漫画『攻殻機動隊』などを手がけた士郎正宗さんの展覧会「士郎正宗の世界展~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~」が、4月12日に開幕した。
会場の世田谷文学館では、300点以上の漫画原稿を含め、総数約440点の品々を展示。弐瓶勉さん、大暮維人さん、CLAMPら漫画家をはじめとする各界のアーティスト、そしてBE@RBRICKなど著名ブランドとコラボした商品が多数発売される。
KAI-YOUでは、4月11日に開催されたメディア向け内覧会を取材。
2001年から士郎正宗さんの担当編集をつとめる講談社の桂田剛司さん(ヤングマガジン編集部・編集次長)へのインタビューと共に、クリエイター・士郎正宗の意外なエピソードと共にレポートする。
会場入口で『攻殻機動隊』の草薙素子が迎えてくれる/©Shirow Masamune/KODANSHA/©Shirow Masamune/SEISHINSHA/©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」
代表作『攻殻機動隊』などの作品群を網羅──士郎正宗の軌跡を辿る
「士郎正宗の世界展」は、4月12日から8月17日(日)まで開催される、士郎正宗さんにとって初の大規模な展覧会だ。
漫画原稿340点弱(アナログ原稿約220点、デジタル原稿約120点)、作業道具や画材といった愛用の品が焼く30点、幼少期から読んできた本などの蔵書60冊、漫画・アニメ・現代アートなどの作家とのコラボレーション作品約10点を展示。
代表作の一つである『攻殻機動隊』を中心に、初期作品の『ブラックマジック』や『アップルシード』、『ドミニオン』『仙術超攻殻ORION』、そして現在に至るまでの軌跡を辿ることができる。
士郎正宗さんの遍歴をまとめた年譜/©Shirow Masamune/KODANSHA/©Shirow Masamune/SEISHINSHA/©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」
貴重な原画など、数々のイラストが展示されている/©Shirow Masamune/KODANSHA/©Shirow Masamune/SEISHINSHA/©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」
士郎正宗さんは、漫画家としてデビューした1980年代から、まだ世に浸透していなかった先端技術を独自の感覚で捉え、いち早く電脳化した未来を表現してきた。その驚くべき創造性を、会場では直に体感することができる。
担当編集である桂田剛司さんは、「作品を追うごとに、劇中の世界が少しずつ僕らの生きる時代に近づいてくる。同時に、時代が進むにつれて、作品で描かれたことに対する僕らの理解がだんだんと深まってくる。士郎正宗作品の射程が、遥か未来にまで及んでいることがよくわかると思います」と話した。
手作業で原稿を描いていた頃に使用していた用具も展示/©Shirow Masamune/KODANSHA/©Shirow Masamune/SEISHINSHA/©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」
士郎正宗に関する証言「クリエイターへの度量が広い、愉快な関西のおじさん」
士郎正宗作品のSFやサイバーパンクなどにおける革新性は、後のクリエイターたちに多大な影響を与えてきた。日本を代表するクリエイターの一人として、世界中からリスペクトを送られている。
文字通り巨匠と呼ばれる存在だが、果たしてその人柄はどのようなものなのか?
