ヤンキー漫画がヤンキー漫画足り得るための、絶対に必要な要素・条件
僕は結構、人並み以上にヤンキー漫画を読んでる人間です。だから『東京卍リベンジャーズ』の大いなる挑戦は買います。けど、だからこそその挑戦が成功しているかどうかについては、ちゃんと話をしたい。
ヤンキー漫画にとって一番大事な、ヤンキー漫画をヤンキー漫画足らしめる重要な要素って何だと思います?
わいは人並程度でしか読んでないなあ……上下関係ですか?
んーーー、いやちょっと違うな(笑)。
わかった。学校・青春だ!
学校も青春も、そうだとも言える。つまり集約すると何かっていうと「仲間」なんですよ。
そうですよね、仲間。
でもこれって別にただ単に“仲間”がいるっていうことが大事なんじゃなくて、仲間を“信じる”っていうことが非常に大事なんですよ。
なるほど~。
任侠ものとかもそうだけど、時に背中を預ける仲間を無条件で信じないと、ヤンキー漫画における物語ってそもそも駆動しないんですね。
逆に信じていた仲間からの裏切りもお約束になっていて、前提として仲間を強く信じているからこそ裏切りにはドラマが生まれるわけで。
一番大事なのは、仲間を信じること。その上で『東京卍リベンジャーズ』は、ヤンキー漫画を取り戻したいはずなのに、そのヤンキー漫画の根幹を否定しているんです。
主人公のタケミッチーが、仲間のことを、誰も信用してない。
そうですか?
タケミッチーは、タイムリープで「自分は未来から来た」と仲間に打ち明けないんだよね。
みんなとは違う、一歩引いた立場にいるっていうことだよね。
そう。幼馴染たちにも東京卍會のメンバーにもヒナにも、自分の置かれた環境を話さず、孤独な挑戦を選択するんですね。自分はヒナを、みんなを助けたいから未来から戻ってきたんだと、仲間に言わない。
最終的には言っていますけどね。
最新巻はそうですね。
徐々に千冬とかには打ち明けるし、ヒナにも中途半端な形で言うんだけど、最初はなぜか言わない。言わない理由も「言っても信じてもらえない、言ったら変人扱いされる」って。それは、ヤンキー漫画においては絶対にありえない。
『東卍』が真のヤンキー漫画だったら、秘密を包み隠さずに言うと!
ヤンキー漫画の主人公が「自分の仲間が自分を信じてくれない」なんていう態度を物語の終盤まで貫き続けるなんてこと、ヤンキー漫画では絶対に演出としてありえないんです。
なるほど。タケミッチーは基本的に、いろんな人に対して疑心暗鬼になっていて、その解明を軸に物語は進んでいくよね。
そう、根本的にタケミッチーは必ず一歩引いてるの。
未来を見ちゃってるからね。
あくまで読者視点なんですよね。「東京卍會」の重要なメンバーなんだけど、でも一歩引いてるっていう奇妙なキャラクターで、それがヤンキー漫画の主人公にはそぐわない。
たしかに俺もタケミッチーいらないなって、いつも思ってるかも……。
ひどい! タケミッチーいないと始まんないよお。
これはやっぱり構造的な欠陥なんですよね。仲間を信じないとヤンキー的な物語はドライブしないのに、在りし日のヤンキー時代を取り戻すためにタイムリープを導入する上で、主人公が仲間を信じないという矛盾が生じている。
仲間を信じない以上、ヤンキー漫画的な意味での絆もチームも生まれなければ、ヤンキー漫画的な意味での裏切りも生まれない。
つまり、にいみさん的には『東卍』はヤンキー漫画ではないってことですね?
ヤンキー漫画になりたかったのにヤンキー漫画を否定してしまった、奇妙な漫画でしょうか……!
イケメンとかは関係ないんだ。イケメンでもヤンキー漫画していいんですか?
