芥川賞、直木賞受賞作が決定! 岩波書店の初受賞で、書店員が頭を悩ませている理由

芥川賞、直木賞受賞作が決定! 岩波書店の初受賞で、書店員が頭を悩ませている理由
芥川賞、直木賞受賞作が決定! 岩波書店の初受賞で、書店員が頭を悩ませている理由

佐藤正午さん『月の満ち欠け』(岩波書店)

平成29年上半期の『第157回芥川龍之介賞』および『第157回直木三十五賞』の受賞作が発表された。

芥川龍之介賞は沼田真佑さん『影裏』(文學界5月号)、直木三十五賞は佐藤正午さん『月の満ち欠け』(岩波書店)となった。

共に初受賞という2人の受賞、そしてデビュー34年で選出されたベテラン・佐藤正午さんの経歴などが続々と報道されているが、実はもう一つの「初受賞」が存在する。

それが、岩波書店の刊行する小説作品が初の直木賞受賞という事実だ(芥川賞も受賞作無し)。

1913年に創業され、100年以上の歴史を誇る岩波書店。よほどの本好きでなければ出版社に着目することもそうないだろうが、『広辞苑』の出版社と聞けばピンと来る人も多いはず。

しかし、この岩波書店の受賞で頭を悩ませているだろう人たちが存在する。それは書店員だ。なぜか?

岩波書店の採用する、他の出版社とは異なる配本制度

芥川賞・直木賞は、文藝春秋が主催する文学賞で、数ある文学賞の中でも高い知名度を誇るため、書店にとって、1年に2回、世間の注目が集まる重要な行事。

毎回、賞のノミネート作品はもちろん、受賞作の発表後は、報道を目にして書店を訪れる人を見込んで各書店は出版社へ追加の注文を行う。

ただ、岩波書店は、返本を受け付けない買い切り制度を採用している書店である、というのが他の出版社と異なる点だ。

買い切り制度って何?

出版社は通常「委託制度」を採用していて、書店に販売を委託し、書店は販売した分だけその手数料を利益として得ることができる。売れ残れば返本することができるため、書店にとっては損の出ない取引方法だ。

「買い切り制度」とは、委託ではなく、書店が出版社から書籍を少しだけ安い金額で買い取り、定価で販売して初めてその差分が利益となる、という仕組み。

特定の専門分野を得意とする出版社において、この「注文買い切り制度」を採用しているところはいくつか存在する。しかし、小説なども手がける総合出版社にあって買い切り制度を採用している例は珍しく、それゆえに岩波書店の買い切り制度は、書店員はもちろん、本好きの間では知られている話だ。

岩波書店への注文には、書店員の目利きが試される

この委託制度と買い切り制度は、どちらが良いとも悪いとも言えず、一長一短だ。

買い切りの場合、一旦注文してしまえば売り切ってしまわないとお店の損害になるため、岩波書店の書籍を豊富に取り扱っている書店は多くない。

ただ、委託制度の場合、書店からの返本が自由なため、いつどれだけの本が返品されるか出版社側も把握できず、大型書店から大量発注されて手元に在庫がなく、小さな書店からの注文に応えられない、ということも起こりかねない。

とはいえ、買い切りの書籍を過剰発注して売れ残れば打撃だが、読者のニーズに応えるために「読者が欲しい本(売れる本)を在庫として持っておくこと」もお店としては当然必要で、書店員にとっては悩ましい。

逆に、書店員の目利きが物を言うため、岩波書店が誇る骨太なシリーズ「岩波文庫」などを取り揃えてある本屋は本好きの間では一目置かれる、ということもある。

これをもって、「岩波文庫を充実して取り揃えている本屋は良い本屋だ」という意見も一部には存在し、この辺りの話はちょうど6月25日放送の林修さんによる情報番組「初耳学」の2時間スペシャルでも触れられたばかり。 もしも『月の満ち欠け』についてもこれまで同様買い切り制度となっているとすれば、『第157回直木三十五賞』を受賞した同書をこれからどれだけ注文しようか、今まさに書店員は頭を悩ませているところだろう。

これから書店で『月の満ち欠け』を目にしたら、そういった本屋事情に思いを馳せながら是非手に取ってみるのも面白いかもしれない。

追記:『月の満ち欠け』は返条付き出荷

『月の満ち欠け』については、岩波書店では「返条付き出荷」となっていることが報じられた(外部リンク)。

「返条付き出荷」とは、つまり「返品条件付き」のことで、一定期間売れ残ったものは返品可となる。買い切りを基本としている岩波書店にあって、異例の対応となった。

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