連載 | #14 KAI-YOU ANIME REVIEW

『オッドタクシー』に見る、ならず者のカウンター アニメとHIP HOPの接続史

日本アニメとヒップホップ・ラップの接続

アニメ作品にヒップホップ系のトラックメイカーやラッパーが劇伴担当として参加するのは非常に珍しいが、ゆるやかな接続はこれまでにも行われてきた。

日本のアニメとヒップホップ・ラップの接続というと、古くは1991年放送『おばけのホーリー』のOP「約束するよ」(相原勇)、1997年放送『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』のOP「WAR WAR! STOP IT」(下町兄弟)、1998年放送『発明BOYカニパン』のED「O・K!」(XL)などが挙げられる。特に「WAR WAR! STOP IT」は、ラッパー・ACEがその影響を公言しており、現在ヒップホップシーンで活躍するアーティストにも衝撃を与えた。 とはいえ、ヒップホップというよりも、スタイルとしてラップを取り入れた曲がほとんど。ハードコアな不良文化であるヒップホップと子供向けの認識が強かったアニメとの間には、大きな隔たりがあったのが実情だろう。そうした作品群の中でも改めてピックアップしたいのが、渡辺信一郎監督によるTVアニメ『カウボーイビバップ』だ。

『カウボーイビバップ』/画像はサンライズ公式サイトより

1998年6月26日にテレビ東京で放送された第13回「よせあつめブルース」(※)のEDテーマとして、SHAKKAZOMBIEの「空を取り戻した日」が使用された。当時の様々な事情を受けて、総集編のような形で放送された同エピソードだが、それまでに放送された12話をまとめるいわゆる総集編的な内容ではなかった。

山寺宏一や林原めぐみらが演じるキャラクターたちの独白と、シーンとシーンをツギハギに繋ぎ合わせた映像。それらを彩るように流れる、菅野よう子によって生み出されたブラック・ミュージックの劇伴。

「カッコいいところだけを抜き出して使っていく」という手法は、まるでヒップホップのサンプリングのようでもあり、同時にアウトローな生き様とダンディズムを見せつける本作を、より色濃く華やかに仕上げるのに成功している。

作風にもヒップホップ的エッセンスが散りばめられた第13回。結果的にTV放送時の一度きりとなった幻の回で、EDテーマに起用されたSHAKKAZOMBIEの「空を取り戻した日」。それは、その後のアニメとヒップホップの接続においても、大きな意味を持っていたはずだ。

※『カウボーイビバップ』第13回:夕方アニメ枠の放送作品としては劇中の暴力・犯罪描写が過激で悪影響が心配視されたことや、約半年前に同じくテレビ東京で放送された『ポケットモンスター』において、視聴者が光過敏発作などを起こしたいわゆる「ポケモンショック」事件などの影響があり、本来の全26話中、12話+総集編というイレギュラーな放送となった。その後WOWOWで全話が放送されたが、第13回「よせあつめブルース」は再放送・配信されず、映像ソフトにも収録されていない。

『サムライチャンプルー』の果たした功績

その後、渡辺監督は2004年放送の『サムライチャンプルー』で再びヒップホップとの接続を試みることになる。OPテーマはもちろん、Nujabes、そしてShing02による「battlecry」だ。

劇中音楽は、SHAKKAZOMBIEのトラックメイカー・TSUTCHIEKZADJ KENTによるユニット・FORCE OF NATURE、90年代初頭から活動していたヒップホップグループ・Five DeezのFat Jonが担当。 彼らの楽曲はジャジー・ヒップホップを吸収したトラックが多く、現在のローファイ・ヒップホップの原型ともいえる音楽性がある。

輪郭線や影を強調し、日本画や劇画らしいタッチで描かれたサムライの物語を、淡々としたヒップホップのグルーヴとジャジーな柔らかい音色で彩った同作は、今では放送当時以上に海外から評価されている作品と言えるだろう。
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時には映像を音楽が食ってしまうほどに主張が激しい部分がある。それは渡辺監督自身の狙いであったと後年に語っている。

「音楽をもっと立てて、音楽と映像が50:50で競い合うようにしたかったし、ときには音楽が立ち過ぎるくらいのほうが面白いと思っていた。そのためには、それだけの力を持つ音楽でないといけないし、映像と拮抗できるくらいのクオリティも必要になってくる。そういう意味も含め、ヒップホップのなかで最適だったのがNujabesでした」 サムライチャンプルーとNujabes─ 渡辺信一郎 監督が語った “無名のNujabes” を起用した 理由より

OPテーマを担当したNujabesの人気は現在でも絶大で、ソウルクエリアンズやスラム・ヴィレッジで活躍したビートメイカー/ラッパー・J Dillaと共に「ローファイ・ヒップホップの父」とまで評される。

1974年2月7日に生まれた2人の天才は、Nujabesは2010年に、J Dillaは2006年に、共に早すぎる死を迎えてしまった。だが現在ではLofi Girl(旧Chilled cow) などのYouTubeチャンネルにおいて、ジブリアニメをオマージュした映像とともに、高い人気を誇るようになった。
lofi hip hop radio - beats to relax/study to
アニメーションとヒップホップを効果的に接続した『サムライチャンプルー』以降、アニメ楽曲でラップやフロウを取り込んだ楽曲が登場することになる。

たとえば、岡崎能士の同人漫画『アフロサムライ』が、GONZO制作でTVアニメ化されたことを忘れていけないだろう。2007年にアメリカで、その後WOWOWで国内でも放送された同作は、外国人が考える「間違った日本観」を逆手にとったユニークさが大きく評価された。そんな本作の劇伴音楽を担当したのは、米ヒップホップの重鎮であるウータン・クランのリーダー・RZAだった。

その後、アニソンのラップアレンジをニコニコ動画に投稿していたらっぷびとがMAD動画として公開した「空想ルンバらっぷ」が『さよなら絶望先生』に公式採用されたり、『化物語』で千石撫子が歌った「恋愛サーキュレーション」が視聴者を虜にしたりしている。

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クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。

1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:4538)

素晴らしい記事です!!!