チップチューンって何? ゲーム音楽の魅力って? サカモト教授とsasakure.UKピコピコ対談

  • 0

「レトロゲームには音色を追求するカルチャーがあった」

サカモト教授 僕も影響を受けたゲーム音楽の作曲家っていうのはあげたらキリがないんですけど、世界観にひたれるRPGが好きだったので、植松伸夫さん、すぎやまこういちさん、光田康典さん。あとは、菅野よう子さんにも大きく影響を受けましたね。

sasakure.UK 僕も通ってきた道ですね(笑)。

サカモト教授 彼らがつくってきた音楽っていうのは、ハードウェアの制約があって「どれだけ少ない情報量で工夫しながら音楽をつくるか」っていう音色を追求するカルチャーがあったんですよね。

そこで新しい音をつくるにはすごい打ち込みテクニックが必要だったし、音楽だけじゃなくてグラフィックの部分などでも相当苦心してつくったはずです。

ゲームボーイやファミリコンピュータといったレトロゲームと最近のゲームは作り手受け手の関係の違いが1番ですよね。

昔の人は、作り手が本当につくりたかったものっていうのはハードウェアの制約で100%は表現できなかったと思う。だからこそ受け手は表現できなかった部分を想像ができたし、想像するという行為には思い入れが生まれるじゃないですか。

何年経っても、ふとしたきっかけで当時の思い出が蘇るのは、思い入れがあるからですよね。いまだにレトロゲームやチップチューンが多くの人に愛されてる理由や魅力は、ここにあるんだと思います。これはいつまでも色あせない大きな財産かもしれない。

sasakure.UK 言わないよさってありますよね。自分はゲームの「SaGa」シリーズが大好きで、あのゲームのよさは多くは語らないところなんです。エンディングが5秒で終わってしまうものがあったり、取り上げる題材もシンプルで。

チップチューンが採用されたレトロゲームの音楽的なことをいえば、メロディ・対旋律・ベース・リズムという4つの要素だけだったら受け手もそのひとつひとつを聞けたじゃないですか。

でも、いまはオーケストラも使えるし、いろんな音色が鳴っていたり、エフェクトやSEがさらに乗っかって音の情報量が多いんです。だから、想像力をふくらませる必要がなくて受け手は受け取るだけでよくなってきていますよね。

「HOME」で改めて知るSEのおもしろさ

『REBUID』/サカモト教授「HOME」feat. sasakure.UK

サカモト教授 それでいうと、今回の「HOME」もササクレさんにデモ曲を送る時に多くは語らなかったですよね。

実はお願いした「HOME」って、誰かに歌ってほしいというところが出発点だったので、デモの時点で曲はほとんど完成していたんです。当初、歌い手を探していたところから、ボーカロイドでもいいかもしれないという話になったので、「これは、一緒にやるチャンスだ」と思ってお願いしたんですよ。

sasakure.UK だから! あの時自分は、「デモの時点で完成されてる、ヤバい!」なんて思ったんですよ(笑)。サカモトさんからの指示もなかったですし。

サカモト教授 指示がないことで、ササクレさんがどう解釈してくれるかっていうのも楽しみだったんですよ(笑)。

sasakure.UK そういう意図があったんですね。「HOME」はいただいた資料に多くの情報がなかったぶん自分で考える余地があって、僕がイメージするサカモトさんの音楽を踏まえつつ、僕の要素を多く入れることができたんだと思います。

サカモト教授 イントロの歩くSEみたいな音は、僕が考えた世界観をそのまま受け取ってもらえた感じがして嬉しかったし、すごく気に入っているんですよ。

sasakure.UK 前半の歌詞では、主人公はやるせない日々を送ってる感じが伝わってくるんですけど、これは歩かせなきゃと思って。

それに足音って好きなんですよね。特に、ファミコンの『スーパーチャイニーズワールド3』のダンジョンにもぐる時の足音が好きで。当時はその音が心地よくて、足音のSEを聞くためだけに同じ動作を繰り返す少年時代を過ごしていたんですよ(笑)。

