中学卒業後に渡米。2016年から2018年にかけてSNSへ投稿したイラストが、世界的ラッパーが所属するアーティスト集団・A$AP Mob(エイサップ・モブ)の目にとまり、フックアップされた。国内外のストリートブランドとコラボを果たし、帰国後の2019年には初の単独個展を開催している。 一方で、アニメやゲームが大好きという一面を持つ21歳。
彼が原案として生み出す作品は、2011年の秋葉原を舞台にした魔法少女とオタクの物語。
アニメでは何の実績もないJUN INAGAWAさんは、アニメに携わること、そしてアキバを描くことに「これまで以上に大きな責任」を感じていた。
取材・文:白石倖介 編集:恩田雄多 写真:Hexagram、白石倖介
目次
『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』のきっかけは2年前
──KAI-YOUでは2度にわたって登場していただいていますが、『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』のアニメ発表でJUN INAGAWAさんを知る方も多いと思うので、改めて自己紹介をお願いします。JUN 自己紹介……これが一番難しいんですよね。今までは「イラストレーター」と名乗っていたんですけど、最近はイラスト以外の活動も多くなってきているので、あえて言葉にするとしたら「絵描き」ですね。個人的には“ごちゃごちゃな人”という印象です。
第三者から見たらイラストレーターだし、そういう仕事もあるので間違ってないんですけど、自分では表立って名乗りたくないという気持ちがあります。
──その理由は後ほど詳しくお聞きしたいですが……いったんアニメのお話を。今回はキングレコードのプロデューサー・須藤さんにも同席いただいておりますので、まずはアニメの企画がスタートした経緯を教えてください。
JUN 初めて須藤さんに会ったのは、2019年3月から5月にかけて開催した個展「魔法少女DESTROYERS(萌)」の会場です。そこに須藤さんとMBS(毎日放送)のプロデューサーの亀井(亀井博司)さんという方がご挨拶に来てくれて。
当時はちょうど『ポプテピピック』のTVスペシャル版放送直後。TVシリーズから見ていて、須藤さんのインタビューなども読んでいたので驚きました。「ポプテの人じゃん! なんで!?」って(笑)。ただ、そのときはアニメの話は全然してなかったですよね?
須藤 そうですね。僕も亀井さんから「面白い人がいるんで会わせたい」って紹介いただいて、挨拶を交わした程度だったと思います。
JUN その後、亀井さんにMBS主催の「平成アニメヒストリア」というイベントに招待いただいて、イベント後に「JUNくん、アニメの話を具体的に進めましょう」という話をもらって。
それから改めて須藤さんと3人で秋葉原で会うことになるんですけど、亀井さんがざっくりした企画書をつくってきてくれて、「マ、マジでやるんだ……」って急に実感がわいてきました。 須藤 もともと僕と亀井さんは昔からの知り合いで、亀井さんはいろいろなクリエイターさんをご存知なんです。そこから具体的に話を進めるにあたり、メーカーさんとやりとりしたり、製作委員会を組んだりする動きの中で僕にお声がけいただきました。
「面白そうですね! ぜひ!」とお答えはしたんですが、その時点ではまだストーリーとかはまったく無くて。
JUN 「本格的にストーリーを考えていきましょう」という話になったのは、2019年の夏以降ですね。
──ストーリーもない状態で決断するというのは、須藤さんとして何か可能性を感じる部分があったんでしょうか?
須藤 僕は普段、深夜アニメをメインに制作していて、ビジュアルやグラフィックの流行を見ながらアニメの企画を進めることが多いんです。その中でも、JUNさんの作品はどこにも所属していないというか、同じようなものがなくて、可能性がめちゃくちゃあるんじゃないかと。
実際にお会いしたら、パンキッシュな部分と真面目な部分のバランスが素敵な人でした。さすがに100%「俺はパンクだ!」みたいな人だと仕事をするのは難しいと思ってましたけど、全体を見られる人ですし、不安はないですね。アニメの放送が楽しみです。
JUN 出会ってから2年以上経ちますけど、今初めて言われました(笑)。
「2011年の秋葉原」その衝撃をアニメで表現
──『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』では、JUN INAGAWAさんは「ストーリー原案」を担当されます。物語をつくる過程や、現段階で公開できるストーリーラインについて教えてください。JUN そもそものバックボーンとして、僕が中学3年〜高校1年の頃に考えていた『OTAKU HERO(オタクヒーロー)』という漫画のストーリーを下敷きにしています。
「2次元コンテンツが禁止された世界で、主人公のOTAKU HEROがそれらを取り戻す」というストーリーなのですが、今回のアニメ『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』はその前日譚ですね。『OTAKU HERO』にも出てきた3人の魔法少女を主軸に、ストーリーラインの制作がはじまりました。
須藤 ストーリーは、JUNさんと亀井さんと僕、3人で1年以上かけて週一で集まって考えていきました。 JUN まだ作品として形になっていない漫画の前日譚をつくるわけですから、1つひとつの設定を確認したり考えたりと大変でした。
舞台は2011年の秋葉原なんですが、2011年は僕が初めて秋葉原に行った年です。当時、日本なのにまったく違う国のような衝撃を受けました。街自体が生き物みたいで、店も人も、なんだか全部蛇みたいに動いているような、不完全さの中にすごい熱量や熱狂がある。そういう不完全な熱狂の中で、好きなもののために戦うオタクの姿を表現したいと思ったことが、『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』の根底にあります。
また、僕はもともとクラブカルチャーやパンクバンドがすごく好きなんですが、そういうアーティストのライブって、アーティストはもちろん会場にいるお客さんもブチ上がっているんですよね。モッシュしたり、無我夢中に叫んだり。そうやってステージと会場が相互に熱狂している姿を見ると感動します。「今、生きてる!」と思える。
初めてコミケ(コミックマーケット)に行ったときにも似た感動がありました。たくさんの人が集まって、並んで、好きなものをゲットして笑っている姿を見て、「生きてる!」って思ったんです。いる人の種類は違うけど、人が会場全体で熱気をつくる姿があった。そういう瞬間が好きだから、今回のアニメでは「オタクの熱狂」を描きたいと思ったんです。 ──フィクションではあるものの、実際にある場所を、さらには過去を描く上で、意識していることはありますか?
