コスプレへの注目度の高まりに伴い、撮影する側であるカメラマンにもスポットが当たりつつある。
サイトウ零央さんは、自らコスプレ写真展「CTY(Cloth To You)」を企画し、早くから作品としてのコスプレ写真を撮り始めたカメラマンとして知られている。 「コスプレ写真界の神」「尻王」などの異名を持つサイトウさんは、今年1月に刊行された写真誌『フォトテクニックデジタル』でも、人気コスプレイヤー・えなこさんの表紙や巻頭グラビアを担当。今や、商業誌の第一線でも活躍している。
KAI-YOU.netでは、C92にサークル参加していたサイトウ零央さんにインタビュー。現在「カメラマン」としての仕事を断っている理由から、写真を撮るではなく「魅せる」ことへの熱すぎる情熱について、お話をうかがった。
「写真を撮るより、撮ったものを演出したい」
──そもそもカメラマンとしての活動を始めたきっかけは何だったんですか?サイトウ零央 最初はゲーム会社に就職して、次にグラフィックデザイナーとしてデザイン事務所につとめていたんです。そのとき、グラフィックつくる上で写真が必要になったんですけど、カメラマンが撮ってきた写真にどうしても納得できなくて。
お尻フェチの自分を満足させてくれなかったんですよ。だから、自分で撮り始めたら褒められて、それからですね。2002年頃からカメラマンの仕事をいただけるようになりました。
──あくまでもグラフィックデザインをつくる上で、写真が必要だったということですね。
サイトウ零央 本業としては、雑誌の装丁やWebサイトのデザインが中心です。例えば、タレントの写真集を出版するときに、対象の撮り方や誌面のデザインを決める、いわば本の制作全体を考えるほうが好きなんですよ。 そういう意味で、カメラマンの仕事は写真を撮るだけで終わってしまうので、基本的にお断りしているんです。
コスプレの個別撮影の依頼も、以前は結構いただいてたんですけど、全部断ってたら浸透したみたいで、それ以降ほとんどこなくなりました。
──肩書きとしてはグラフィックデザイナー兼カメラマンですか?
サイトウ零央 全体の魅せ方にこだわるという意味で、ビジュアリストを自称してます(笑)。誰にも認識されてないので、ひたすら自分でさけんでるんですけど。
──写真を撮るなら、最終的な魅せ方までオーガナイズしたいと? サイトウ零央 そうですね。写真を撮るより、撮ったものを演出したい。アウトプットは必ずしも写真である必要はなくて、写真を使って自分の世界を表現して、本だったりWebだったり、何らかのメディアにアウトプットしたいんです。
カメラマンとしては、自分で撮りたい人を見つけて撮ることが多くなってますね。
「健全とケシカランの共存」がテーマのえなこさん写真集
──そういった方向性の中でも、カメラマンとして着実にキャリアアップされています。その理由は何だと思いますか?サイトウ零央 もともと表に出るのが嫌いで、裏方が好きなんです。担当した作品が世に出たとしても、「僕がやりました」とは言わずに、ニヤニヤするだけ(笑)。
仕事によっては守秘義務が厳しかったりするじゃないですか。個人的には、そういう部分が「この人ならなんでも任せられる」と評価されて、結構デリケートな仕事をもらえるようになったんだと思います。
ありがたいことに、コスプレイヤーさんからも信用されているみたいで、僕の提案を受け入れてくれる機会が増えています。実力が認められることで、自分の世界を表現できるフィールドが広がっていくのはうれしいですね。
──C92でコスプレイヤーのえなこさんが頒布した写真集『健全育成』も、サイトウさんからの提案ですか?
サイトウ零央 本来はすべて自分でプロデュースする彼女から、「夏コミで出す写真集を全部お任せしたい」と依頼されたのがうれしくて、僕から提案させてもらいました。僕と嗜好が同じ変態的な衣装さんが居て、その人にデザインしてもらって。
「健全とケシカランの共存」をコンセプトに、清楚な制服かと思いきや脱いだらハーネスだらけだったり、スカートを開くと亀甲縛りだったり、結構きわどい写真もありますよ。コレとか……。明日は東7ホール あ-20a『えなこみゅ』で
— えなこ (@enako_cos) 2017年8月10日
健全育成のナースワンピース衣装を着てお待ちしております(๑˃̵ᴗ˂̵)https://t.co/5eUklH7jZi pic.twitter.com/A5w3EXPVPF
──おぉ、コレは……確かにきわどいですね。 サイトウ零央 ケシカランものを健全に撮りたいと思ったんです。具体的には、NHKだったらギリギリアウトくらいのレベル(笑)。
──制作の過程で何か気づいたことはありますか?
サイトウ零央 やっぱり、えなこさんはすごいですね。作品のテーマに合わせた身体づくりができるし、自分の立ち位置を保った状態でキャラクターになりきれる。なおかつ、普段は自分で編集やデザインも全部やっているって、簡単なことじゃないですよ。
今回の撮影でも、フィッティング(衣装合わせ)の前後でお尻が3〜4ミリほど高くなってて、きっとトレーニングしたんだろうなと。
「この足は、エヴァのマリの足だ!」
──最近ではコスプレ写真が作品になりつつあり、サイトウさんのように魅せ方も含めてこだわる人が増えています。コスプレ写真を撮るときに、一番意識していることは何ですか?サイトウ零央 作品と同じライティングですね。ただ、自分としてはコスプレというよりも、モデル本人=キャラクターだと考えて撮影しているんです。
「このキャラクターだったらこの人!」と思った人に声をかけたうえで、作品の世界を完全に再現したいんです。
例えば『バイオハザード』だと、走ってるときのジルのお尻がどんなシーンでも光ってて、めちゃくちゃいいんですよ。あれはゲームの中だからできているライティングで、現実でそれを表現するにはお尻を照らす光源が絶対に必要。 すると、被写体の下から尻にライトを当てないといけない。なおかつ、カメラの画角にライトが写り込んではいけないので、相当細かい調整をしました。
光るという意味では、『攻殻機動隊』の素子の股間もそうです。それを実現するためには、股間に向けて光を当てないといけない、とか。 ──そこまで苦心して作品の再現度にこだわられていたんですね。どちらかというと、モデルより作品の世界観を重視しているんですか?
