早速ですが、韓国人音楽ライターの筆者にとって“K-POP”は単に「韓国のポップソング」を意味しません。
私はK-POPを「独特な育成システムを通して、アイドルといったキャラクター性が付与されるアーティストが、ダンスポップを中心に活躍する、マルチメディア的な独自ジャンル」として捉えています。
この記事では2023年に発表された、狭義のK-POPソングについて語りたいと思います。
昨年に続いて今年度も、ほぼポストBTS期に台頭した、いわゆる“第4世代アイドル”(※)たちの躍進が目立ちます。彼(女)らの動きが示すものについて、微力ながらコメントしていきました。
(※)アイドルポップ批評メディア《Idology》の意見によると、第4世代アイドルは、ファンダムの参加的性格を強調し、ニューメディアの活用を通じて拡散性と日常的な双方向疎通を重視、そしてナラティブが重要な位置を占めることが特徴だと言われます。
では、私が選んだ、2023年のK-POPを代表する曲です。
精神病院といったセンシティブな背景から進むストーリーは、いつの間にか劇と視聴者との壁が崩れます。最後、X(旧Twitter)に悪評を書き込む人に対して“行こう”と病院に連れていくフィナーレは、劇で描かれた悪評のごとく、賛否両論を勃発させました。
精神病院という素材が蔑視的に映る問題を踏まえても、K-POPアーティストは現実を舞台にフィクションを演じなければいけない。言葉通りの“錯乱的”な状況に置かれています。しかし、その境界をあえて崩す際、劇はむしろフィクションらしき騒がしいダンスを肯定しているようにも見られます。
K-POPジャンルが楽しまれる様相を暴く同時に、そこからあえてNewJeansの世界に引き込む、凄まじい作品です。
それは彼女たちが韓国を拠点に置き、育成システムやプロモーション方式など、K-POPの諸要素を借用し、ジャンルの範疇に意識的に潜り込んでいるからです。いつの間にか国境という脈絡を超越したK-POPの現在を、彼女らは見せてくれます。
「LEFT RIGHT」は、XGの作品ラインナップのうち最もキャッチーで融和的です。
メロウなシンセにトラップ・ビートを乗せ、ミニマルなラップ・シンギングでリードしていき、「left right left right」と動作を指示するサビは直観的にフッキングします。
オルタナティブ/R&Bを借用することでK-POPを模写する範囲を広げたとも言える、代表的な曲でしょう。
複雑そうに見えますが、tripleS初のチーム名義タイトル曲「Rising」を聴けば、一瞬で彼女らの魅力に落とされるかもしれません。
ダブを入れた金属製のガラージ・ビートは「表では拍手、裏では偽善、I see you lying me」という冷め切った歌詞と共に、ダンサブルでありつつも悲壮なムードをキープします。そしてサビに入るドロップで弾けるシンセの清涼感は、まさに“Rising”な気持ちを味わえるよう緻密に設計されています。
新人ならではの不安を示しつつ、K-POPシーンで高みを目指す覇気を、洗練なダンス・ビートで聴かせる、エキサイティングな曲です。
しかし中小エンターテインメント企業発のアイドル・グループが米Billboardのヒットソングチャート「Hot 100」にチャートインした様は奇跡と評されています。その理由にはいろいろなビジネス的な打算や戦略があったとは思いますが、曲の魅力も議論から外してはいけないでしょう。
“レトロ”が常態的なブームとはいえ、シティ・ポップやトラディショナル・ポップなボーカル・パフォーマンスはK-POPの潮流を大きく外しています。
それがむしろ“K-”から遠ざかり、“POP”に帰着し、さらに広まる要因になったのかもしれません。
その過程をガイダンスするような楽曲はどれも魅力的でしたが、「EUNOIA」はそれらを凝縮した中でも素晴らしい曲だと言えます。“真の私”を探しにいく中、“おかしな世界”を受け入れるこの曲は、物語においても重要なチャプターになるでしょう。
言葉の味を活かしてフッキングさせるハイライトが満載です。レトロでダンサブルなシンセ・ファンクの分厚いビートの上に、ハーモニーが積もっていく中、「heartbeat heartbeat」「flip-flop」「tiki-taka」などの擬声・擬態語やチャントが各箇所でキャッチに輝きます。
