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連載 | #15 KAI-YOU ANIME REVIEW

『シン・エヴァ』で結実した失われたはずの可能性 映像と脚本で紐解く奇跡の作品

『シン・エヴァ』で結実した失われたはずの可能性 映像と脚本で紐解く奇跡の作品

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』レビュー

POPなポイントを3行で

  • 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』レビュー
  • “前例のない映像”と“フィクションの究極的脚本”
  • 総監督・庵野秀明=ゲンドウとする理由と告白
3月8日から公開中の庵野秀明総監督による『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。本作は他に類をみない映画であり、間違いなく歴史に残る大傑作となった。

しかし、すべてを語るにはあまりにも時間も理解も足りない。よってここでは“誰も観たことのない映像”と“フィクションの究極的な脚本”という2点にフォーカスして本作について語ろうと思う。

※なお、本記事には映画のネタバレが含まれる。

文:照沼健太

誰も観たことのない、虚構と現実を超えた映像

本作は2つのアバンタイトル(AVANT1、AVANT2)と、4つの本編パート(便宜上、登場順にA、B、C、Dと呼称)という、合計6つのパートで構成されているが、その映像的な新しさは、AVANT1、AVANT2、Aという序盤3つのパートに凝縮されていると言っていい。

まずはAVANT1。3DCGによるエヴァ8号機と“使徒もどき”(Evangelion Mark.44A)の空中戦を描いたバトルシーンは、手描きの2Dアニメでは到底実現できないカメラワークの連続で、スタジオカラーが「新劇場版」シリーズを通して取り組んできた3DCGを活用した巨大ロボットのバトルの総決算ともいうべき内容になっている。

カラースコープ」と名付けられた、通常のテレビ画面の16:9よりも横長の画角を活用したレイアウトは、前作『:Q』とは段違いのクオリティーであり、実写映画である『シン・ゴジラ』での経験が遺憾無く発揮されていると考えられる。おそらくは3DCG空間上にバトル全体の動きをある程度つくりあげ、その上で、同空間内でカメラを操作してアングルを探るという、実写でも2Dアニメでも絶対にできなかった手法がとられているのではないだろうか。 続くAVANT2は、「動」そのものだったアクションパートのAVANT1から一転し、『ゴッドファーザー』などで知られるニーノ・ロータを思わせる“映画音楽”的劇伴とともに、主人公・碇シンジら3人のメインキャラクターが、赤く染まった大地を神奈川方面から静岡方面へと歩き続ける「静」のシークエンスだ。

技術的にはとくに目立つところのないタイトルバックパートではあるが、多くの観客が郷愁を誘われるであろう日本の風景が赤く染まり、やはり同じく真っ赤な瓦礫が浮遊し、首のない巨人が残置されている光景は、これまでに見たことのないイメージそのものであり、1995年放送のTV版『新世紀エヴァンゲリオン』で初めて第3新東京市を目にしたときの、あの不思議な感覚が再び書き換えられるようでもあった。

背景美術が映画の品格を決める」とは庵野秀明総監督の師匠の1人でもある宮崎駿氏の言葉だが、そうした背景美術と美しく壮大な劇伴が『シン・エヴァ』を“映画”たらしめていると言っても過言ではないだろう(余談だが、このAVANT2は、『もののけ姫』のデイダラボッチを連想させる半透明の首無し巨人の描写も含め、呪われた運命を背負い故郷を追われたアシタカの旅立ちを美しい背景美術と勇壮な劇伴で祝福した同作冒頭へのオマージュ、そしてデイダラボッチの首が落とされた終盤へのアンサーとしても見ることができるだろう)。

アニメの原点へのリスペクトと特撮へのオマージュ

そして第3村での生活を描いたAパートは、本編序盤でありながらも、ありったけの技術とアイディアが詰め込まれた、本作の映像的なクライマックスである。

静岡県浜松市の天竜二俣駅をモデルとした村のロングショットにはじまり、建物屋内の全景を見せる広角レンズによるカット、そして村内での会話劇、日常芝居、田植え仕事まで、徹底的に画面設計=レイアウトにこだわり抜かれていることに気づく。高畑勲と宮崎駿が確立したアニメの制作技法である「レイアウトシステム」、その原点に立ち返るような強いリスペクトがここに見て取れる。

そしてもちろん、そのレイアウトの中には、もはや庵野秀明のシグネチャーとも言える、『ウルトラマン』の名エピソードを奇抜なアングルワークとともに手がけてきた実相寺昭雄(※)へのオマージュも健在だ。カメラをのぞき込むアヤナミレイ(仮称)を手前に、奥にうずくまるシンジを置く構図などはその好例だろう。

