日本のアニメとゲームが、アメリカ黒人社会の少年と世界を繋いだ

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アメリカのジャズプレーヤーが、School Food Punishmentに受けた衝撃

──School Food Punishmentですか!

パトリック 「何だこれ!?」という感じでしたよ。一気に魅了されました。すぐに楽曲の詳細を調べる必要があると感じて、アルバムやシングルで手に入るものは全て聴きました。ただ残念なのは、僕が彼らの存在を知った半年後に解散してしまったことです...。

──パトリックさんからみて、School Food Punishmentの衝撃とはどのようなものだったんでしうか。

パトリック このバンドの楽曲には、僕が音楽で経験していたもの、当時僕が欲しかったもの全てが詰まっていました。高度な和声理論という意味でのジャズの要素も多分に含まれていながら、プログレの要素やウェザー・リポートのようなフュージョンの要素、シンセサウンドも含まれていた。ジャズ、R&B、ロック、J-POPが1つになっていたんです。 パトリック このとき、僕がJ-POPから離れていたのは意味のあることだったんだと思いました。

なぜならその2〜3年の間に、音楽全般のことについてより深く勉強していたからです。その学びのおかげで、それまで聴こえていなかったものが“聴こえる”ようになった。これは僕の音楽人生に何度も起き続けてきたテーマでもあります。音楽についてより学べば学ぶほど、元から好きだった音楽への気付きが増え、どんどん良くなってくるんですよ。とにかく、School Food Punishmentを知った時はものすごく衝撃を受けました。全てが詰まっていたんですよ。

──そこからアニメやゲーム・ミュージック、J-POPを演奏するバンドを結成したいという思いが高まっていったんでしょうか。

パトリック それでも、まだ自分自身で演奏する気にはなれなかったんです。他の人とどういう風に演奏すれば良いのか分からなかったから。その頃はまだ暗中模索の状態だったんです。ちょうどその頃ジョン・ハタミヤ(Jon Hatamiya)というカリフォルニア出身の素晴らしいトロンボーン奏者兼作曲家をリーダーに、大学の友達とバンドをはじめました。

彼の面白かったところは、トラディショナル・ジャズだけでなく、僕の知らなかった西海岸のモダン・ジャズを取り入れた作曲活動をしていたことです。ホルンも入れながら、キーボードやエレキギターも取り入れていた。バンドの中で僕自身にも作曲をするチャンスを与えられたのも大きかったです。それで僕は2曲書いて、そのうちの1曲はアルバムにも収録されました。クリエイティブな作曲方法について探究ができたんです。そして、大学の2年目の冬にJ-Music Ensembleを始める2つめのきっかけになる重要な出会いがありました。
"Tank!" (Cowboy Bebop OP) Cover LIVE @ Liberty City Anime Con 2018 // J-MUSIC Ensemble
──というと?

パトリック 『東のエデン』を観たのは大学1年目の冬だったんですが、2年目にはメガドライブを引っ張り出してきて古いゲームをプレイしたり、Playstation Storeで『ソニックアドベンチャー2』などをダウンロードして遊んでいました。それでたまたま『スーパーハングオン』というレーシングゲームを遊んでみたら、全4曲の中から自分の好きなBGMを選べることがわかった。

1987年のゲームですから、最先端のゲームというわけではないのですが、プレイヤーの没入感を高めるための工夫だったんでしょうね。それで「OUTRIDE A CRISIS」という曲を選んでみたんです。それが人生の中で聴いた曲の中でも、抜群に良い曲だったんです。作曲者の名前は林克洋だったと思います。そのゲームのサントラにとにかくハマってしまって、「SPRINTER」は難しかったので途中で諦めましたけれど、「WINNING RUN」と「OUTRIDE A CRISIS」のソロパートは全てコピーしました。

それで2学期が始まって、学校で組むコンボの課題曲で是非これをやりたいと考えました。アルトサックス、テナーサックス、トロンボーン、ピアノ、ウッドベース、ドラムという編成のために「OUTRIDE A CRISIS」をアレンジしたんです。ジャズバンドの編成で日本の音楽を編曲しようと思ったのは、これが初めてでしたね。

また、同時期に初音ミクを知ったのも大きかったですね。

決定打となったsasakure.ukとPerfume

──ボーカロイド文化を知ったのも同じ頃だったんですね。

パトリック 親友の1人が僕に初音ミクを紹介してくれたんです。彼はサックス奏者でゲームプレイヤーでもあり、日本の音楽にも興味があったので、僕の好みを把握してくれていたんですね。なので、いろんな楽曲を紹介してくれました。『ソードアート・オンライン』OPテーマだったLiSAの「crossing field」を知ったのも彼の紹介でした。

