伊藤穰一『テクノロジーが予測する未来』レビュー Web3時代の「好きなことで生きていく」とは

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伊藤穰一『テクノロジーが予測する未来』レビュー Web3時代の「好きなことで生きていく」とは
伊藤穰一『テクノロジーが予測する未来』レビュー Web3時代の「好きなことで生きていく」とは

『テクノロジーが 予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』

2022年6月7日に発売された『テクノロジーが予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』をレビューしたい。

この記事の筆者・ふかみんはメタバース本のだいたい全部を読んでいて、こちらの記事で全レビューもおこなった

本書は全レビュー記事執筆後に発売されたため、別記事とした。全レビュー同様、忖度なしで書かせていただく。

『テクノロジーが予測する未来』はどんな本か

さてさて、ついにラスボス・伊藤穰一氏の本が登場である。

数々のIT企業の創業に関わり、MITメディアラボ所長を務めた後、現在デジタル庁に設置されている有識者会議「デジタル社会構想会議」のメンバーでもある伊藤穰一氏。その伊藤穰一氏がWeb3をやさしく解説するのが本書だ。

書名にはWeb3、メタバースNFTという言葉が並んでいるが、著者の伊藤氏は本書でDAO(分散型自立組織)についてもたっぷり紙幅を割いて語っている。

メタバースに特化した本ではない。しかしメタバースについて考える際に基本となる考え方について書いてあり、メタバースに興味ある皆さんであれば読んでほしいと強く感じた。表面的な事象だけではなく、理念や考え方、どういうのがダサいのか、まで書いてあるのだ。

今、“情報のインターネットから価値のインターネットへの移行が始まった”と言われているが、この本を読めばそれがどういうことなのか理解できる。そして自分も動きたい、なにかやりたいという気持ちにさせてくれる。

著者の考えるメタバースとは

オンライン上でのコミュニケーションを前提として、何らかの価値の交換が行われている空間(『テクノロジーが 予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』より)

バーチャルリアリティだけでなく、バーチャルではないチャットルーム(Discordなど)、3D・2Dのゲーム、SNS、さらにはeメールもまた、メタバースの一部であると考えられます(『テクノロジーが 予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』より)

メタバースとは、オンラインのコミュニケーション空間である、というのは他の本の考え方と同じだが、伊藤穰一氏は「価値の交換」に重きを置いている。

単純にその空間で言葉を交わすだけでもなく、経済というだけでもない。今あるお金というものに置き換えられない価値を交換する場がメタバースだというのが著者の考え方だ。

著者の立ち位置

MITメディアラボ所長を務めた後、日本に拠点を移す。デジタル庁有識者会議「デジタル社会構想会議」メンバー。千葉工業大学・変革センター所長に就任。

日本社会のアーキテクチャーを、新しいテクノロジーにふさわしいかたちへと変革していく。いまこそ、その手伝いをするときだ、という考えから、約14年ぶりに日本に拠点を戻しました。(『テクノロジーが 予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』)

著者ならではの部分

Web3、DAO、NFTなどにも触れる本書。メタバースについても1章まるごと使って解説がおこなわれている。

内容は、誰でも自由にメタバースにアクセスできる多様性についてと、アバターを使った身体性からの解放について。さらにメタバースで所有したものは誰のものになるべきかという話、アイデンティティの使い分けや現実社会の人格とクリプト(暗号資産)エコノミーの中での人格についてなど。

Web3時代の新しい「好きなことで生きていく」とは

DAOでは、このように多様な働き方が可能であり、自分が望むかたちで、自分が望む時間だけ参加できる。これは、働く主体としての自分を、組織から自分の元へと取り戻すことを意味するといっていいでしょう。自分の仕事や働き方は、組織に決められるのではなく、自分で決めるということです。(『テクノロジーが 予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』)

本書の第1章「働き方」は、近未来の働き方を考える上での示唆に富んでいる。

筆者の私見だが、Web2.0時代の「好きなことで生きていく」は、結局Web2.0型ビッグテックの子飼いとなることを指していたのではないだろうか

それは、ユーザーにコンテンツをつくらせることで収益化をおこなう構造である。

ビッグテックのつくったプラットフォームの上でビッグテックのつくったビジネスのロジックに合わせ、その役割をうまく演じることができた者が報酬を得る、というのがWeb2.0の限界だった。

時代に最適化する、というのはそういうことなのかもしれない。しかし、それって本当に自由なのだろうか?

Web3時代の「好きなことで生きていく」は、中央集権的なプラットフォームに依存せず自分自身で立つことを選ぶ人のためのものになるのではないだろうか。

それは、既存の株式会社という仕組みとの決別であるとともに、Web2.0的ビッグテックとの決別でもある。

今、Web3の訪れとともに、新しい働き方と新しい仕事が生まれようとしている。そして、消滅する仕事もある。社会は、僕たちの生活はどう変わるのだろう。そんなことを考えさせられた。

参考リンク

伊藤穰一氏のインタビュー記事や動画をみることで、伊藤氏の考えに触れることができる。また本書の説明と重なる部分もあるので、事前にみておくと本書の理解の助けになるだろう。いくつか紹介しておく。
ブログ「web3とは——僕はこう思う」
伊藤穰一氏は一貫して「web3」の最初の文字を小文字で書いている。この動画ではその理由についても述べています。
動画「急成長するメタバース、今そこで起きていること」
記事「日本がWeb3で勝つ方法:伊藤穰一氏に聞いた(coindesk JAPAN)」

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