Rain Dropsと樋口楓が歌う「生身の感情」 にじさんじ所属の両者が音楽で届けたもの

VTuberシーンを超えてロックを発信する樋口楓

対して、樋口楓はどのようにリスナーとつながり、何を届けようとしていたのだろうか。

にじさんじ内でのキャラメイドソング数は随一を誇る彼女。アニメを愛しているVTuberは数いれど、アニソンシーンにおいて大きな影響力を持っているレーベル・Lantis(ランティス)に加入したことは、VTuberというシーンを超えて注目すべきポイントだろう。 1stアルバム『AIM』は、ロックミュージックへと傾倒した1枚。これまで彼女が歌ってきたファンメイドソングやカバーの流れにも、またこれまでにLantisレーベルが生み出してきた文脈にも通じてくる部分だ。

アンサーソング」「FRONTIER」「アブノーマルガール」はストレートなギターロック、「ステレオアイデンティティ」は凶悪とも言えるエレクトロサウンドと混ざり合い、「Be Myself」は重心低くローサウンドが効いたメタル気味に、「Q」は乾いた音色とギターカッティングで押していくロックンロール。
「アンサーソング」
「FRONTIER」
「TOBI-DERO!」は樋口個人が好むスカパンクを、「たこ焼きロック」はオールディーズなグルーヴ、ロックミュージックの多彩さを前面に出した流れだ。

コロナ禍で自粛期間となった4月に制作を始め、リモートでの音源制作を強いられたというが、そんなことを微塵も感じさせないくらいに力強い楽曲たち。ここ数年にかけてアニソンやゲーソンでも少しずつ「ロックらしい」楽曲が減りつつあったが、まるでどこ吹く風と言わんばかり、ある意味で強気に見えるくらいだ。

ORESAMAの2人によるミドルテンポな「mìmì」とナナヲアカリによる「アブノーマルガール」では「素の樋口楓」の穏やかさと少女性が描かれる。

一方で、みきとPによる「Q」や、今作でサウンドプロデューサーをつとめた光増ハジメやDJ WILDPARTYらが制作した「ステレオアイデンティティ」では「VTuber・樋口楓」の葛藤や不安を表現した。

樋口楓の曲に宿る本人性

「MARBLE」
にじさんじ内で企画された「にじさんじ甲子園」をもとに、樋口自身が作詞した「Victory West!」に続き、先行して発表された最終曲「MARBLE」の2曲で締められる今作。

「涙で滲んだって 転んだって 手を伸ばしたいや 背伸びだって 正解じゃなくたって もう構わない 泥だらけになって 期待大で進んでいける」 「MARBLE」より

作詞家へのリテイクも辞さないほどにこだわった歌詞には、VTuberという存在でイメージされるような無機質さや非人間ぽさとは程遠く、アニメーションルックなビジュアルがもたらす神秘性はここにはない。

あるのは、ロックシンガーのような人間臭さや汗臭さに満ちた赤裸々な姿、そのひたむきさこそ、聴くものにシンパシーを抱かせ、きらびやかな希望のように今作を輝かせているのだ。

彼女は『AIM』発売にあわせたインタビューの中で「二次元でも三次元でもないVTuberって存在だからこそ伝えられることってあると思ってるんです。キャラクターの姿をしていても、私たちにはそれぞれのパーソナリティーがある」と語っていた。 まさしく『AIM』は、樋口楓のパーソナルな部分や「生身の感情」がかたどられた1枚であり、それがゆえに聴く者の心を揺さぶってくるのだ。

こうしてみると、Rain Dropsがキミに歩み寄ろうとし、樋口楓は胸の内を紐解いて「キミとわたしは同じ魂だ」と心を開いているようだ。Rain Dropsはストーリーを援用しつつもリスナーへと近づき、樋口楓は己のパーソナルな部分を音と言葉に込め、リスナーの心を捉えている。

歌う者、聴く者、それぞれが抱える喜怒哀楽を共鳴させ合うような声と言葉が、両作の熱となっているのだ。

年末に振り返りたい、VTuberたちの言葉

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