そこからkz(livetune)ryo(supercell)OSTER projectDECO*27といったアーティストの存在を知って、僕自身もボーカロイドについてSNSに投稿したり、友人と情報交換をしていました、その時期に出会った曲が、sasakure.ukの「タイガーランペイジ feat. 鏡音リン」でした。

これが本当に衝撃的で、自分にとって決定打になりましたね。僕が聴いてきたものの中でも一番クレイジーな楽曲でした ──sasakure.ukにはどんなところに惹かれたんでしょうか。

パトリック この曲が決定打になったのは、sasakure.ukがビジュアルとオーディオとストーリーテリング、そして物語の全てを1つにパッケージングしていたからです。

彼自身が全てのMVの絵コンテを描いて、絵も自分で描いている。それを他のアーティストやアニメーターの力を借りてMVにしていますよね。しかも彼のインタビューによれば、まず音楽の前にストーリーとビジュアルを作っていると。これが、まさに僕のやりたかったことだと思ったんです。そのプロセスについては後から知ったんですが。

楽曲そのものも衝撃でしたよ。ブルースもあり、すごいクレイジーなビートやベースライン、ジャズのハーモニーもあって、三連符まであって。全てが詰まっていたんです! こんな音楽は聴いたことがなかった。

僕がこの楽曲を好きなもうひとつの理由は、ジャズ・ミュージシャンが従わないといけない伝統的な規範のようなものから完全に解放されている点です。

──規範ですか。

そう。「これをやらなくちゃいけない。この音はここに置かないといけない」といったね。sasakure.ukのおかげで、その規範を分かった上で違うことをしてみようという踏ん切りが付いたんです。

そこから、その夏はずっとsasakure.ukの音楽を研究していました。その時に学内で集めたメンバーがJ-MUSIC ENSEMBLEの雛形となりました。ただ、その時点ではあくまで学校内のプロジェクトで、プロを目指そうとは思っていませんでした。そして、もう1つ、この時期に一番大事な出会いがありました。

──それはなんでしょう?

パトリック たまたまPerfumeのワールドツアー(Perfume WORLD TOUR 1st)の広告を見つけたんです。僕の周りの友達は早くからPerfumeにハマっていたけれど、僕自身はPerfume自体についてはよく知らなかった。それでPerfumeについて調べて、「Spring of Life」と「Spending all my time」を聴いてみたんです。もう、「これだ!」と(笑)。聴きながら涙を流していて、J-POPグループの中では一番になりました。僕の好きなものが全部組み合わさっていたんです。それで「ポリリズム」をプレイし始めたのがJ-MUSIC ENSEMBLEの始まりですね。
Perfume - Spring of Life
そこから、sasakure.ukやschool food punishmentやPerfumeや菅野よう子の楽曲を探究していった。最初は苦労の連続でしたけどね。

──とても面白いお話でした。最後に一つだけ、ライトな質問をさせてください。パトリックさんが最近ハマっているアニメやゲーム、音楽にはどんなものがありますか?

パトリック 今のところ、僕たちのファンコミュニティで一番人気があるのはペルソナ』の音楽ですね。これから出る『ペルソナ5』のカバーのマスタリング・ミキシングを今やっているんですが、感じを掴むために何度も聴いています。

それ以外だと、最近はボーカロイド音楽にまた戻ってきていますね。ゲームの『初音ミク -Project DIVA-』がすごく好きなんですが新しいボーカロイド音楽を学ぶのにものすごく良いんです。

あとは最近Netflixで『新世紀エヴァンゲリオン』を見直しました。12、3歳の頃に観たんですが、当時は、まったく理解してなかったので。完全にクレイジーな作品でしたよ(笑)。そのほか、『ベルセルク』もオールタイムベストの傑作のひとつですね。『GANTZ』も『ハンター×ハンター』もクレイジーですし、本当にたくさんありますよ。もちろん『ドラゴンボール』は僕のバイブルです。あぁ、あとオリジナルの『ルパン三世』の最初の3シーズンも。

──挙げたらキリがないという感じですね(笑)。

パトリック そうですね。本当に沢山の作品が大好きですよ。このあたりの話題は、あと3時間は話せると思いますよ(笑)。

インタビュー後編:J-POPの音楽的特性を解き明かす

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