クセが強い作品でも、魔法少女たちはキャッチーに
──先ほどから話が出ているように、『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』はJUN INAGAWAさんが中高生時代に描かれていた漫画が原案です。そこからアニメ化というのも例を見ないルートですよね。JUN INAGAWA 何度かアフレコに行きましたが、いまだに実感が湧きません。この部屋(編注:取材場所)でプロデューサーさんたちと話していたら、いつの間にか企画が脚本家さんの手に渡り、映像になっていきました。
2019年3月の個展にプロデューサーさんたちがいらっしゃったんですが、そこからここまで企画が具体的に動いていって……。常に驚きの連続です。そもそもアニメ原案者としても、僕は非常にレアな立ち位置なので、それが実感の少なさにもつながっているかもしれません。
ファイルーズあい 確かに一般的に原案者というと、シナリオライターさんや漫画家さん、もしくはアニメに関連するクリエイターの方々が多い印象ですね。
JUN INAGAWA そうなんです。そもそも僕はアメリカ育ちでパンクにロックにヒップホップ、それからスケーターなどから影響を受けて育ってきました。今で言ういわゆるストリートカルチャーですね。
でも、同時にアニメや漫画も大好きで。その両方を土台にした作品をつくりたかったんです。そんな僕に「アニメをやるべきだ」と言ってくださったプロデューサーさんたちには感謝しかありません。 ──もともとJUN INAGAWAさんはどういったアニメがお好きだったんですか?
JUN INAGAWA 『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』やTRIGGERさんの作品が好きです。特に『パンスト』は、今石(洋之)監督たちがやりたいことを突き詰めた結果、素晴らしい作品になったんだと思うんですよ。
ほかにも、湯浅政明監督の『マインド・ゲーム』のような、クリエイターの個性の塊みたいな作品が大好きです。そういった作品って、クセが強いけれどついつい引き込まれちゃうじゃないですか。
それって内容はもちろん、キャラクターが“強い”からだと思っています。そこに引きつけられるキャッチーさがないといけない。
──両作品ともクセがかなり強いですが、キャラクターはキャッチーで目を引きます。それは本作のアナーキーも同じように感じます。
ファイルーズあい キャッチーな部分はアナーキーにも通じるところがあるというか、アナーキーにはかなり魅力が詰まっていて、それこそ自分を貫いている強いキャラクターだと思います。台本を読んだときには思わずぶっ飛んでると思っちゃいましたけど(笑)。
でもアナーキー以上に、ブルーやピンクといったぶっ飛んだキャラクターが出てきたので、私がしっかりしなくちゃいけないなって思いました。 JUN INAGAWA この作品はヤバい人たちばかり出てくるんです(笑)。でも実際、アナーキーはほかのキャラクターと比べると結構まともなんですよね。
誰よりも正義感があるし、自我を持とうとしている。それはビジュアルにも現れていて、魔法少女なんですが、制服とコスチュームだけでなく、私服でも自分の価値観・スタイルを表現しています。
ファイルーズあいがアナーキーに感じた強さ
──ファイルーズあいさんは、これまでの出演作で、様々な“強さ”を持ったキャラクターを演じてきましたが、アナーキーの持つ強さはどんなところだと思いますか?ファイルーズあい 「好きなものを好きなだけ好きといえる世界」という作品のテーマにも通じるんですが、誰に何を言われようと、自分の「好き」に正直に生きるところです。
私もそうでしたけど、学生時代って特に、出る杭は打たれるじゃないですか。自分らしさを通そうとすると、仲間外れにされかねない。不安に駆られると、個性を落ち着かせてしまいがちです。そんな中で、アナーキーみたいに堂々としている姿に励まされる人も多いと思います。
JUN INAGAWA 人間全員が個性を解放していたら、たぶん社会が成り立たないかもしれません。でも、常識を守った上で自己を解放することは大事だと思います。それこそアナーキズムやカウンターカルチャーって、文化を創る上では重要なことだとも思います。 ファイルーズあい 好きなスタイルを貫けるのって、アナーキーに強さがあるからこそですよね。
私自身、ハーフで顔も濃くて、筋トレが大好きだから筋肉質で、自分が魅力的だと思うものしか着たくない。それこそ社会人をやっていたときには、落ち着いた服装や見た目にしていたんですけど、せっかく(服装などの制限が少ない)声優になったんだから自分らしく生きようと思ったんです。
──ファイルーズさんはデビューされた当初から、ご自身のスタイルにまっすぐなように感じます。
ファイルーズあい 自分らしさを貫いたことで、応援してくださる方々の声がたくさん届いてくるようになって、「私は“私らしく”でよかったんだな」と感じました。
『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』の台本を読んだときに感じたアナーキーの強さはまさにそこで、自分と通じる部分がすごく多かったんです。
だからこそ、アフレコでは頭で演技プランを考えるのではなく、素直な気持ちをそのまま届けることを意識して臨んでいます。その気持ちがマイクを通して、みなさんの心の中にも響いてくれたら嬉しいですね。
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