代表作『攻殻機動隊』は、サイエンスSARUによる新作の続報も公開された/©Shirow Masamune/KODANSHA/©Shirow Masamune/SEISHINSHA/©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」
桂田剛司さんに言わせれば、「普段は愉快な関西のおじさん」。
「言葉も丁寧だし、人をよく気遣うし、優しい人」だという。
会場内には歴代作品とそのキャラクターのイラストが勢揃い/©Shirow Masamune/KODANSHA/©Shirow Masamune/SEISHINSHA/©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」
特にクリエイターに対しての度量が広い。
押井守監督によるアニメ映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』をはじめ、神山健治監督によるアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(攻殻機動隊 S.A.C.)」シリーズなど、多くのアニメが制作されてきたのは、原作者の人柄に起因するところも大きいのかもしれない。
担当編集が驚愕する士郎正宗の想像力「本当にクレイジーでとんでもない人」
一方で、あまりに突飛な想像力を目の当たりにし続けてきたために、「士郎さんは想像力が本当にクレイジーなんだよなあ……(笑)」とも語る。
「たとえば、ネット上で繋がるという概念も、今は容易に想像できるけど、80年代や90年代は体感できなかったからわかりませんよね。“電脳空間っていったい何なんだ!?” って。それを90年代に描いてたんですから、とんでもない人ですね」
AI搭載多脚戦車・フチコマのイラストも/©Shirow Masamune/KODANSHA/©Shirow Masamune/SEISHINSHA/©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」
桂田剛司さんはさらに、「自分は妄想してるだけだって言うけど、1991年に刊行された『攻殻機動隊』の解釈でも僕らはいまだに議論しているんだから、どんな密度なんだと(笑)」と付け加えた。
原稿から伝わってくる独創性は、やはり圧倒的らしい。
四半世紀近くの間、一番近くでそのクリエイティブを見てきた桂田剛司さんでも、いまだに驚かされることばかりなようだ。
ネットは広大……だから? 士郎正宗と担当編集との不思議なやり取り
遥か未来を見通したかのような作品の数々は、時代が進むごとに読むことで、まるで答え合わせをしているような感覚さえ覚える。
本人が言う「妄想」という名の想像力で、予想できないテクノロジーを描いている士郎正宗さん。一方で、桂田剛司さんによれば、実はアナログな一面があるという。
「サイバーパンクな作品からすると意外かもしれませんが、士郎さんとのやり取りは今でも基本的にお手紙なんです。メールで送った時点で、ネット上のどこで盗まれるかわからないからと」
会場入口には特大サイズの「ネットは広大だわ……」(素子)が出迎えてくれる/©Shirow Masamune/KODANSHA/©Shirow Masamune/SEISHINSHA/©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」
さらに、アナログな一面は原稿にも。
「原稿もCD-Rに焼いて届くし、テキストも画像(印刷物)として送られてくる……書いたのならテキストありますよね? と聞くと“ないです”と(笑)。そこは担当になってから現在まで変わっていません」
意外であると同時に、ネットの広大さやそこで発生する事件を描いてきた士郎正宗さんならではかもしれない──と、妙に納得してしまったという人も多いのではないだろうか。
最後に桂田剛司さんは、「僕は今ガラケーも持っているんですけど、それは士郎正宗さんのためのガラケーなんです。いまだにガラケーだから」と明かしてくれた。
漫画のカバーで素子になりきれるフォトスポット/©Shirow Masamune/KODANSHA/©Shirow Masamune/SEISHINSHA/©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」
「ロボットの反乱」コーナー/©Shirow Masamune/KODANSHA/©Shirow Masamune/SEISHINSHA/©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」
そんな不世出の作家・士郎正宗の世界を体感できる「士郎正宗の世界展」は、8月17日まで世田谷文学館で開催中。
漫画『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』のカバーで素子になりきれるフォトスポットや、漫画内のエピソード「ロボットの反乱」コーナーなどもあり、ファンはもちろんのこと、ポップカルチャーに関心があるならぜひとも訪れてほしい。
©Shirow Masamune/KODANSHA
©Shirow Masamune/SEISHINSHA
©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」

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イベント情報
士郎正宗の世界展~「攻殻機動隊」と創造の軌跡~
- 会期
- 2025年4月12日(土)~8月17日(日)
- ※月曜日は休館日(祝日の場合は開館、翌平日休館)
- 会場
- 世田谷文学館(東京都世田谷区南烏山1丁目10−10)
- 主催
- 公益財団法人せたや文化財団世田谷文学館、講談社、パルコ
- 企画協力
- 青心社
■特別協力:士郎正宗
■後援:世田谷区、世田谷区教育委員会
グラフィックデザイン:坂脇慶、飛鷹宏明
■空間構成:トラフ建築設計事務所
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