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『映像研』×chelmico MV監督 田向潤の「Easy Breezy」ではない制作の裏側

『映像研』×chelmico MV監督 田向潤の「Easy Breezy」ではない制作の裏側

「Easy Breezy」MV監督・田向潤インタビュー

POPなポイントを3行で

  • chelmico「Easy Breezy」MV監督・田向潤インタビュー
  • 3DCGをふんだんに使ったカオスでハイクオリティなMV
  • その撮影方法からMVに秘められた裏テーマまで
破竹の勢いで快進撃を続けるラップユニット・chelmicoが歌うTVアニメ『映像研には手を出すな!』のOPテーマソング「Easy Breezy」。

2人の歯切れのいい軽快なラップが心地いい楽曲だが、chelmicoが出演するMVの完成度も凄まじい。

3DCGがふんだんに使用されたカオスでハイクオリティなMVは、1月中旬の公開からわずか2ヶ月足らずで600万回再生を記録している(記事執筆時)。
chelmico「Easy Breezy」【Official Music Video】
このMVの制作を担当したのはきゃりーぱみゅぱみゅさんさんをはじめ、RIPSLYMEくるりSEKAI NO OWARIなど名だたるアーティストのMVを手がけてきた映像ディレクターの田向潤さん。

素人目にはそのカオスさゆえ、どのように撮影・制作されたのか見当もつかない映像に仕上がっているが、その舞台裏を、田向さんの来歴や彼のクリエイティブにかける思いとともに聞いた。

気鋭映像ディレクター・田向潤

田向潤さん

──まず最初に映像制作をはじめたきっかけを教えて下さい。

田向潤(以下、田向) 学生の時にMTVでいろいろなMVを見て映像に興味を持ち、22歳くらいの時に映像の制作をはじめました。特にThe Chemical Brothersの「Star Guitar」という曲のMVには影響を受けましたね。
The Chemical Brothers - Star Guitar (Official Music Video)
田向 学生時代は独学だったので、クオリティの高いものはつくれませんでした。

卒業してからデザイン会社に入社し、広告のグラフィックデザイナーを経験した後、映像クリエイティブチーム・CAVIARに入社して、そこでプロとしての映像制作のノウハウを学んでいったという流れです。

──そうした流れのなかで影響を受けたジャンルや作品はありますか?

田向 ファミコンソフトやリミテッドアニメーションには影響を受けています。

技術的・リソース的な制限のある表現が、その制限故の魅力を備えているときに美しさを感じます。

──では映像を制作される上で、1番意識されていることは何ですか? また、ご自分にとって転機となった作品はありますか?

田向 映像を制作する際は、「驚きがあること」を常に意識しています。転機になった作品は、独立して最初の作品という点で、きゃりーぱみゅぱみゅさんの「PON PON PON」のMVです。
きゃりーぱみゅぱみゅ - PONPONPON
──現在の制作環境はどのようなものですか?

田向 編集はPremiere、コンポジット(複数の素材を1つに合成すること)はAfter Effects、そのほか必要に応じでAdobeのソフトを使うという感じです。CGはCINEMA4Dを使っています。

──それでは今注目されている、あるいは憧れているクリエイターはいますか?

田向 漫画家の大童澄瞳さん、ゲームクリエイターの小島秀夫さん、作家の高島雄哉さん、翻訳家・作家の青木薫さんの4名です。

大童澄瞳さんは今までにない新しい種類の感動を見せてくれる漫画家さんだと思っています。

『映像研には手を出すな!』では全然泣かせるシーンじゃないのに、主人公たちが楽しそうにクリエイションする姿に泣かされてしまいました。

小島秀夫さんは『メタルギアソリッド』からのファンです。

同作をプレイした当時「これはもはや映画だ」と思いましたが、最新作の『デスストランディング』は、ストーリーを語るメディアとしてゲーム自体を映画とは違うステージに移行させた名作だと思います。

高島雄哉さんは小説『ランドスケープと夏の定理』に驚かされました。 田向 不条理なまでの壮大な設定に、自分の想像力の限界を試され、脳をかき混ぜられるような読書体験をしました。

青木薫さんは以前から数学・物理学など科学系ノンフィクションの翻訳家として認識していたのですが、初の著作『宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論』は非常にエキサイティングでかつ読みやすく、その幅広い才能に感嘆しました。

観測する人間が存在する以上、宇宙は人間に都合よくあるべきだという「人間原理」という考え方は、この上なく知的好奇心を刺激してくれます。

『映像研』で使用された画期的な表現方法

──『映像研には手を出すな!』をご覧になった率直な感想はいかがですか?

田向 今回のMVの依頼をいただいてから初めて『映像研には手を出すな!』を読みましたが、一気に読んで虜になってしまいました。

なんといっても画期的なのは、シームレスに現実から空想の世界に入っていく表現です。普通なら空想の世界に入る瞬間に劇的なエフェクトを描いたり説明をしてしまいそうですが、『映像研』ではそういった表現がまったくありません。

乱暴なまでになんの説明もなく、突然キャラクターがヘルメットをかぶっていたりします。でも読んだ人はおそらくみんな「これは空想の世界に入ったんだな」とわかる。

なにかを想像するのって誰もが自然にやっていると思うんですけど、その意識をしなくても空想の世界に入っていく「あの感じ」を、記憶から優しく掬い出して見せてくれる素晴らしい表現だと思います。

あとは青春マンガによくある「自分には才能があるのかないのか」のような描写がなく、好きなら天才という前提に勇気をもらえます。

同じく湯浅監督によって映像化された『ピンポン』と対照的なのも面白いですね。
TVアニメ「映像研には手を出すな!」PV
田向 アニメに関しては、「素晴らしいアニメーションを描いていくという物語のアニメーション」というメタ的構造が、制作する側としては相当なプレッシャーだったのではと想像してしまいます。

しかしそんなことは意に介していないような、鮮やかで生き生きとしたキャラクターは見ているだけで楽しく、そして電撃3人娘がつくり出していくアニメーションの描写が素晴らしくて感動しました。

空想世界のSEを声優さんの声で入れているのも、映像ならではで見事なアイデアだと思いました。

──“主人公たちがアニメをつくる物語を描くアニメ”というメタ的構造は、確かに制作する側の挑戦ともいえますよね。そんな『映像研には手を出すな!』のアニメを制作しているサイエンスSARUでは、あえて最先端技術とは逆行しているようにも思える映像表現・FLASHを採用しています。田向さんは映像作家としてサイエンスSARUのこのような取り組みについてどう思われますか?

田向 アニメーションに関しては門外漢なので技術的なことはわかりませんが、テクノロジーやそのコストが常に変化していくなかで、適切なツールというのは日々変わっていって当然だと思います。

様式・伝統・常識にとらわれず、常に最善の手段を模索するのは、あらゆる仕事においても重要なことだと思います。

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