「実家の麦茶まずそう」不幸すぎて笑える短歌集 著者は日本で唯一の“歌人芸人”

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「実家の麦茶まずそう」不幸すぎて笑える短歌集 著者は日本で唯一の“歌人芸人”
「実家の麦茶まずそう」不幸すぎて笑える短歌集 著者は日本で唯一の“歌人芸人”

『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』岡本雄矢(スキンヘッドカメラ)

歌人芸人である岡本雄矢さん(スキンヘッドカメラ)の著書『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』が4月27日に発売された。

自身の不幸を短歌にした「不幸短歌」という触れ込みで、幻冬舎のWebサイト「幻冬舎plus」で連載されていた短歌+エッセイを書籍としてまとめたものだ。

岡本雄矢さん。1984年北海道札幌市生まれ。コンビ名はスキンヘッドカメラ。詠みはじめるとなんでも“不幸短歌"になってしまうという特徴を持つ。「日本にただ1人の歌人芸人」。テレビ、ラジオ、イベントへの出演や、専門学校の講師、芝居の脚本執筆などの手がける。

著者の岡本さんは、札幌よしもと所属のお笑いコンビ・スキンヘッドカメラとしても活動。本人はどちらかというと、“いろいろ気がついてしまって損している人”と言うべきか。

不幸短歌といいつつ実はそんなに不幸そうに見えない。こんなことを私が言うのは無責任かもしれないが、楽しそうにも見える。内向的な人ならあるあるなのかもしれない。

著書の中にはそういう意味で共感できる短歌があった。今回は収録されている短歌を、筆者が読んだときの感想とともにいくつかを紹介したい。そして岡本雄矢さん本人にも、著書について話を聞いてみた。

取材・文:ふかみん(深水英一郎)

楽しく読める不幸短歌

岡本雄矢『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』

あけましておめでとうからあけましておめでとうまでの無言の一年/岡本雄矢

これだけコミュニケーションが楽になった時代でも、1年に1回しかやりとりしない人がいるのだなぁ、という気づきがこの歌にはある。

「コミュニケーションは年賀状だけ」という人は昔からいた。そして、コミュニケーションがこれほど楽になった現代にも、お正月にしか連絡しない人がいる。疎遠な人はテクノロジーが進化しても結局疎遠なのだ。

普段はあまり意識していないこのことを、作者は短歌を通して突きつけてくる。作者は優しいので自分の不幸のことのように言うが、そうではない。これはあらゆる人に共通することなのだ。

作者が言っている不幸というのは、何も作者のことだけではないのだ。

公園でブランコをこぐおじさんは空まで届くくらい一人だ

孤独の表現として「空まで届くくらい」というのが素敵。公園で一人ブランコをこぐおじさんほど寂しい絵はない。

大人が一人でブランコを漕いでいたら、それだけで何かを察するべき。まして空まで届くくらいこいでいるのであれば、そっとしてあげたいと思う。

死にたいと呟くあいつの腸にまで生きて届いているビフィズス菌

ミルミルやサプリ、ヨーグルトなどに入ってるビフィズス菌。空腹だと胃酸にやられて生きたまま腸にまで届かないらしい。つまり「あいつ」は事前にしっかりご飯も食べている。

割引のレモネード買う3人の店員深くおじぎしてくる

本を読んでいると、著者の岡本さんは、細かいところにまで気がつく優しい人なんだなぁということがだんだんわかってくる。この短歌も、やはり岡本さんの細やかな気遣いが出ているなと思う。

接客が丁寧なお店で深々とお辞儀をされる気まずさ。それも、割引の商品で。とても申し訳ないような、足早にその場を去りたいような気持ちが表現されていて、とても面白い。

ちょい待ってあなたが好きですあなたからもらった電話で恐縮ですが

「もらった電話」というのは、かけてきてもらった電話という意味だろうか。告白するときにどっちからかけた電話というのを、そもそも気にするのか? とは思うけど、さすが細かいところにまで気を遣う人だなと思う。

