アニメ『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』原案 JUN INAGAWAインタビュー

可能性に賭けた方がアニメPの仕事は面白い

──一方で、JUN INAGAWAさんがアニメ好きであることを知っている人もいます。とはいえ、今回原案を手がけることで、JUN INAGAWAとアニメが急速に近づきますが、これまでの1ファンから制作側に参加するプレッシャーはありますか?

JUN プレッシャーは相当重く感じてますし、怖いですね。ただ本当に怖いのは放送したあとの反応なので、まだどこかで面白がっている自分もいます。

昔から漫画家さんの「アニメ化発表のお知らせ」がすごくうらやましかったんですけど、いざ自分が当事者になると言葉にし難い緊張感があります。「自分が頭の中でイメージしているものが見る人に伝わるのか?」という不安に負けないように、会議を繰り返しながら制作中です。

──須藤さんにお聞きしたいのですが、アニメのつくり方として、原作なしでクリエイターが原案者となってのアニメ制作、という形式は珍しいのでしょうか?

須藤 あまり見ない形だと思います。アニメの制作においては漫画やゲーム、小説などの原作をアニメ化する形が多いので、こうして密にやり取りを重ねながら、クリエイターさんの考えを反映してつくっていくオリジナルアニメというのは珍しいですね。

──原作があるものと比べて、反響の予測や見込みなどが立ちにくいと思うのですが。

須藤 当然、原作があるものは数字の予測も立てやすく、ある程度のリスクヘッジができるのに対して、JUNさんの作品でそういった予測を立てるのは難しいと思います。

ただ、アニメ化によって「1が50になる安全策」よりも「0が1000とか10000になる可能性」に賭けたほうが、おそらくこの仕事は面白いんだと思います。ありがたいことにキングレコードには挑戦できる土壌があるので、できるうちにJUNさんの企画に打ち込んでみたかったんです。

──JUNさんと現在のアニメシーン、ファン層に少し距離があるかと思いますが、それを埋めていく方法などは考えられているんでしょうか?

須藤 わからない、というのが正直なところですけど、『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』が世に出たとき、「JUN INAGAWAのアニメめっちゃ面白いじゃん!」という流れが生まれて、むしろ今のシーンがJUNさんに近づいていくんじゃないかと感じています。

JUN めちゃくちゃ光栄です……! 自分でもわかってるんですよ。アニメ業界で実績のある方がつくる作品と比べたら、いきなりアメリカから来た若造のアニメが放送されるって、どう考えても怪しいじゃないですか。

須藤 怪しいですね(笑)

JUN 本当にすごくありがたい話なんですけどね。もしアニメが大コケしたら、僕はアメリカに帰ります。

須藤 僕も実家に帰るかもしれません。

「アニメ原案を担当する自分を肯定したい」

──1つ気になったのですが、2019年の個展「魔法少女DESTROYERS(萌)」とアニメ『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』は、タイトルに類似性があります。両者には関連性があるのでしょうか?

JUN 実は、あの個展こそ、『OTAKU HERO』の前日譚というテーマでつくったものなんです。会場にはOTAKU HEROの部屋を再現したり、いろいろな文書を散りばめたり。

もちろん、当時はアニメの話なんてなかったんですけど、今思うとアニメのネタバレがたくさんありました。個展をよく見ていた人がアニメを見たら「このシーンは!」と気がつく場面があるかもしれません。

──結果的にではあるものの、個展がアニメのきっかけとなる出会いやアニメの原案を生んだということですね。

JUN そう言ってもらえるのはうれしいし、開催に関わってくれた方々には感謝しかありません。ただ、あの個展によって、自身の名前が独り歩きしてしまった印象があって。著名な人がたくさん来て、SNSにシェアされて、わっと広がって「ストリートとアキバの革命児!」と言われる。正直な話、個展の期間中に一瞬で調子に乗ってしまいました(笑)

でも、そんなときにアニメの話をいただいて、同じように一瞬で正気に戻ったんですよね。理由はわからないですけど、10代の頃、初めて漫画を描いていたときの気持ちを思い出して、「調子乗ってる自分は、あの頃目指した自分じゃない」って。