サイトウ零央 まずは世界観ありきですけど、そのためにモデルの存在が不可欠なのは間違いありません。自分が納得する人を見つけるのはすごく大変だけど、醍醐味でもある。
だからこそ、たまたまそういう人を見つけたら、つい声をかけてしまう。以前も、コンビニで見かけて「この足はエヴァのマリの足だ!」(※)と感じた人に、その場でお願いしたんです。
(※)『エヴァンゲリオン』の真希波・マリ・イラストリアス
名刺を渡して作品集を見せて、30分くらい説得した結果「いいですよ」って。作品のことは全然知らない人でしたけどね(笑)。
──すごい、情熱ですね。
サイトウ零央 基本的に自分の撮りたい作品でしか撮らないので。その分こだわりは強いと思います。 C85で頒布した、TVアニメ『惡の華』の聖地巡礼読本『旅の栞』の撮影では、舞台のモチーフになった群馬まで行きました。有名なモデルに何人も参加してもらいましたが、モデルの顔は一切出してない。
劇中で登場したシーンと同じ日に同じ景色を撮影するために、1年に一度は撮影に行って、ロケハン含めて10回以上通って3年かけてつくりました。
誰にも言ったことがないので、買ってくれた人もまったく知らないとは思いますけど(笑)。そりゃ同じ天気に出会うまで通うって何回でも群馬#惡の華 pic.twitter.com/4CYyzi5Sze
— サイトウ零央@東7-く07b (@lewograph) 2017年6月8日
──本の中で説明されてないんですか?
サイトウ零央 書いてないです! 正直、自分にしか表現できない世界がつくれるなら、伝わらなくていいと思っています。
もっと言うと赤字でもいい。この本は定価2,000円なんですけど、原価は3,000円かかってます。1冊売るごとに、1,000円の赤字が出るという。
要するに、つくたいものをひたすらつくってる勢、ということです。
技術の向上だけでは表現できない自分の世界
──いまやコスプレは、コミケの目玉といえるほど盛り上がっていて、それに伴い、撮影者であるカメコの中から有名人が生まれつつあります。サイトウさんはコミケで撮影したりしないんですか?サイトウ零央 10年くらい前に、コミケで理想の『ベヨネッタ』を探したことはありましたけど、それ以降はコミケ以外のイベントにも行ってないですね。サークル参加してるだけ。
演出やアウトプットの仕方に情熱を注ぐ僕みたいなタイプと違って、カメコと呼ばれる人は、「女の子をかわいく撮りたい」という願望が強いんだと思います。同じカメラマンでも、動機やジャンルが違うような気がします。
──カメコが注目される背景には、技術面での向上があると思いますか?
サイトウ零央 その影響は大きいかもしれないですね。今日もほかのブースの写真を見て、「すごい!」と感じることが何度もありました。
実際、ハウツーに関する情報が入手しやすくなってますし、カメラも高性能。いいレンズをつかって、Lightroom(ライトルーム ※Adobeが提供する写真編集アプリ)でレタッチの際にプリセットを当てれば、それなりにクオリティの高い写真になります。
ただ、技術が向上しやすくなったとはいえ、構図をはじめ、美術的に評価の高い作品は少ないかなと。
自分にしかつくれない世界や自分の生き方を表現するのって、技術だけでは難しいと思います。だからといって、何が必要かと聞かれると、何も言えないんですよ。それはもう、その人にしかできないことなので。
──サイトウさんとっては、作品の世界を完全に再現するというのが、自分だけの表現ということですか?
サイトウ零央 そうだったらいいですね。あとはお尻!
──今日のお話で、サイトウさんが相当なお尻好きということがわかりました。
サイトウ零央 小さくても大きくても、むしろたれてたって、しまったお尻なら大好きです。かたちがいいのはもちろん、ちゃんと鍛えているのが伝わってくる、アスリートのようなお尻が最高ですね。
──ありがとうございます。最後に、コスプレ写真に限らず、今後、制作してみたい作品はありますか?
サイトウ零央 実は冬コミの新刊として、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』(※)のコスプレ写真集を準備しています。最近、A2を完璧に表現できる人を見つけたので、今は2Bさんたちも含めた皆でアレコレ妄想しています。
※『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』:スクウェア・エニックスから発売されたアクションRPG。2BとA2はともに、同作に登場するキャラクター。
もうひとつ、個人的に大好きな九龍城(九龍城砦)(※)をメインにした写真集も制作中です。九龍城はCGで再現して、グリーンバックで撮影したモデルを、龍津路をはじめとする有名なストリートに置いてみたい。
そのために、文献を読み漁ったり、自分で地図をつくったりしながら、3Dでモデリングしています。
※九龍城(九龍城砦):香港・九龍の九龍城地区に造られた城塞。その跡地に建てられた巨大なスラム街も同様の名で呼ばれる。本稿では後者を指す。
──楽しみにしています!
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コミケはまだまだ終わらない
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連載
8月11日(金)から8月13日(日)まで開催されている、世界最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット92」(C92)を特集! 企業ブースや同人サークル、コスプレまで、様々な角度から真冬の風物詩を取材していきます。
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