「届けるまでがものづくり」ボカロP はるまきごはんが「幻影」で見せたプロデューサーの顔

「幻影」シリーズの制作を支えたチームワーク

ライブ「幻影LV」ではゲーム『幻影AP』とリンクする演出も。

──6月に開催されたライブ「幻影LV」では、ゲームである『幻影AP』とリンクする演出もとても面白かったです。ゲームをつくろうと思いついても、リリースまでのイメージが見えなければ、スケジュール的になかなかスタートできないと思いますが、最初からある程度実現性が見えていたんでしょうか?

はるまきごはん あらかじめ、近しい友人ベースで制作陣を固められるという予想がついていたのは大きいですね。たぶん、全く知らない人に依頼するんだったら、つくるのはずっと難しくなっていたと思います。

今回、開発を手伝っていただいたhako 生活さんとは、彼の代表作である『アンリアルライフ』が出る前から友人同士、おづみかん(ozumikan)さんも学生時代からの友人で、このメンバーでやれたら嬉しいなと思って声をかけました。

とはいえ、仮に数年前の状況で、「みんなで一緒にゲームをつくってみたい」と思っていたかどうかはわかりません。スタジオごはんをスタートしたり、『キメラ』を主催したりして、制作を担うのが自分だけではなくなる中で、「人と一緒に何かをつくりたいな」というモードになってきているのかもしれないですね。

『幻影AP』は、はるまきごはんさんの楽曲の世界を歩き、音楽を集めるゲーム。開発にはhako 生活さんやおづみかん(ozumikan)さんが携わった。

──アニメ映像制作スタジオ・スタジオごはんについてもうかがいたいです。スタジオの体制として、メインメンバーのような方々はいらっしゃるんでしょうか?

はるまきごはん 最近はわりと固定化されていて、「幻影」のMVやライブ「幻影LV」のクレジットに載っているメンバーが中心になってきていますね。ただ、「スタジオごはんのメンバー」としてリストアップすることはなくて、むしろ固定化したくないんです。

僕としては、やっぱり自分のアシスタント作業よりも、その人自身の映像作家としての作品づくりを優先してほしい。その上で、空いた時間に手伝ってもらう形で成立させたいんです。だから作品ごとに、「今回この期間でこういうのをつくるけどどう?」みたいな感じで声をかけています。

「幻影LV」で流れた映像にはスタジオごはんのクレジットも。

──アシスタントの方とはどのような作業分担になっているのでしょうか?

はるまきごはん スタジオごはんでは、0から1を生み出す部分は絶対に自分が担当するようにしています。具体的には、MVの原画までは自分が描いて、アシスタントにお願いするのは原画と原画の間を埋める動画を描いてもらったり、自分が最初のフレームに着けた色にならって全フレームを着色してもらったりとかですね。

今回、ライブのアニメ映像は原画の段階で任せたりもしたんですけど、その場合も絵コンテは絶対に自分で書いています。イメージとしては、アシスタントのセンスや個性を丸ごともらうのではなく、自分の表現の中の一部に添えてもらうような感覚に近いです。

──ライブ「幻影LV」では紗幕(ステージ上に設置された薄い絹の幕)にMVや幕間映像が映し出され、はるまきごはんさんの歌を聴きながらも、視覚的には映像に意識が向くような設計だと感じました。初ライブから一貫しているように思うのですが、改めてはるまきごはんさんのライブに対するスタンスを教えてください。

ライブ「幻影LV」ではステージ上に二層の紗幕があり、はるまきごはんさんはその間に立って演奏した。

はるまきごはん わかりやすいように「ワンマンライブ」という言葉は使っていますが、一般的なミュージシャンのワンマンライブをするつもりはあまりなくて。目指している表現は、映画やミュージカルに近いと思います。

ワンマンライブってミュージシャンが主役で、それを見に来る人たちが集まるみたいな形だと思うんですけど、自分の場合は、自分を含めた映像のステージを見に来る場所であってほしいんです。 自分もそういうステージを見たいし、見に来てくれた人たちがそれで満足してもらえたら嬉しいなと思っています。

死ぬまでの時間の中で、どの作品をつくるか

──冒頭で、「幻影」シリーズでは依存というテーマがあったとうかがいましたが、普段企画を立ち上げるとき、実行に移すもの・しないものの基準などはあるのでしょうか?

はるまきごはん 音楽や映像に限らず、自分の中につくりたいものが無限にあって、その中で、「今つくったら成功するであろう」ものがいくつかあるんですよね。さらにその中で、具体的に誰を呼んで、どう関わってもらって、どう出せば成功するかまで想像できたものを実行するようなイメージです。

ボカロコンピの『キメラ』はまさにそうで、煮ル果実さんとの共同主催だったんですけど、自分1人でやるのは絶対に無理でした。煮ル果実さんと一緒ならできそうだなというイメージが浮かんだからやれたのであって、1人のままだったら、やりたいけどやれない有象無象の企画のひとつで終わっていたと思います。

あとは長期間のプロジェクトであれば、自分自身の活動を休まなきゃいけないかなとか、シリーズとして継続することを本当に楽しめるかなとか。何より、出したときに興味を持って楽しんでくれる人がいるかどうかも、自分にとっては大切なことです。
コンピレーションアルバム『キメラ』
──以前、ボカコレの記事でピノキオピーさんやシャノンさんと鼎談された際に、「死ぬまでにつくれる作品の数」に言及されていたのが印象的でした。そういう視点があるからこそ、作品をつくる際にプロデュース思考が伴ったり、着手する企画選びもシビアになっているように感じました。

はるまきごはん 「死ぬまでにつくれる作品の数」という考え方はすごく大事にしてますね。たぶん自分がつくりたいものって、死ぬまでに全部はつくれないんです。ということは、そのとき選ばなかったものは一生つくれないかもしれないから、慎重に選ばなきゃいけない。有限な時間の中にどのピースをセットするか、というパズルに近い感覚です。

そういう意味では、最近、今の段階で作品を取捨選択するよりも、寿命を延ばす方面を頑張る方がいいんじゃないかとも思うんです。ある程度若い状態でコールドスリープして、未来に賭けるとか(笑)。

──ええと……それはコールドスリープすることによって、技術が発展した未来で目覚めれば、やりたいことがより実現できる可能性も増えているかもしれないという?

はるまきごはん どちらかというと、スリープ後に目覚めた未来で、寿命をめちゃくちゃ伸ばせるようになっていることに期待したいです。

僕としては、最終的には脳だけになって、仮想世界の中で自分のつくったキャラクターと一緒に暮らしたいんですよ。それって今の技術ではたぶん無理なので、みんながそれを当たり前にやっているような時代まで飛んじゃうのが手っ取り早いのかもしれません。
第三の心臓 - Live Version [ 幻影LV in 日本橋三井ホール 2022.6.25 ]
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札幌市出身のミュージシャン、イラストレーター、アニメーター。作詞作曲編曲、イラスト、映像、アニメーション制作まで、全てのクリエイションを手がける。VOCALOID、自身歌唱によるMVで描かれる物語を軸に、本人がコンセプトからパッケージイラスト・デザインまで手掛けるアルバムや、オリジナルアニメを駆使したライブ、グッズ制作、個展などを展開、最新作「幻影シリーズ」では、ゲームアプリや漫画も手掛けている。2019年よりアニメ制作チーム・スタジオごはんを立ち上げ、アシスタントと共にアニメーション制作を行っている。スープカレーが好き。

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