「裏ワザを使うと、詞って書けるんだなって思いましたね。」
sasakure.UK あと、僕は「HOME」の歌詞の内容から冒頭はネガティブだけど、サビにいくにつれて人とつながれる暖かさを感じていました。今回ボーカロイドでアレンジする機会をいただいて、歌詞の内容とボーカロイドは無機質だけどあったかい部分が似ているなとも感じましたね。それを踏まえて、仮歌でいただいたサカモトさんの歌いまいわしをボーカロイドで再現して、人間っぽく歌ったようにしているんですよ。サビでサカモトさんの歌そのものを重ねているのも同じ理由です。
サカモト教授 僕の歌を使いたいと言われた時は恥ずかしかったですね(笑)。でも、歌詞を書くのって自分の内面をさらけだすので、とにかく恥ずかしい。
sasakure.UK わかります。照れもあるので苦労がありますよね。
サカモト教授 実はアルバムの中に坂本美雨さんに歌ってもらった「FLOWER」という恋愛の歌があるんです。坂本美雨さんに歌ってもらうなら恋愛の歌だって思ったのに、実体験は恥ずかしくて書けないと悶絶してしまって。
これはその時に編み出した裏ワザなんですけど、「FLOWER」は『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』のビアンカの気持ちで書いたんですよ。
sasakure.UK うわー、なるほど!!
サカモト教授 『ドラゴンクエストV』にはビアンカとフローラを主人公のお嫁さんとして選ぶシーンがあるんですけど、フローラを選ぶとビアンカはホビットのおじさんと寂しそうに暮らすじゃないですか。この「主人公と結婚したかったけど選ばれなかった」というビアンカの気持ちを歌っているんですね。
sasakure.UK 切ない。それだけで泣けますね……。
サカモト教授 裏ワザを使うと、詞って書けるんだなって思いましたね。
sasakure.UK 僕って1回フローラを選んでみたい気持ちがありつつも、毎回ビアンカを選んでしまうんですよ。
サカモト教授 僕もまったく同じ。フローラはマヒャドの呪文を覚えるからキャラクターとして強いはずなんだけど、ビアンカを裏切ることを考えると「無理だ!」って毎回(笑)。
おかえり。
サカモト教授 作詞も初めてチャレンジしたんですけど、今回のアルバムはすごく悩みながら、僕としては1年という長い時間をかけてつくりました。2013年に、務めていた仕事をやめて音楽一本にしたことで先行きがすごく不安だった。それに、サカモト教授=チップチューンというイメージとも戦っていて。だから、今回は歌モノも増えてチップチューンが控えめになって、「こういう曲や、お話もつくれるんだよ」っていう新しい自分を世間に見せたかったんです。
でも今回のアルバムの制作が終わって、僕が世界的に評価されているひとつっていうのはチップチューンだなと再認識できたんです。
それはその期間、海外でライブをする時にチップチューンがすごく愛されていることを生身で体験して、世界のマーケットにチップチューンで勝負していきたいと決意できたところがあって。
そのためにも、チップチューンのブームが来るように努力しないといけないのが僕たちですし、これからはまた、チップチューンの音楽を前面に押し出した音楽をつくっていきたい。
sasakure.UK やっぱり帰ってきますよね。僕は自分の楽曲をバンドでアレンジする活動もしているんですが、その時ってバンドサウンドをチップチューンや自分が使う音色で表現したらどうなるんだろうって思うんです。
離れて戻ってくると、作曲しているときに新しい発見やグルーヴが生まれる。チップチューンには音の制約があるはずなのにですよ。
チップチューンという音楽ジャンルは古い音楽なのかもしれないけど、いつまでも僕たちに発見を与えてくれる。こうして、チップチューンっていう音楽ジャンルが進化していってるんじゃないのかなって。
離れて、「帰ってきて」の繰り返しですね。 文:石橋加奈子
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サカモト教授
ゲームミュージック演奏家/ミュージシャン
頭に乗せたファミコンにカセットをさすとそのゲームの曲を奏でてくれるファミコンの中の人。京都大学出身。4歳から始めたクラシックピアノの影響で絶対音感が備わっており、どんな曲も音を聴けばその場でカヴァーできる。ゲーム曲のレパートリーは1000曲以上。最近では、アイドルの「さくら学院」クッキング部ミニパティへの楽曲提供/プロデュース、幕張メッセで行われた「ニコニコ超パーティーII」へのライブ出演、「ニコニコ動画ユーザーチャンネル」第1弾のメンバーに選ばれるなど、勢力的に活動している。
https://twitter.com/pskmt
sasakure.UK
ミュージックコンポーザー/アレンジャー
幼少時代、8ビットや16ビットゲーム機の奏でる音楽に、学生時代は男性合唱、文学作品に多大な影響を受け、その後、独学で音楽制作を始める。寓話のように物語の中に織り込められたメッセージ性を持つ歌詞と、緻密に構成されたポップでありながら深く温かみのあるサウンド、それらを融合させることで唯一無二の音楽性を確立。音楽のみならず映像やデザインも手掛けるマルチな才能が様々なクリエイターから高く評価されている。
https://twitter.com/sasakure_UK
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