JUN 当時を知る人たちがいる時代を描くことへの責任があると思います。たとえば時代背景、服装、流行なども、作品をつくる上で勉強しているところです。当然フィクションではあるんですけど、時代を設定した以上は、当時を知らないと失礼だなと思って。
アーティストのオカモトレイジくんから紹介してもらって、過去の秋葉原に詳しい人に、それこそ取材するように録音機材を持って話を聞きに行きました。その人に出会って「オタク」や「萌え」という言葉への認識が変わりましたし、それ以降、あまりインタビューなどで軽々しく使いたくないと思うようになりました。
その人は「言葉は多くの人の目に触れられ使われることで、当初持っていた意味を失っていく」と言ってたんですけど、その通りだなって。僕が使う言葉も、僕の伝えたい内容とは別の意味で伝わってしまうことがあって。 JUN そして、歴史を知る作業の中で初めて「知識って面白いな」って思いました。知識を作品に落とし込む作業は気持ちがいいし、“わかる人にはわかる”ような細かなディティールも生まれる。
歴史や文脈を知った上で自身の過去の作品を振り返ると、恥ずかしながら「見当違いに過激な言葉を並べていたんだ」と気づくこともあり、自身のスタイルも大きく変化しました。過去の僕のスタイルを評価していただくのはありがたいことですが、自身ではこの変化を「成長」だと思っています。
成長したんだぞ、という思いや過去へのリスペクトも込めて、世代問わず、秋葉原に思い入れのある人たちが楽しめるような作品にしたいですね。この時点で詳しいことは言えないですけど、作品の中で明確に1つ見てもらいたいシーンがあります。そのシーンを見てもらえたら、僕のこの作品への向き合い方がわかってもらえるじゃないかと思います。
──秋葉原という舞台に対してはかなり注力していると。「海外の名だたるストリートブランドとコラボレーションするJUN INAGAWA」だけを知っている人からすると、意外な作品になるかもしれませんね。
JUN 「JUN INAGAWAがつくるアニメ」と聞いて、そう思う人もいるかもしれないですけど、『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』にはファッショニスタもスケーターも一切出てきません。
乱暴な言い方をすると、“そういうJUN INAGAWA”を好きな人が求めているものではないかもしれない。でも、僕がストリートで培った感覚は、絶対に反映されていると思います。
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作品情報
アニメ『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』
- 原案
- JUN INAGAWA
- ロゴデザイン
- GUCCIMAZE
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JUN
クリエイター
1999年生まれ。『STEINS;GATE(シュタインズゲート)』とTHE MAD CAPSULE MARKETSをこよなく愛す。2018年からアメリカ ロサンゼルスで活動をスタートし、paradis3(Supreme), VLONE, AWGE, Pierre bourne などにイラストを提供する。チーフキーフを紹介されて「何してる方ですか?」とJUN INAGAWAが問いた話は伝説となっている。その後漫画家を目指すため日本に帰国しDIESEL ART GALLERYで個展を開催、後にadidas, AGE FACTORY, WACK, KEIJU, NEIGHBORHOODなどとコラボレーション。本人は、“萌え”とストリートカルチャーの革命児と持ち上げられている事について不満を持ちつつ、新たな表現スタイルをクリエイトしている。また、デザイナーでありながらオカモトレイジ筆頭の奇才集団“YAGI”でDJとしても活動中。
Twitter: @JunInagawa1
Instagram:@attitudeofhybridism
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