2017年4月13日、Mastodon(マストドン)が日本のインターネットに本格的に流入してからというもの、これまでのTwitterで起こった流行がわずか数日に凝縮されて、音速で目の前を通り過ぎていったように感じる。
(マストドンとは、国内外で大きなムーブメントを生んでいる分散型SNSのこと。
インターネット特有の独特な一体感が高まり、見知らぬユーザー同士が一喜一憂する“あの空気”に、筆者もどっぷりとハマってしまった。
そんなマストドン旋風吹きやまぬ中で4月25日に開催されたピクシブ主催のイベント「pixiv night #4『Mastodon/Pawooの運用&開発技術』」の参加レポートを踏まえて、マストドンの未来を考察してみたい。
取材・文:飯寄雄麻 編集:新見直
最初のスピーカーは、リードエンジニアの清水智雄氏(https://pawoo.net/@norio)。ピクシブによるインスタンス「Pawoo.net」のプロダクトマネージャーで、いわば「ピクシブでマストドンをやろう」と提案した「Pawoo.net」の産みの親だ。 清水氏は、同じSNSであるTwitterとマストドンの構造において大きく異なる点として、まず、マストドンは、脱中央集権の分散型SNSだということ。そして、フォローしていなくても登録したインスタンスのユーザー全ての投稿が閲覧できる「ローカルタイムライン」と、他のインスタンスを横断してユーザーの投稿を見ることができる「連合タイムライン」が存在していることだと指摘する。
マストドンは、そのSNSの構造自体をオープンソースで配布しており、インスタンス(サーバー)を誰でも自由に立ち上げることができる仕組みだ。
現状は、代表的ないくつかのインスタンス(筆者はメジャーインスタンスと呼んでいる)、「mstdn.jp」や「Pawoo.net」、「friends.nico」「mastodon.cloud」などを選んで参加するユーザーが大半かもしれないが、本来、インスタンスごとにルールや特性は異なり、それに共感して参加することでコミュニケーションが生まれることがマストドンの真の思想ではないかと清水氏は言う。
Twitterを始めたばかりの頃を思い出してみてほしい。誰かをフォローしないとタイムラインには何の情報も流れてこない、何かをつぶやいても誰もその投稿を見てくれない。
しかしマストドンは、インスタンスに入るだけでローカルタイムラインの情報は流れていて、自分の発言も初めから誰かに見てもらえるという、ちょっとした構造の違いでTwitterとは異なる大きなコミュニケーションを生み出しているのだ。
マストドンでは、インスタンスへと参加した時点で既にコミュニケーションは始まっており、共通のコンテクスト(文脈)を持ち、インスタンスごとの特徴に寄り添った人が集まることで、単なる一体感を超えて“家族にも似た団結力のあるコミュニケーション”が生まれている。それが、これほどまでに多くのユーザーを虜にしているマストドンの魅力ではないかと筆者は考える。
歩行者天国といえば、よく休日に開催されていて、大道芸やパフォーマンスなどがあらゆるところで行われている。フラッと遊びに来た人でも、ご近所さんや友だちとバッタリ出会って立ち話をするだけで楽しいものだ。
歩行者天国の中では、自分がパフォーマンスをすれば誰かに見てもらえる、見つけてもらえる。
嗜好性の似通ったユーザーが集まる“街”すなわちインスタンスの中では、興味のそそるコンテンツでありさえすれば、ローカルタイムラインは見つけやすい場所で、見つけられやすい場所なのだと清水氏は話す。
少し話は変わるが、若者文化というのはいつも場所と人に紐付いて生まれてきた。戦後から60年代、70年代は若者の中心地は新宿で、ヒッピー文化や学生運動なども盛んに行われていた。
80年代にはその中心地が原宿へと移り、それこそ「ホコ天」という名で歩行者天国の文化が歴史に刻まれ、今の「カワイイ」カルチャーへと移行していったのだ。さらに90年以降は、「渋谷系」という街の名前をそのものを冠したカルチャーを経て、秋葉原でのアイドル文化や萌え文化といった変遷をたどってきた。
