連載 | #18 コミックマーケット92

【C92】1万フォロワーでデビュー! →400人で爆死した悲劇の「VRアイドル」の顛末を語る

【C92】1万フォロワーでデビュー! →400人で爆死した悲劇の「VRアイドル」の顛末を語る
【C92】1万フォロワーでデビュー! →400人で爆死した悲劇の「VRアイドル」の顛末を語る

岩本町芸能社/(左から)白藤環、鈴木あんず

2017年8月11日から13日にかけて開催された「コミックマーケット92」(夏コミ/C92)。のべ50万人にも及ぶ人々、3万を超えるサークルが参加し例年通りの盛況ぶりをみせていた。

そんな中、とあるブログ(外部リンク)のエントリーをきっかけに、「夏コミ」終了後に一層注目を集め出た企業ブースがある。それが、岩本町芸能社だ。

なぜか? 開幕直前まで「ブース名:プロジェクト名未定」と掲載されていたうえ、開始の前日になってようやくオープンした公式サイトにも「アイドルになりたいと思った。」という意味深なキャッチコピーと、メインキャラクターと思しき少女のキービジュアルが表示されるのみで、それ以外の情報は一切ない。

公式Twitterを確認すれば、かろうじて「VRアイドル鈴木あんず」という記述があり、ようやくイメージの断片がつかめるのみ。 にもかかわらず、コミケ期間中に「公式Twitterアカウントのフォロワー1万人突破でデビュー」という大風呂敷を広げ、あえなく失敗。期間中に集まったフォロワー数は400人と、目標には果てしなく遠い数値だった。

特に大きく注目を集める決め手となったのは、目標達成が絶望的になったコミケ初日の深夜、Twitterで繰り広げられたやりとりだった。なんと、公式アカウントの中の人が、VRアイドルのマネージャー個人のアカウントに対して今回の失態について説明を求め、マネージャーは困惑しながらも経緯を語るという珍事が起きた。

しかし、運営としての不備に指摘が集まる一方、VRアプリ「cluster.」と連動した試みとして注目を集めたことも事実で、「このまま終わってしまうのはもったいない」という声もある。

そこで、岩本町芸能社に、発端から経緯までを直撃。どういった経緯でコミケに出展することになったのか、デビューを果たせなかったアイドルたちに今後どのような未来が待っているのか。

岩本町芸能社のマネージャー・丸茂さんの口から語られる。

取材・文:ふじきりょうすけ

1日最大40人、直接話せる「VRアイドル」

当初「プロジェクト名未定」としか記述されていなかった岩本町芸能社。出展を決めた際に、具体的な展示内容は決まっていたのだろうか? まずはそんな素朴な疑問からぶつけてみた。

マネージャーの丸茂さんによると、「鈴木あんずのお披露目をすることは決まっていた」のだそうだ。ただ、それがどのような形となるのかについては、決まっていなかったという。

(左から)鈴木あんず、白藤環

開幕後の同ブースでは、鈴木あんず、白藤環の2人のアイドル研究生たちと中継がつながったVR空間で2人と会話ができる仕組みを提供(※1)。

ライブやイベントを通して出会う一般的なアイドルではなく、VRを通して出会う新たなアイドルとのコミュニケーションの形こそが「VRアイドル」だという。

また、この「VRアイドル」は、立ち振る舞いは人そのもの。TVアニメ『gdgd妖精s』『魔法少女?なりあ☆がーるず』のように、一見するとCGキャラクターだが、見ていくうちに人としての存在感が増していくように感じられる。

ちなみに、鈴木あんずと白藤環の2人はVR空間で会えるアイドルだ。「中の人」という概念は存在しない。

実際に来場した方はヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着して、鈴木あんず、白藤環の2人と会話をすることができた。充実した内容には好意的な反応も見られる。 一方で、一人につき5〜10分も会話できたという丁寧すぎる対応は「フォロワー数1万人」を目標にしているにもかかわらず、1日最大で40人ほどしか会話できないという悲劇的な試算を生んでいた。

高い目標設定についても自覚していたと丸茂さんは語る。「非常に難しい目標設定だと感じていました。ただデビューすれば、さらに多くの方々から応援してもらえるアイドルにならなくてはなりません。そういう意味では、期間の短さはあれど、いずれ達成しなくてはならない目標だと思っております」 この大きな目標を達成するために採用されたのが、5月に日本版がリリースされたばかりの「cluster.」と呼ばれるプラットフォームだった(関連記事)。一つの部屋を生成し、空間を共有できることが、その最大の特徴だ。

