連載 | #27 KAI-YOU COMIC REVIEW

『ぼっち・ざ・ろっく!』6巻レビュー 結束バンドが向き合う“日常”の変化と多層性

『ぼっち・ざ・ろっく!』6巻レビュー 結束バンドが向き合う“日常”の変化と多層性
『ぼっち・ざ・ろっく!』6巻レビュー 結束バンドが向き合う“日常”の変化と多層性

『ぼっち・ざ・ろっく!』第6巻書影

はまじあきさんの連載漫画『ぼっち・ざ・ろっく!』は、“ギターヒーロー”の異名を持つ実力者であるものの、重度の陰キャで人見知りである“ぼっちちゃん”こと後藤ひとりが、作中バンド「結束バンド」の仲間たちと共に成長していく物語です。

2022年末まで放送されたアニメ化を経て、作品およびキャラクターの人気が非常に高まりました。

さらに劇中曲などを収録したアルバム『結束バンド』は商業音楽として、あるいは批評性の高い音楽作品として、両側面で有意義な成果を上げています。

目次

『ぼっち・ざ・ろっく』第6巻の見どころ

さて、原作『ぼっち・ざ・ろっく!』は、結束バンドが〈未確認ライオット〉オーディションを経て、インディーズレーベル〈STRAY BEAT〉と契約し、デビューEP(ミニアルバム)の制作・レコーディングに入るなど、新しいチャプターに入り込んだところです。

8月25日に発売された第6巻では、ライブハウス店長・伊地知星歌の誕生日ライブ、そして喜多郁代の家出事件を中心に話が進み、キャラクターたちが「将来」というシリアスな課題に向き合う姿が描かれます。

もちろんシリアスなだけではなく、レーベルマネージャー・司馬都の実情や、ヒモや半グレに誤解されるぼっちちゃん、48時間アルコールを抜いた廣井きくりの素面の姿など、突っ込みどころが満載。

緻密な情報量と息をつく暇のないギャグが連発され、非常に満足度の高い巻でした。

ただやはり重要なのは、“遊び”を越えた音楽組織(バンド)として習慣的に練習・創作・ライブを行う日常、レコードデビューへの準備と責任、そして学生身分における喫緊の現実ともいえる進学/進級問題にまで、「結束バンド」が置かれている状況を多層的かつ多角的に映し出していることです。

デビューするって事は色んな人の思いを背負うって事なんだ!! 後藤ひとり『ぼっち・ざ・ろっく!』第6巻中

「結束バンド」の新たなステップ

6巻における「結束バンド」の状況は、全メンバーが現役高校生のロックバンドとしてはかなり成功していると言っていいでしょう。

彼女たちにとって音楽活動はもはや日常であり、ライブやオーディションの成敗で常に窮地に立たされていた中盤のエピソード群より、緊張の度合いは少し落ち着いたようにも思えます。

それでも私はこの段階に入って、さらに作品への愛着が湧きました。なぜなら、音楽が実際につくられる現場を映そうとする同時に、結束バンド自ら本格的に音楽シーンに進むための大事な一歩が描き出しているからです。

個人的な思いですが、音楽が実際につくり出される現場をフォーカスした物語を読んでみたい──あるいはつくってみたい──という気持ちが常にありました。

例えば、こんな場面が思い浮かびます。映画『ラブ&マーシー』のように、ザ・ビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)のブライアン・ウィルソン(Brian Wilson)さんのスタジオ・レコーディングにまつわる話を劇化した物語。

もしくは、ドキュメンタリー『ザ・ビートルズ: Get Back』のように、ザ・ビートルズ(The Beatles)末期のプロジェクト「ルーフトップ・コンサート」が迫る中での作曲とレコーディングの現場。

作品の雰囲気こそ違いますが、漫画/アニメ『推しの子』が愛される大きな理由の一つにも、やはり芸能界の「空気」をわかりやすくも現実的に伝えたことがあると思います。 そこで映される現場は、そんなに輝かしいものではありません。日々の仕事を淡々とこなしたり、投資と収益の問題、そして技術的工夫に苦しんだり……。

『ぼっち・ざ・ろっく!』の漫画的誇張の向こうにも、そんな日常がうっすら見えるのは私だけの感覚ではないはずです。

「日常系のニュー・スタンダード」として──いかなる日常が描かれるか

『ぼっち・ざ・ろっく!』アニメ版や『結束バンド』アルバムにロック・シーンからも反響があったのはおそらく、下北沢シーンの風景を面白おかしく再現し、その場所を実際に担うアーティストが意気投合して音楽をつくり上げたからだと思われます。
結束バンド「あのバンド」LIVE at STARRY
そのようにシーンとの厚い関係を築けたきっかけの一つとしてあるのは、やはり作品がシーンの「空気」を鋭く見抜いているからでしょう。

にぎやかなフィルターの向こうには、作品の序盤からバンド活動において不可欠な集客ノルマの件を重要な話題に持ち出したり、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を使った編曲とレコーディングの事情を描いています。

最近のエピソードでは、レコーディングやミキシング、ポストプロダクション、さらにグッズやメディア展開など、現実的なバンド運営の諸々が見えてきます。

音楽制作の工程は経済・技術・創作における研究と忍苦の時間を経るものです。それが日常になっていく現場は、常に輝かしいものとは限りません。

結束バンドにはっきりとした目標があるわけでもありません(もちろん虹夏には、バンドを続ける動機がありますけれど)。

4~5巻の紹介文には、“令和のきららのニュー・スタンダード”という評が書かれています。

ただ音楽を中心とした居場所があって、そこにも“日常”が廻り得ることを、本作は捉えているように思います。その核心を捉えたからこそ、「日常系のニュー・スタンダード」という評を獲得したのではないでしょうか。

高校生としては、あっという間に進級や卒業を控える「結束バンド」のメンバーたち。彼女たちが音楽を通して育んでいくであろう将来が長く続くことを、楽しみにしています。

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『ぼっち・ざ・ろっく』の道のり

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