中国SF『三体』ガチ勢のVRクリエイターたちが実写ドラマ版を語り尽くす

VRは、未体験を人に伝える最強のツール

──作中のVRゲームは、ある文明の価値観を理解するための装置として用意されていると感じました。クリエイターの皆さんとしては、作中で描かれたVRのそうした機能についてどのように思われますか?

例えば、VRSNSの「VRChat」では、東日本大震災の被害にあった町をモチーフにしたワールドがあります。

普通に見ると何にもない更地だけど、カメラ越しに見ると津波で流されてしまう前の家が建って見える、というような。

一人称で他者の体験を我がこととして再体験できる、みたいな機能に関しては本当にVRってドンピシャの技術だと思っています。

人類の文明において、未体験の人にそれを体験させる方法って、読ませるか聞かせるか、映像で見せるかしかない。

それを複合して人体に害を与えることなく再現できる方法として、VRが一番いいと思うんですよね。

例えば僕らは、ネズミの視点を体験できない。でもVRだと、階段は一段上がるのも精いっぱいだし、チーズが身体くらい大きい、床の汚れ超見えるみたいなことがわかりやすい。

自分ごととして感じられるっていうところですよね。

『三体』作中のVRゲームの特徴の一つが、ストーリー上の主人公がいない、自分が自分としてプレイするゲームだということです。自分が主人公という状態で、その世界に入っていく。

そしてゲーム中では「この世界は大変なことになっているんだよ」と説明する人物をあえて登場させずに、プレイヤー自身が大変だと痛感できる環境を再現している。

その文明をその文明たらしめているものが何なのかをちゃんと再現しているところや、再現しようとする姿勢が、相互理解においても大事なのかなって思います。伝えたいことの核が明確になっている・含まれていると、相互理解のツールとして、VRは有効な手法ですよね。

例えば、製造現場での安全教育にもVRが利用されているんですよね(「安全道場VR」)。

工場の大型カッターの危険性って、究極、自分の手を切らないと実感はできないじゃないですか。でも当然、研修で手を切るわけにはいかないので、VRで体験してもらうんだそうです。VRで怪我をすると実際ビクッと反応するくらい、その危険性を実感してもらえる。

──理屈ではなく、体験として理解・共感に繋がる。

やっぱりVRの体験って、本当に一人称の深いところに刺さるんでしょうね

逆に、VRゲームじゃない手段であの文明を伝えるとしたらと考えたんですけど、多分無理だと思うんです。

口頭で説明をされても、ドキュメンタリーフィルムを見せられても「そうなんだ」で終わっちゃいますからね。

──原作小説でもちょっと理解の追いつかないパートではあると感じました。

原作だと、突然「脱水」とか「再水化」とか言われて「これは今、何を読まされているんだ?」となる人も多い部分だと思います。

だからこそ映像化してくれてありがたい、嬉しいポイントですよね。

伝えること、体験してもらうこと──『三体』を通して

──『三体』はVRゲームを用いた価値観の理解はもちろん、文化革命による科学技術への迫害など、技術とコミュニケーションがテーマの一つであると感じます。クリエイター/技術者である皆さんは、VRの魅力などを伝えることの困難さにどう向き合っていますか?

まず、当事者になるのは大事だと思います。

自分がその技術を使って何かつくってみて、当事者になる。VRにハマっていく過程や学ぶ過程を記録しておいて、それを他者に見せるようにしています。

例えばVRChatだったら、いきなり「ヘッドセット買ってください」と言っても難しい。まずデスクトップで、どういう世界なのか視覚的にわかってもらう。そこから、こういうハードを買えば手足を動かせるようになるんです、と段階を追って説明していく工夫が必要かなと思いますね。

あとは映像で伝えるのを心がけるようにしています。

VRコンテンツって、言葉や写真では伝わらない。今回の映像化もそうだと思うんですけど、文章だったものが映像になることで感情移入しやすくなりますよね。

映像に付随する情報もすごく大事で、ただ映像に「行ってきました」ってやるだけよりも、「これ超良かった、めっちゃ見てほしい」っていう文面が添えられてると、自分も行ってみたいな、気になるな、ってなってくるんですよ。

ハシャいでる人のレポって、間違いなく興味をそそるんですよね

まさに私が『三体』で大はしゃぎしていたら周りの人も読んでくれたように、いわゆるハシャぐオタクが一番のマーケティングになるというのは本当だと思っています。

──その人を中心に、その熱が波及していきますよね。

あとは相手のニーズは何なのかを見極めるのも大事ですね。

例えば私は、3Dモデリングを一切したことない人に3Dモデリングを教えるというライフワークがあるんです。これって3Dモデリングに興味ない人は、多分ついてこれないんですよ。

「3Dモデリングを身に着けるとこんな面白いこともできるんだよね、こんなものもつくれるんだよね」っていうプレゼンをして、まず3Dモデリングをやってみたいって思わせることを大切にしています。

単独で意味の伝わらない技術は、何が可能になるのかをあわせて伝達することによって初めて興味を持ってもらえる。それは意識していますね。

僕もVRのデモンストレーションをすることがあるんですけど、やっぱりまずはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を被ってもらってからプレゼンを始めます。

普遍的なことだと思いますけど、体験してもらうのは大事。その手前として映像体験があるんだと思います。

『三体』でも汪淼先生が、自分の目にしか映らない情報を他者にどう伝えるのか、そもそも文化革命のときにどうしたらよかったのかという話が出てきて、難しいなって考えました。

どうしたらいいんだってあがいているからこその、このドラマですよね。全てが完璧に伝達できていたら何のドラマも生まれない。

zenさんが言うように、興味がない人に伝えるのは難しいから、興味を持ってもらうところから始める。

『三体』を布教するときも同じ問題があるんですよね。布教される相手は『三体』に興味を持ってないわけですよ。読み始める前にどうやって興味を持ってもらうか、みたいなところは考えますよね。

ロマンを伝える……。

でも、私ちょっと反省しました。

さっき大上段に構えて「興味を持ってもらう必要がありますね」なんて言ってましたけど、私、友達に『三体』を読んでもらうときに全巻買って送りつけて、「読んでくれ!」っていう最悪のムーブをカマしてました……。

(笑)。でも、これだけの体験をできる物語としては、『三体』は安いと思う!

是非この機会に、ドラマからみんなに触れてほしいですね。

ドラマ版『三体』を観る
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WOWOWの放送および配信情報

SF超大作「三体」(全30話)[WOWOWプライム][WOWOWオンデマンド]

<放送情報>
◆第1話~第10話:11/1(水)~11/3(金・祝) / 11/7(火)・11/14(火)
◆第11話~第20話:11/4(土)・11/5(日)/ 11/21(火)・11/28(火)
◆第21話~第30話:12/9(土)・12/10(日)
詳細ページ:https://www.wowow.co.jp/detail/193550
<配信情報>
各話放送後、アーカイブ配信あり
配信ページ:https://wod.wowow.co.jp/program/193550

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