だが、2人のアイドルしかいない空間に多人数が接続できてしまう状況は、待ち時間が発生するため運営が難しいようにも思える。

それについて「圧倒的な同時接続数に耐えうる「cluster.」は世界トップレベルの技術があります。あんずと環と会話ができるお客様は1名ずつしかできませんが、多くの方々にコミケ会場外からも御覧いただけるシステムとして、「cluster.」がもっとも皆さまと体験を共有できるもの」だと考えを述べた。 つまり、現場で体験することができるのは40人ほどしかいないが、1万人のフォロワーを集めることを前提とした場合、より多くの人に届きうるプラットフォームとして「cluster.」が選ばれた。

事実、同サービスの黎明期、2016年にはTVアニメ『ゼーガペイン』の応援上映も行われ成功を収め、多人数が同時に体験できるコンテンツとは優れた親和性を発揮することが証明されている。

また最終日には、コミケ来場者以外も「VRアイドル」を見に、仮想空間の部屋に集まる人たちの姿が増えだしていた。それがたとえ、当初の想定に遠く及ばない人数だとしてもだ。

「cluster.」を利用することで、対アイドルとの個別のコミュニケーションだけではなく、それを視聴している観客の反応をも体験として楽しんだ参加者がいたことは、ハッシュタグなどをさかのぼればわかる。

※1 白藤環に関しては、当初お披露目の予定はなかった。鈴木あんずのひたむきさに心を打たれて、本人の強い希望で2日目からの参加となったそうだ

コミケ参加への経緯について

どれほど多くの来場者が会場に訪れていようと、有名企業、人気サークルが立ち並ぶ「夏コミ」という戦場において、無名のブースに人を集めることがいかに困難か。 「多くの人が集まるという理由で「コミケ」に目を向けました」と語るが、プロジェクト担当者に「コミケ」参加者もおり、全くの知識がない中での参加というわけではなかったようだ。

しかし、出展となれば話は全く違ったのだろう。「事前告知が重要なことも正直わからなかった」というなかで企画は進行していた。

サイトの公開が直前となったことについても、あえてではなくやむない事情であったとし、「コミケ」までの道のりについてこう語った。「HMDを通して、アイドル研究生と中継をつなぐ技術の検証に時間を使っていました。アイドルの2人はまだまだ未熟なので、お客様と接するための特訓もしていました」。

だが閉幕後、未熟だと思われたのはアイドルではなかった。2日目終了時点で300人程度のフォロワーしかいないことに当惑し、公式Twitterと丸茂さんが口論を始めたからだ。一方で、それは話題づくりの一環であり、マーケティング手法だと指摘する声もあがる。 事実はどうだったのか? 「結果的に話題にはなりましたが、私はとてもヒヤヒヤしておりました。見苦しいという当然の指摘を受け、すでに公式アカウントの方は、当該のやりとりを削除しております」

その言葉通り、公式のツイートは削除されていたが、丸茂さんのアカウントからは口論の断片を読み取ることができる。 なお、今回の「夏コミ」出展にかけた投資金額については「大きな賭けだったことは事実です」と答えるにとどまった。

今後の展開は?

数々の失敗があったが、参加者からは好意的な意見も上がっている。そして、これらの騒動が話題となったことで「コミケ」終了後のタイミングから「VRアイドル」に興味を持った人も多い。 「夏コミの3日間、フォロワー1万人突破でデビュー」を公約に掲げた岩本町芸能社だが、目標達成には至らなかった。

プロジェクトの今後についても聞くと「スポンサーと現在交渉中です。鈴木あんずと白藤環も、とても良い子たちなので、絶対にデビューさせたいと思います」と力強く答えた。

しかし、いまだ公式サイトやTwitterにもほとんど情報がない。"デビュー"というと聞こえはいいが、彼女たちは何を目指す存在なのだろう。2次元発のアイドルで大成功を収めた「アイドルマスター」「ラブライブ!」などの作品は、成長した未来を思い描かせるようなストーリーがあった。アイドルに共感し、応援する上で重要な要素のひとつだ。

デビュー後には「CDの発売やライブも行いたい」というが、1万人のフォロワーを達成していた場合の発表について聞くと「決定事項ではないため、公表できません」と語る。

このプロジェクトが、どのようにファンにストーリーを見せていくつもりなのかはまだわからない。それでも、運営そのものへアドバイスをする人たちも現れはじめている。いくつかは採用もされているようだ。

Twitterアカウント名が「岩本町芸能社info」では堅すぎる。
鈴木あんずと白藤環のそれぞれのTwitterを開設してほしい。
公式ホームページの情報を充実させてほしい。
全国でお披露目会をやってほしい。 Twitterに寄せられた意見

今後の展開を熱望する声は確かに存在する。コミケ終了時には400人だったフォロワーも現在は4500人まで上昇。岩本町芸能社の今後に期待したい。

夏コミの思い出を振り返ろう

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