC_2045』の制作終了から2年。舞台挨拶は、神山監督による振り返りからスタートした。

神山監督は、「たった2年で社会情勢もかなり変わりました。『攻殻機動隊 SAC_2045』シリーズで描こうと思っていたことも、次々にパスされています。時の流れの早さを感じますね」とコメント。

神山健治総監督

その言葉に押井監督は、「(神山監督が)時代というテーマを相変わらず追いかけているんだなと。世界で今何が起こっているのか。これから何が起こるのか。彼の興味はそこあるんだろうなと思った」と重ねる。

続けて、「今時代をテーマに物語を創作するのは大変なことなんです。時代のほうがどんどん進行してしまうから。ウクライナとロシアが戦争状態になるなんて、たぶん誰も予想していなかったですよね。こういうことがあるから、時代を映画という視野・射程で描くのは相当に勇気がいることなんですよ」と、神山監督の挑戦に感心した。

また、その挑戦する姿勢を自身の制作スタイルと照らし合わせて、「僕が今そういうリスクを取って物語をつくれるのかと考えると、わからない。『攻殻機動隊 SAC_2045』はそういう意味でも意義ある作品です」とも評した。

押井守監督

押井守「虚構なしに生きている人間は誰もいない」

現実とフィクションが抜きつ抜かれつの関係だった過去を経て、現実がフィクションを追い抜いていく現代。

そんな時代だからこそ、「映像として表現するスピードも映像作家に求められるのでは?」という質問が、司会のアニメライター・藤津亮太さんから神山監督に投げかけられる。

全編3DCGで制作されている『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』

これまでと全く異なる制作環境という意味でも挑戦した作品に

「(3DCGということもあり)結構な時間がかかりましたね。制作にかけたのは5年ぐらいなんですが、その間に“サスティナブル”という言葉が笑われる対象になって、忘却されました。本当に時間の流れが早くて(笑)」

苦笑しながらこう質問に答えた神山監督。しかし、これまで手がけてきたアニメ「攻殻機動隊」シリーズは、押井監督が言うように“時代を追いかけようとして制作”したのではなく、「その時その時の自分が欲しているものをつくってきただけ」と話す。

例えば、『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』で重要な要素になったダブルシンク(※1)も、今欲しいものを探す中で見つけたもの。「もっと希望のあるものを探していたんですが、ここに来るしかないんだろうな」と、制作を進めるうちにたどり着いたものだという。 このダブルシンクについて押井監督は、「虚構なしに生きている人間は誰もいない」と言及。

「僕みたいに歳をとってくると、ごく自然と現実と自分との間の落とし所が見つかって、現実は現実で悪くないなと思えてくる。だけどそう思えない人は、夢のような世界を希求することもあったりする」と話した。

そしてこの言葉を呼び水にして、トークトピックはダブルシンクを巡る物語でもあった本作のクライマックスへ。

神山健治「押井さん、変わったね。歳をとったね」

クライマックスは、ダブルシンクを生み出したシマムラタカシが、草薙素子に対して世界中を現実に戻すためにコードを抜くか、それとも虚構の中で生き続けられるようにコードを抜かないか、最後の選択を迫る場面だった。

この場面について押井監督は、「たぶん神山的には結論を出したくなかったんだと思う」と発言。話を向けられた当人は「……そう見ましたか(笑)」と答えるのみ。含みのある言葉に会場が笑い声に包まれた。ちなみに、押井監督は「コードを抜く派」だという。 この結論を聞いて神山監督は、「押井さん、変わったね。歳をとったね」とどこか感慨深そうに一言。

「押井さんは『イノセンス』をつくっていた頃に“身体性”とよく言っていて。当時は今ほど“死”が身近ではなかったからか、今とは反対のことを言っていた気がする」と、在りし日の思い出を振り返る。

後輩のしみじみとした回想に押井監督は「歳をとるってそういうことだからね。人生って楽しかったり苦しかったりの両方があるから、生きる実感が湧くと思うんですよ。それが、自分が自分であることの根拠になって、誰にも代えられない自分、いわば“代替不可能性”ってやつになるんです」と、持論を展開した。

※1 ダブルシンクとは、現実と並行する形で自身が思い描く虚構を生きている状態。『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』のキーパーソン・シマムラタカシが生み出した。

神山健治が考える劇場版『攻殻機動隊』のラスト

では、総監督として制作を指揮した本人は、あのクライマックスについてどう考えているのか。

神山監督は、かつて手がけたTVシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の12話「タチコマの家出 映画監督の夢 ESCAPE FROM」(※2)を引用。「あの時の素子は躊躇なく抜いた。現実を生きろと。でも、今回はどうしようかなあと思った」と、経年による価値観の変化があったと告白。

「『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』から20年以上経って、僕も歳をとって考え方も変わっただろうし、世の中もだいぶ変わってきましたから」

また、ふいに良い機会であるからと、「会場に来られている方はどう思いましたか?」と来場者へ質問。結果は、コードを拔く派と抜かない派でほぼ半々となった。 そして最終的に、「もちろん僕自身の結論もあります。しかし、やはり観る人それぞれの判断で良いんじゃないでしょうか。どのようにも受け止められるつくりにはできていると思います」と神山監督。

素子も決断の行方は、それぞれのゴーストが囁くままに……ということだった。

※2 「タチコマの家出 映画監督の夢 ESCAPE FROM」は、不遇をかこった鬼才映画監督の電脳世界を主題にした『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の12話。電脳世界にダイブした人間が、そこで鑑賞できる映画に魅せられて現実に戻ってこなくなる事件が描かれた。

©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊 2045 製作委員会

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