そしてタイトなラップは確実にあなたの目を奪うことでしょう。ファンキーなダンスブレイクも見逃せません。
「I AM」は彼女たちの華麗なイメージに釘を刺す宣言です。「Life is 美しい Galaxy / Be a writer ジャンルは Fantasy.」硬く潰されたされたビートと、空を突き刺すような高いメロディーは宣言の重みと推進力を同時に見せつけます。
IVEはデビュー曲「ELEVEN」から大ヒット曲「LOVE DIVE」など、一貫して自己愛を歌ってきました。
その感情の高揚が頂点に至る曲として、華やかな祝祭を飾る「I AM」は、IVEの基調を確実に固める役割を果たします。
「FEARLESS」「ANTIFRAGILE」「UNFORGIVEN」と辿ることで、彼女たちの試練と禁忌を乗り越えるストーリーを描いてきました。その姿は孤高でクールでありながら、突然始まるハウス・ビートはステージをファッション・ショーのランウェイへと変化させます。
禁忌を乗り越えた神話の女性たちを想起させる巨大な題材でありながら、割と単純なフックソング仕様に首を傾げるかもしれません。
しかしダンス音楽は常にエンパワメントの役割を担ってきたことを踏まえると、LE SSERAFIMのコンセプトに人々を呼応させる戦略は的中したように思えます。
私はK-POPを「独特な育成システムを通して、アイドルといったキャラクター性が付与されるアーティストが、ダンスポップを中心に活躍する、マルチメディア的な独自ジャンル」として捉えています。
この記事では2023年に発表された、狭義のK-POPソングについて語りたいと思います。
昨年に続いて今年度も、ほぼポストBTS期に台頭した、いわゆる“第4世代アイドル”(※)たちの躍進が目立ちます。彼(女)らの動きが示すものについて、微力ながらコメントしていきました。
(※)アイドルポップ批評メディア《Idology》の意見によると、第4世代アイドルは、ファンダムの参加的性格を強調し、ニューメディアの活用を通じて拡散性と日常的な双方向疎通を重視、そしてナラティブが重要な位置を占めることが特徴だと言われます。
では、私が選んだ、2023年のK-POPを代表する曲です。
(※)順番は発表日基準です。随時更新予定。目次
NewJeans「OMG」
NewJeansの「OMG」MVが衝撃的な理由は、K-POPジャンルのファンダムに対して大胆に疑問を投げかけるからです。精神病院といったセンシティブな背景から進むストーリーは、いつの間にか劇と視聴者との壁が崩れます。最後、X(旧Twitter)に悪評を書き込む人に対して“行こう”と病院に連れていくフィナーレは、劇で描かれた悪評のごとく、賛否両論を勃発させました。
精神病院という素材が蔑視的に映る問題を踏まえても、K-POPアーティストは現実を舞台にフィクションを演じなければいけない。言葉通りの“錯乱的”な状況に置かれています。しかし、その境界をあえて崩す際、劇はむしろフィクションらしき騒がしいダンスを肯定しているようにも見られます。
K-POPジャンルが楽しまれる様相を暴く同時に、そこからあえてNewJeansの世界に引き込む、凄まじい作品です。
XG「LEFT RIGHT」
XGは全メンバー日本人(系)といった特殊な背景のK-POPグループです。日本人なのに、なぜK-POPなのか?それは彼女たちが韓国を拠点に置き、育成システムやプロモーション方式など、K-POPの諸要素を借用し、ジャンルの範疇に意識的に潜り込んでいるからです。いつの間にか国境という脈絡を超越したK-POPの現在を、彼女らは見せてくれます。
「LEFT RIGHT」は、XGの作品ラインナップのうち最もキャッチーで融和的です。
メロウなシンセにトラップ・ビートを乗せ、ミニマルなラップ・シンギングでリードしていき、「left right left right」と動作を指示するサビは直観的にフッキングします。
オルタナティブ/R&Bを借用することでK-POPを模写する範囲を広げたとも言える、代表的な曲でしょう。
tripleS「Rising」