全然いいでしょ(笑)。それは枝葉末節の部分であって、一番外してはいけないのは「仲間を信じる」だけなんですよ。
じゃあタケミッチーを抜けば、ヤンキー漫画たりうるってことなんでしょうか。
ウケるかどうかは別にして、わりと普通のヤンキー漫画にはなると思う。
なるほどね。マイキーは大丈夫? マイキーもかなりヤンキー漫画としては異質な存在だと思うんですが。
少ないけれど、これまでのヤンキー漫画にもマイキー的な人はいるんですよね。『QP』における我妻 涼みたいな、心に孤独を抱えてて、暴走して悲しい結末を迎えるリーダー的存在みたいなのは。その人が中性的なのは新しい描き方かもだけど、ヤンキー漫画の範疇ではあると思います。
やっぱりタイムリープっていう、SF的な設定をヤンキー漫画とくっつけるっていうのが、すごく偉大な挑戦だったとは思うんだけど、食い合わせがあまりに悪すぎた。ヤンキー的な漫画のリアリティレベルと、SF的な漫画のリアリティレベルって全然違う。
ヤンキー漫画は、基本的にはロジックとかは必要ないし、勢いと感情で物語をドライブさせればいいんだけど、SFってなるとそうはいかない。「このタイムリープってどういう仕組みなの?」とか「直人は現代にいるのに、なんで過去が変わっても記憶を保持してるの?」みたいな謎につまずいてしまう。
SFとしてもやっぱりすごいちぐはぐだし、ヤンキー漫画としても成立しないから、俺はこれはSFでもヤンキー漫画でもない、よくわからない何かだと思います!
特殊なSF設定ーー黒幕はタケミッチー…ってコト!?
なるほど。ただタイムリープの話で一つしたかったことがあって。普通はタイムリープしたら、過去の自分と出くわすじゃないですか。
はいはい。
『ドラえもん』のタイムマシンがその代表格ですが。でも『東京卍リベンジャーズ』は、人格・魂がタイムリープしてるんです。
そうなのよ。めちゃくちゃ変わってるよね。
そう。タイムリープされる直前の過去の自分は違う人という描かれ方で。
タイムリープすると、過去の自分の身体に未来の自分という別人格がインストールされるという仕組みになってるんです。これ結構面白くないですか?
しかも過去で時間が経過すると、未来でも同じだけ時間が経過するとか。すげえな、その設定って。
冒険的な設定だよね、SFから見ても。
そうっすね、特殊なタイムリープだと思う。
『STEINS;GATE』とかもそうですよね。
でも『STEINS;GATE』では、人格の転移は曖昧じゃないですか。『東卍』だとタイムリープしてくると周りの人に驚かれる。「タケミチくん優しくなった」とか「さっきまでのタケミッチーと違う!」みたいな。そういうのあんまりないなと思って。
人格が急に入れ替わってるけど、逆に未来のタケミッチーに押し出された過去の自分の人格はどこにいってるんだろ? 不思議。
僕、この設定から黒幕はタケミッチー本人なんじゃないかって思ってますもん。
なるほど。
例えば「12年も経てば全く違う人だよ」みたいなくだりがあったりとか、時間の流れみたいなものを作中でも意識してるじゃん。
時間の経過で人は変わっていくっていうのもテーマ的に描いているから、タケミッチー自身は思い出せないけど、もしかすると昔のタケミッチーはすごい悪いやつだったのかなと思ったんだよね。
そうですね。タケミッチーは元々かなりだらしないと言うか、流されたり調子に乗りやすい性格だったっていう描写もあります。
僕はもう一個、SF要素として気になってるのは、稀咲と武道の最終決戦のシーンです。急にタケミッチーが未来で、稀咲がヒナに告白してるシーンを幻視するんですけど。
見る、見る。「この駐車場は……⁉」って。
全く違う能力が急に芽生えてましたね。ピンチになったら新しい能力に目覚めるって、吉良吉影かよって思ったもん(笑)。
SF的というか、ご都合主義みたいなのは、そういう面でも目につきますね……。
別にご都合主義自体はいいんだけど、どう収束されていくんだろうなとは思いますね。
ちゃんと世界観の中で納得させて欲しい。最終的に納得させてくれるのかは、わかんない……正直期待できないなって思ってます。
そんなこと言わないでよ!
別にヤンキー漫画だったら、俺もそんなこと言わないし「でも面白いからいいよね」で済むんだけど。
やっぱりヤンキー漫画とSFっていうのを持ってきた瞬間に、リアリティレベルがガチャガチャすぎて、それぞれの良さを殺してる。
すみませんでした。
なるほど~。
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連載
その時々のエンタメ業界に現れた覇権コンテンツについて編集部が議論する連載。コンテンツ自体はもちろん、そのコンテンツが出てきた背景や同時代性、消費のされかたにも目を向け、ネタバレ全開で思ったことをぶつけ合っていきます。
2件のコメント
都築 陵佑
コメントありがとうございます。編集部の都築と申します。
ご指摘いただいたお名前の件、大変失礼いたしました。
記事は先ほど修正させていただきました。
今後ともよろしくお願いいたします。
匿名ハッコウくん(ID:5175)
馬地…?って誰?