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Rain Dropsと樋口楓が歌う「生身の感情」 にじさんじ所属の両者が音楽で届けたもの

Rain Dropsと樋口楓が歌う「生身の感情」 にじさんじ所属の両者が音楽で届けたもの

Rain Dropsの『オントロジー』と樋口楓の『AIM』

POPなポイントを3行で

  • にじさんじ所属アーティストによる2枚のアルバム
  • Rain Dropsの『オントロジー』と樋口楓の『AIM』
  • 楽曲に込めた「生身の感情」がリスナーに届いた理由
バーチャルライバーグループ・にじさんじに所属する6人組ユニット・Rain Dropsが、11月25日に2nd ミニアルバム『オントロジー』を、同じくにじさんじ所属の樋口楓が12月16日に1stアルバム『AIM(エイム)』をそれぞれリリースした。

僕は前回、月ノ美兎のデビューシングル『それゆけ!学級委員長』とにじさんじ初のカバーアルバム『Prismatic Colors』を通じて、ライバーたちの人気要因と背景にある文化を紹介した。 その後、年の瀬に相次いで発売されたRain Dropsと樋口楓の2作も、ともにバーチャルYouTuber(VTuber)による音楽シーンに大きな足跡を残している。

今回はRain Dropsと樋口楓が音楽を通じて、どのようにリスナーとつながろうとしていたかを探っていきたい。そのための両者に共通するテーマは「生身の感情」だ。

文:草野虹

“オリコン1位” を冷静に受け止めていたRain Drops

5月に発売したメジャーデビュー作『シナスタジア』が、オリコン週間合算アルバムランキングを含む11部門で1位を獲得したRain Drops。える三枝明那ジョー・力一鈴木勝緑仙童田明治の6名で構成されるにじさんじの音楽ユニットだ。

ユニット結成に至るまで、6人は互いに動画でのコラボ配信も少なかっただけに、ファンにとってはまさに「異色の組み合わせ」だったはずだ。

デビュー作『シナスタジア』が想定以上の大きな反響を呼んだ6人だったが、本人たちはむしろ非常に冷静に、自分たちの立ち位置を見つめ直していたとインタビューで明かしている(外部リンク)。

誰も浮かれることなく今作『オントロジー』の制作へと向かっていた6人。もちろんにじさんじ所属のバーチャルライバーとして日々の配信も行いながら、約半年後の11月に発売となった。
『オントロジー』クロスフェードムービー
制作に携わった作曲家や作詞家に目を移すと、前作よりも彼らの立ち位置がよりはっきりと見えてきそうだ。

前作から引き続いて作詞家として参加した藤林聖子、「歌ってみた」動画のカバーネタとしても大ヒットした「オートファジー」「エバ」を制作しソロアルバムを発表した柊キライ、2021年2月に初アルバムを発表するボカロP・ツミキ

2019年に急逝したwowakaを中心にしたロックバンド・ヒトリエでドラムスを担当していたゆーまお、そして「カゲロウプロジェクト」を代表作にもち、ニコニコ動画発のクリエイターとして影響力を持ち続けているじん──文字通り豪華な面々をそろえている。

リスナーの心の叫び・感情を優しく肯定する

そういった制作陣をそろえた『オントロジー』は、不思議なくらいに聴き入ってしまう魅力がある。今作において重要なのは、歌詞から読み解ける「Rain Dropsがリスナーに投げかけている目線」だ。その目線は、総じて非常に優しく、寄り添うようなものばかりだ。

「辛い、辛い、そうだね 『幸せ』じゃないよね 自分を騙せるくらい上手じゃないしね」
「辛い、辛い、そうだね 生き辛い世界だね 自分の支え方なんて見つからないしね」 1曲目「雨言葉」より

始まりを告げる1曲目「雨言葉」では、こんな優しい表情を感じさせる言葉をリスナーに届けてくれる。ここまで直接的に、会話らしい口調でリスナーに向けた楽曲で始まることに、僕はとても驚かされた。
「雨言葉」
情景鮮やかなストーリーを描いたジョー・力一の作詞曲「ソワレ」と鈴木勝(共作に藤林聖子)による作詞曲「白と嘘」に加え、「ラブヘイト」「ミスティック/マインワルド」「ミュウ」を含めた5曲は、心の暗部をさまざまな言葉で描き出している。
「ミュウ」(covered by 緑仙)
救われたい、傷つきたくない、ゆえに愛されたい。

そういった感情を込めて、6人それぞれに異なった声色は混ざり合っていく。特に「ミュウ」は6人の声と柊キライのディレクションによって、最たるものとして今作一番のカオスを呼び込んでいるのがわかるだろう。

感情に寄り添い、表現者・VTuberとしての存在を証明

グルグルと渦巻いていく感情を抱えて、じんが手がける最終曲「オントロジー」を迎える。じんが得意とするギターロック、印象的な音色とフレージング、6人による彩り豊かなボーカルの厚み。軽やかなロックナンバーでありながらも温かみがある、不思議な感覚をリスナーに与えてくれる1曲だ。

まるで始まりを告げるかのような疾走感。おぼろげながらその不思議な感覚の正体を挙げるなら、そんな言葉が当てはまる。特に1曲目のミディアムバラード「雨言葉」と聞き比べると、その感覚は顕著だ。
「オントロジー」
実際、Rain Dropsのメンバーすらも「『雨言葉』と『オントロジー』の曲順は逆ではないのか?」と感じたという(外部リンク)。

しかしながら、曲の世界として見ると、「雨言葉」で雨の中じっと立ち止まっていた「僕と君」が、「オントロジー」のラストでは雨が上がり出し、青空が浮かぶ中「駆けていく」「歩いていく」「足掻いていく」と動き出す物語となっている。

「雨言葉」では「そして世界は雨音に満ちて 君以外がかすれてみえた」、「オントロジー」は「夕立雲に置いていかれた僕たちは 違う傘の下 明日を眺めている」とそれぞれ始まる。「雨」という言葉、その天候が見せるさまざまな表情を、喜怒哀楽以上に心の底にある複数の感情のメタファーとして使っている。 リスナーが抱くあらゆる生身の感情に寄り添ういくつもの物語を歌いつなぐRain Dropsの『オントロジー』。優しく、否定せず、共感した上で、未来に対する勇気でリスナーを後押しする。こうした表現者としての力は、文字通りアルバムタイトルが意味する彼らの「存在証明」であるのは間違いないだろう。

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