tripleSは、NFT技術を媒介したファン参加型のユニットシステムやデビューメソッドで稼働している、ユニークな新人K-POPプロジェクトです。複雑そうに見えますが、tripleS初のチーム名義タイトル曲「Rising」を聴けば、一瞬で彼女らの魅力に落とされるかもしれません。
ダブを入れた金属製のガラージ・ビートは「表では拍手、裏では偽善、I see you lying me」という冷め切った歌詞と共に、ダンサブルでありつつも悲壮なムードをキープします。そしてサビに入るドロップで弾けるシンセの清涼感は、まさに“Rising”な気持ちを味わえるよう緻密に設計されています。
新人ならではの不安を示しつつ、K-POPシーンで高みを目指す覇気を、洗練なダンス・ビートで聴かせる、エキサイティングな曲です。
FIFTY FIFTY「Cupid」
FIFTY FIFTYはあいにく現在、会社とメンバーたちの間で紛争中です。しかし中小エンターテインメント企業発のアイドル・グループが米Billboardのヒットソングチャート「Hot 100」にチャートインした様は奇跡と評されています。その理由にはいろいろなビジネス的な打算や戦略があったとは思いますが、曲の魅力も議論から外してはいけないでしょう。
“レトロ”が常態的なブームとはいえ、シティ・ポップやトラディショナル・ポップなボーカル・パフォーマンスはK-POPの潮流を大きく外しています。
それがむしろ“K-”から遠ざかり、“POP”に帰着し、さらに広まる要因になったのかもしれません。
Billlie「EUNOIA」
Billlieは“おかしな世界”を探検する少女たちの物語を描いていきます。その過程をガイダンスするような楽曲はどれも魅力的でしたが、「EUNOIA」はそれらを凝縮した中でも素晴らしい曲だと言えます。“真の私”を探しにいく中、“おかしな世界”を受け入れるこの曲は、物語においても重要なチャプターになるでしょう。
言葉の味を活かしてフッキングさせるハイライトが満載です。レトロでダンサブルなシンセ・ファンクの分厚いビートの上に、ハーモニーが積もっていく中、「heartbeat heartbeat」「flip-flop」「tiki-taka」などの擬声・擬態語やチャントが各箇所でキャッチに輝きます。
そしてタイトなラップは確実にあなたの目を奪うことでしょう。ファンキーなダンスブレイクも見逃せません。
IVE「I AM」
IVEは2021年末デビュー以降、短期間でセレブリティーの座を獲得しました。「I AM」は彼女たちの華麗なイメージに釘を刺す宣言です。「Life is 美しい Galaxy / Be a writer ジャンルは Fantasy.」硬く潰されたされたビートと、空を突き刺すような高いメロディーは宣言の重みと推進力を同時に見せつけます。
IVEはデビュー曲「ELEVEN」から大ヒット曲「LOVE DIVE」など、一貫して自己愛を歌ってきました。
その感情の高揚が頂点に至る曲として、華やかな祝祭を飾る「I AM」は、IVEの基調を確実に固める役割を果たします。
LE SSERAFIM「이브, 프시케 그리고 푸른 수염의 아내 (Eve, Psyche & The Bluebeard’s Wife)」
LE SSERAFIMは、NewJeansやIVEと共に2022年前後の大型新人グループとして語られます。「FEARLESS」「ANTIFRAGILE」「UNFORGIVEN」と辿ることで、彼女たちの試練と禁忌を乗り越えるストーリーを描いてきました。その姿は孤高でクールでありながら、突然始まるハウス・ビートはステージをファッション・ショーのランウェイへと変化させます。
禁忌を乗り越えた神話の女性たちを想起させる巨大な題材でありながら、割と単純なフックソング仕様に首を傾げるかもしれません。
しかしダンス音楽は常にエンパワメントの役割を担ってきたことを踏まえると、LE SSERAFIMのコンセプトに人々を呼応させる戦略は的中したように思えます。
この記事どう思う?
1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:9173)
最新の流行を網羅したよい記事だと思います。
ただ、H1-KEYやEVERGLOW、KISS OF LIFE、ICHILLIN'に触れられていないのが個人的には残念でした。