僕の楽曲の多くに「コッコッ」って足音を楽曲にいれるようになったのは、その影響かもしれないといまサカモトさんと話して思いました。

サカモト教授 僕が心地いいなと思ったのは、ファミコン時代のコナミのゲームに使われていた打撃音。『キングコング2』なんかの音って爽快感もあってすごく気持ちいいんですよ。

こういうところにも着目するとおもしろいですよね、これも音色の1つですから。チップチューンが世代じゃない人にとってはピコピコ音っていうのはノスタルジーじゃないのかもしれないけれど、足音や銃撃などの音色はどんな人にも共通してわかってもらえる。それに、遊びごころもありますしね。

saasakure.UK バランスを大事につくらないといけないですよね。

僕が曲をつくる時は、チップチューンみたいにレトロな音色を扱うなら、曲全体のモチーフは現代にすることを意識しています。「わかりにくいモノを、わかりやすいモノでコーティングしてあげる」みたいな感覚ですね。今回の「HOME」もそうなっていると思います。

ひとりぼっちの海外で、支えられたモノ

『REBUID』/サカモト教授「僕らの世界にダンスを」

サカモト教授 今回のアルバムでは歌モノをかなり取り入れたんですけど、僕もsasakure.UKさんと一緒でインスト出身の人間だから作詞が初だったんですよ。

sasakure.UK 本当ですか! 初めてとは思えないほど、素敵な歌詞だと思いました。

サカモト教授 語彙力がないなりに、歌や音楽で自分が伝えたいことを素直に届けたいなと思って。「HOME」っていうのは、「帰ってくる場所」そのままの意味なんですけど。

なんていうかリアルとネットの世界をわけて考えた時に、リアルでは仕事をしていろんな苦労があって一人部屋に帰ってくるけれど、Twitterとかインターネットの世界では「ただいま」とつぶやいたら、「おかえり」って言ってもらえる暖かさがある。

2012年にスウェーデンとフランスでライブをした時の話なんですけど、僕は何千人という自分のことを知らないお客さんの前で1人で舞台に立たなければいけなかったんです。

その時に、日本のファンがTwitterですごく応援してくれたんですよ。「俺たちのサカモト教授が世界のサカモト教授になるぞ」って。これはライブ前に見たんですけど、すごく勇気づけられました。「HOME」は、そんなSNSやインターネットの世界の暖かさを表現したいと思って歌詞を書いていきましたね。

sasakure.UK その気持ち、よくわかります。僕もドイツでライブした時には、現地の知り合いがいないのでTwitterで応援してもらったのがすごく励みになった経験があるので。知らない場所にいるのにつながってるんだなって。だからいまでも、Twitterを見た時に帰ってきた感じがするんですよね。
【次のページ】「裏ワザを使うと、詞って書けるんだなって思いましたね。」
1
2
3
4
この記事どう思う?

この記事どう思う?

関連キーフレーズ

サカモト教授

ゲームミュージック演奏家/ミュージシャン

頭に乗せたファミコンにカセットをさすとそのゲームの曲を奏でてくれるファミコンの中の人。京都大学出身。4歳から始めたクラシックピアノの影響で絶対音感が備わっており、どんな曲も音を聴けばその場でカヴァーできる。ゲーム曲のレパートリーは1000曲以上。最近では、アイドルの「さくら学院」クッキング部ミニパティへの楽曲提供/プロデュース、幕張メッセで行われた「ニコニコ超パーティーII」へのライブ出演、「ニコニコ動画ユーザーチャンネル」第1弾のメンバーに選ばれるなど、勢力的に活動している。
https://twitter.com/pskmt

sasakure.UK

ミュージックコンポーザー/アレンジャー

幼少時代、8ビットや16ビットゲーム機の奏でる音楽に、学生時代は男性合唱、文学作品に多大な影響を受け、その後、独学で音楽制作を始める。寓話のように物語の中に織り込められたメッセージ性を持つ歌詞と、緻密に構成されたポップでありながら深く温かみのあるサウンド、それらを融合させることで唯一無二の音楽性を確立。音楽のみならず映像やデザインも手掛けるマルチな才能が様々なクリエイターから高く評価されている。
https://twitter.com/sasakure_UK

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。