アニメとヒップホップは影響を与え合ってきた
一方で、ラッパーからも、サンプリングやリリックを通じて、アニメを取り入れ楽曲が生み出されるようになっていった。『ドラゴンボール』『NARUTO -ナルト-』『新世紀エヴァンゲリオン』などの作品が取り入れられた楽曲は、枚挙にいとまがない。MELLOW YELLOWのK.I.Nとは、日本で最初に即興ラップをはじめた人物として知られており、2016年にRHYMESTER・宇多丸のTBSラジオ『タマフル』でも紹介されている。加えて、今回の放送後、同じく宇多丸が『アフター6ジャンクション』で当時(2016年)のエピソードとともに該当のシーンに言及。アニメの制作陣に感謝を述べている。客A「最初にフリースタイルしたの、K.I.Nだよ」
客B「えっ、MELLOW YELLOW(メロー イエロー)の?」 『オッドタクシー』第3話より
劇伴をラッパーが担当するだけでなく、知る人ぞ知るヒップホップシーンのエピソードを劇中に盛り込んでいる。『オッドタクシー』には劇伴というクレジット以上にヒップホップへのリスペクトを見ることができる。 通常、アニメの劇伴といえば、専門的な音楽作曲家が手がけることが多く、主題歌にしても、様々なシンガーやバンドマンがその大部分を占めてきた。
3人が劇伴に参加したこと、それによってヒップホップという文脈が加わった『オッドタクシー』は、アニメ表現がより多彩になる可能性を示したと言えるだろう。
PUNPEE、スカート、タクシー運転手の共通点
最後に、本作で音楽を担当するSUMMIT所属の3人──PUNPEE、VaVa、OMSB──のうち、PUNPEEが澤部渡のソロプロジェクトであるスカートと共に手がけたOP主題歌「ODDTAXI」についても触れておきたい。澤部のスムースな歌い口と柔らかいギターカッティング、PUNPEEによるゆったりとしたヒップホップのグルーヴを帯びたベース&ドラムのトラックメイク、それぞれの良さを繋ぎ合わせた楽曲だ。
年齢も近く、ともに東京をフッドに活動している2人。シンパシーを感じ合っていた彼らによるタッグは、今回が初めてとは思えないほどしっくりくる。 スカートは同世代のインディミュージシャンやバンドのサポートだけでなく、ムーンライダース、カーネーション、Negicco、川本真琴といった幅広いミュージシャンの楽曲にも参加している。
PUNPEEとスカートは、各々のシーンで様々な人とを繋ぐ存在として動き続け、世代やジャンルといった障壁を超え、様々な楽曲を生み出してきた。いくつものシーンを漂流するかのように飄々としつつも、確実に芯を打つ楽曲を生み出すこの2人。実はとても似ているのだ。
「世代やジャンルといった障壁を超え、様々な人と人とを繋ぐように、飄々と活動している存在」というと、街中を走り回っては1日に何十人もの人を送迎し、世代も階級も関係なく平等に目的地へと届けてくれる、タクシードライバーの姿がダブって見えてこないだろうか。
一般的な会社勤めをしている人からすれば、小戸川のようなタクシードライバーもバンドマンも、ラッパーも、一見するとアウトサイドに生きる存在だ。だがアウトサイダーな存在が見出す知見と嗅覚が、それ以外の人を救うことがある。
この歌詞の先で、何が待ち受けているのか。ぜひ作品を最後まで見てほしい。揺れて こぼれ落ちて
ほころびは連なって
まるで袋小路じゃないか!
僕らはずっと
扉たたけないまま
掛け違えた違えた記憶
見慣れたはずの景色に
足りないものがあるんだ
混ざり合わない目線の理由を
思い出せるか スカートとPUNPEE「ODDTAXI」
アニメや漫画の深い話
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クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。
1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:4538)
素晴らしい記事です!!!