※実相寺昭雄:「ウルトラ」シリーズを代表する監督の1人。ジャン=リュック・ゴダールなどを意識した独特な演出・カメラワークで知られる。有名なものでは『ウルトラマン』のジャミラ回、『ウルトラセブン』のメトロン星人とのちゃぶ台を挟んだ対峙回など。

だが、彼らはそこに止まらない。ロケハンで撮影した写真素材の活用、ミニチュアをつくってのアングル探究、モーションキャプチャーとプリヴィズの組み合わせによるカメラワーク実験、特撮技術やCGの応用を通し、庵野総監督はじめスタジオカラーのスタッフは先人たちの技を確実に一歩も二歩も前に進めることに成功しているのだ。 中でも特筆すべきは、床で寝転がったまま嘔吐したシンジにアスカが無理やりレーションを食べさせるシーンだ。従来のアニメでは技術的にも到底不可能な手持ちでのカメラワーク、そして想像ではつくれないであろう生々しいキャラクターの動きは、アスカ役の声優・宮村優子の素晴らしい演技とともに本作最高のシーンの1つをつくり上げている。

バーチャルカメラとモーションキャプチャーを組み合わせたCG映像なのか、実写をトレースする手法「ロトスコープ」なのか、何度見ても判断ができない驚きの映像だ(筆注:公式アプリ『EVA-EXTRA』内の有料コンテンツでこのシーンの制作プロセスが公開されたので、ぜひ観ていただきたい)。そして、シンジが家出した後のトンネルのカットは特に驚かされた場面の1つだ。先日放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』の庵野秀明特集で該当シーンの編集過程が流れていた通り、このトンネルの背景美術は写真素材を加工したものとなっている。

「これまでにないアニメづくり」へ結集された総力

かつて、アニメの世界においては制作者・視聴者ともに、写真を素材として使うことを「想像を阻害する邪道な行為」とする向きもあったが、このカットは問答無用の説得力で写真の力をアニメに融合させていると感じた。

近年のアニメ背景美術においては、圧倒的な書き込みによる情報量と光の扱いで“現実以上の美しさ”を描き出す新海誠監督作品がその最先端として挙げられるが、庵野秀明総監督と美術監督・串田達也(でほぎゃらりー)は写真を素材としながら、あえて情報量を落としていくという手法によって、その先を切り開いたと言える。

このAパートは、バトルシーンなしで約1時間、テレビアニメ2〜3話分ほどの尺を取るパートとなっている。しかし、それでも観客をまったく飽きさせることないのは、演出を含む圧倒的な映像技術とアイディアの賜物である。

先日NHKで放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』内にて、庵野総監督は『シン・エヴァ』で目指すものとして「画コンテを用意しない、これまでにないアニメづくり」を標榜していたが、このAパートはまさにその志とスタッフ一同の努力が結実した奇跡的な映像に仕上がっている。

そもそも「新劇場版」は映像に合わせて声優が演技をつけるアフレコではなく、最初に演技を収録してそれに映像を合わせるプレスコ形式を採用しており、さらには『序』の時点から3DCGをミニチュア模型に見立てた画面づくりをするなど、“実写”的な手法を取り入れるアニメ作品としての側面ははじめから持っていた。

いや、遡ればTV版『新世紀エヴァンゲリオン』の頃から、電柱を背景美術としてではなくキャラクター同様に実線でセルとして描くなど、明確に特撮を意識したつくりを採用してきたアニメなのだ。筆者は旧世紀版こと『新世紀エヴァンゲリオン』を、特撮とアニメに引き裂かれた稀代のクリエイターが生み出した作品であると解釈している外部リンク)が、このAパートを筆頭とする『シン・エヴァ』全編では、それに対する最高の答えを見たような気分となった。

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん

直接この記事にでなく、この記事からも感じとれる一般論で言うんですけども
誰のどんな解釈、考察を読んでもそれがエヴァのものだと確実に半分は共感出来ても、なんかもう半分はそれどうなの…?って拒否したくなるニュアンスを感じちゃうんですよね
脊髄反射的に拒絶反応が起こっちゃう…「俺の考えとは違う」って
こんな解釈の分かれ方するのがエヴァの不思議なところですよ
ある意味聖書みたいですよね、どの弟子が一番イエスを理解してるか?みたいなw
その見方も面白いね!と思えたらハッピーですよね

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん

解釈について、色々捉え方がある作品ですから。映像作成等については確かに言ってらっしゃる通りと思います。ただ、作品解釈については言い切れる部分と言い切れない部分があると言わざるをえない作品です。言い切ってしまうと解釈を巡って色々問題が起こったりします。現状カラーに対して誹謗中傷や脅迫が届いてることを考えると、「様々な解釈はあると思いますが〜」くらいの前置きの文章があった方がいいのでないかとは感じました。

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