2019年7月に秋葉原で開催された個展「fukurotoji(フクロトジ)」/※写真は本人提供

JUN その後、秋葉原で開催した個展は、場所をわかりにくくしたこともあって、来場者は250人でした。前回の数千人と比べると少ないですけど、この250人を大切にして、「この人たちにきちんと届く作品をつくらなきゃいけない」って思えたんです。

同時に「もっと責任を持って作品に向き合わなきゃ」とも感じました。今回はアニメという、これまで以上に僕のことを知らない人にも見られるものをつくるので、めちゃくちゃ責任を感じています。

──具体的には何に対しての責任ですか?

JUN たくさんありますけど、まずは自分自身ですね。まだ20歳そこそこなので人生は長いですけど、原案としてアニメに携わった自分を肯定したい。終わったときに、気持ちよく「JUN、おつかれ!」って言いたいんです。

そのために、自分がつくったもので、自分を興奮させること──そこに大きな責任を感じています。 JUN それに、『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』は須藤さんたちキングレコードの方々をはじめ、たくさんの方が関わっている作品です。アニメ制作にあたって、今は脚本家やアニメーション監督などさらにいろいろな方に参加していただいています。その中に僕が原案として入って、僕が考えたものが広がっていく。

今まで想像もできなかった経験をさせてもらっているからこそ、関わってくれた人たちが、将来的に胸を張って「JUN INAGAWAのアニメつくってたんだよね」と言えるような作品にするための責任もあります。その人の黒歴史にだけはしたくない。

そして当然、視聴者として見てくれる人たちに対する責任。多くの人に楽しんでもらえる作品でありながら、僕のコアなファンにも納得してもらえる作品をつくりたい。もちろんビジネス的な部分の責任も強く感じています。なのでとても緊張していますが、今は、自分の作品をアニメにできることの嬉しさや「良いものをつくろう」という気持ちでいっぱいです。

──人生において『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』が非常に大きな存在になっているということですね。それでは最後になりますが、冒頭にお聞きした、イラストレーターと名乗りたくない理由を教えていただけますか?

JUN 僕はめちゃくちゃ画力があるわけでもないし、絵だけで評価されたいわけでもない。ストーリーも見てほしいし、最後には漫画家って呼ばれたいんです

今はその準備期間みたいな感覚なので、仕事にはなっているけど、未完成な自分のままイラストレーターって名乗るのは、僕がリスペクトしているイラストレーターの方々に失礼だなと思ったんです。

──以前のインタビューでも「漫画家になりたい」とは話されていました。今回はアニメの原案という、原作者的なポジションを担当されていますが、現在も「将来は漫画家に」という気持ちは変わりませんか?

JUN もちろん、今も「漫画家志望」です。ストーリーライターや漫画家としての技術はまだまだ未熟ですが、目指すべき場所は変わりません。僕の中では「漫画家に至るためのアニメ原案」という気持ちもあります。どんな形であろうと、いつか必ず漫画を描きたいです。

アニメ『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』公式サイト ©️Magical Destroyers

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アニメ『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』

原案
JUN INAGAWA
ロゴデザイン
GUCCIMAZE

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JUN

クリエイター

1999年生まれ。『STEINS;GATE(シュタインズゲート)』とTHE MAD CAPSULE MARKETSをこよなく愛す。2018年からアメリカ ロサンゼルスで活動をスタートし、paradis3(Supreme), VLONE, AWGE, Pierre bourne などにイラストを提供する。チーフキーフを紹介されて「何してる方ですか?」とJUN INAGAWAが問いた話は伝説となっている。その後漫画家を目指すため日本に帰国しDIESEL ART GALLERYで個展を開催、後にadidas, AGE FACTORY, WACK, KEIJU, NEIGHBORHOODなどとコラボレーション。本人は、“萌え”とストリートカルチャーの革命児と持ち上げられている事について不満を持ちつつ、新たな表現スタイルをクリエイトしている。また、デザイナーでありながらオカモトレイジ筆頭の奇才集団“YAGI”でDJとしても活動中。

Twitter: @JunInagawa1
Instagram:@attitudeofhybridism

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