そして、こちらから電話するかどうかためらって、その挙句に向こうから電話がかかってしまった、ということではないかと想像も膨らむ。

初合コンで言われた第一印象は「実家の麦茶まずそう」でした

実家の麦茶まずそう」と言った人のセンスがすごい。まずい麦茶ってなかなかない。どんな風に出したってだいたいおいしいから。

だから「まずい麦茶」というのが逆に気になる。もしかしたら、そもそも麦茶じゃないかもしれない。ともかく「実家の麦茶まずそう」と言われてしまった合コンはうまくいかないと思う。

いい曲が流れそうな雰囲気だけど現実だから決して流れない

目が合った瞬間、小田和正の曲(もしくはそれに類する曲)が流れたらそれはもう恋のはじまり。これはドラマにおける厳然たるルールである(?)。

恋の芽生えだけではない。楽しい朝の始まりや、何らかの疑惑が生じたとき、滑稽な友人が登場したとき、推理が始まったとき、殺意を覚えたとき、誰かが死にそうなとき、などなど。

それに合わせたBGMが流れ、事態は動き始める。ドラマでは。

でも現実世界では、BGMは決して流れないのである。よって、そんな雰囲気がしても、現実世界で新しい恋がはじまることはない。

全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割

著書のタイトルにもなっている短歌。エッセイを読むまでは勘違いしていた。きっと作者の岡本さんは、先輩に命じられてカバンを盗られないよう見張ってたんだと思っていた。

しかし実際は、誰に言われたわけでもないのに、岡本さん自ら友人や先輩らのカバンを監視していた、ということなのである。

なんていい人なんだろう。

しかも、なんでサラダバー一緒に来ないの? と言われても、はっきり理由を述べずに、あいまいに流しているそうだ。

なんて謙虚なんだろう。

詠んだ人 岡本雄矢にきいてみる

『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』本誌より

──まずは著書『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』の紹介をお願いします。

岡本雄矢 僕の周りには小さな不幸がいろいろと起こります。37年間起こり続けた不幸を短歌にし続けていたら、1冊の本になりました

「こんなことあるかよ」と笑ってもらったり、「こんなことあるな」と頷いてもらったり、「こんな人がいるなら自分はまだ大丈夫だ」と思ってもらったり。いろいろな立場から読んでもらえる本だと思っています!

──序文に、岡本さんの短歌は「フリースタイル」と書いてあったのですが、フリースタイルの短歌というのはどういったものなのでしょうか?

岡本雄矢 僕がつくっているのは短歌に分類されるのですが、短歌を知らない人が見て、「これ“57577”じゃないじゃん」と混乱させてしまわないように、フリースタイルの短歌と広めに言うようにしています。

──字余りや字足らずといった破調の短歌もあるよ、ということですね。また、韻律と面白さ、どっちをとるかと言われたらやはり芸人さんの場合は面白いかどうかの方が重要ということなのかもしれません。

そういうことも含めて「フリースタイル」という表現は良いですね。書籍のタイトルも短歌になっていますが、これはどのように決めたのでしょうか?


岡本雄矢 書籍のタイトルは、僕の何十首かの歌の中から、出版社さんや編集者さんが、一番世間の人に届きそうなものを選んでくれました。

──岡本さんがアウトプットする際に意識していること、気をつけていることはありますか?

岡本雄矢 3つあります。1つ目は「なるべく人を傷つけない」、2つ目は「熱量のあるものを、なるべく自分の気持ちに近い言葉で書く」、3つ目は「例えばトマトの話を書いたら、次にトマトを見たときに思い出してもらえるような文章を書く」ということです。

──最後に、岡本さんの今後の予定を教えてください。

岡本雄矢 引き続き、「幻冬舎plus」で短歌とエッセイの連載を行なっていますので、そちらをご覧ください(外部リンク)。

また、漫才コンビ「スキンヘッドカメラ」としてライブ活動してますので、こちらもぜひお越しいただけると嬉しいです(外部リンク)。

新しい時代の笑いについて

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