清水氏は、秋葉原以降の若者文化が生まれる場所は全てWebへと移動していると考えており、場所に根付く若者文化を、“場所としてのWeb”でも生み出していきたいと以前から思っていた。
“場所としてのWeb”は既にサービスとして多数存在しているが、そのコンテンツはイラストだったり動画だったり音楽だったりテキストだったりと、形式が異なる。
マストドンは、コンテンツの形に縛られることなく、より純粋な場所をWebで提供することができるため、そこに集まる人の手によって文化が形成されるのではないか。
そういった新しい文化が生まれるプラットフォームになりうる可能性をマストドンに感じた清水氏の、「これはもうやるしかない」といった個人的な勢いが「Pawoo.net」を生み出したのである。 ピクシブ株式会社としても、「創作活動を支える」というミッション・ステートメントを掲げており、これまでイラストを学び、発表・交流する場などをテーマにしたサービスも開発してきた。
かねてから“活動の場”をサポートしたいという課題を抱えていたピクシブによるPawoo.netの立ち上げは、それを満たすことができるかもしれない。そうした判断のもと、会社としても力を入れて運用していく方針で進めているということだ。
(マストドンとは、国内外で大きなムーブメントを生んでいる分散型SNSのこと。
その概要や基本的な使い方については以下記事などを参照してほしい
)
国内企業では最速で「Pawoo.net」(外部リンク)を立ち上げマストドンへ参入し話題となった、イラストSNS「pixiv」を運営するピクシブ株式会社。そのインスタンスを世界最大規模へと成長させるだけでなく、わずか10日足らずでAndroidアプリをリリースしてしまう(関連記事)など、マストドンにまつわる様々なニュースやドラマ、事件を起こした。インターネット特有の独特な一体感が高まり、見知らぬユーザー同士が一喜一憂する“あの空気”に、筆者もどっぷりとハマってしまった。
そんなマストドン旋風吹きやまぬ中で4月25日に開催されたピクシブ主催のイベント「pixiv night #4『Mastodon/Pawooの運用&開発技術』」の参加レポートを踏まえて、マストドンの未来を考察してみたい。
取材・文:飯寄雄麻 編集:新見直
マストドンの仕組みとその面白さ
pixiv nightは、ピクシブがエンジニア向けに開催しているイベントだ。マストドンをテーマにした今回は、定員数の3倍を上回る申込みが殺到し、会場にはインスタンスの立ち上げや運用に熱心な技術者が多数集まった。最初のスピーカーは、リードエンジニアの清水智雄氏(https://pawoo.net/@norio)。ピクシブによるインスタンス「Pawoo.net」のプロダクトマネージャーで、いわば「ピクシブでマストドンをやろう」と提案した「Pawoo.net」の産みの親だ。 清水氏は、同じSNSであるTwitterとマストドンの構造において大きく異なる点として、まず、マストドンは、脱中央集権の分散型SNSだということ。そして、フォローしていなくても登録したインスタンスのユーザー全ての投稿が閲覧できる「ローカルタイムライン」と、他のインスタンスを横断してユーザーの投稿を見ることができる「連合タイムライン」が存在していることだと指摘する。
マストドンは、そのSNSの構造自体をオープンソースで配布しており、インスタンス(サーバー)を誰でも自由に立ち上げることができる仕組みだ。
現状は、代表的ないくつかのインスタンス(筆者はメジャーインスタンスと呼んでいる)、「mstdn.jp」や「Pawoo.net」、「friends.nico」「mastodon.cloud」などを選んで参加するユーザーが大半かもしれないが、本来、インスタンスごとにルールや特性は異なり、それに共感して参加することでコミュニケーションが生まれることがマストドンの真の思想ではないかと清水氏は言う。
Twitterを始めたばかりの頃を思い出してみてほしい。誰かをフォローしないとタイムラインには何の情報も流れてこない、何かをつぶやいても誰もその投稿を見てくれない。
しかしマストドンは、インスタンスに入るだけでローカルタイムラインの情報は流れていて、自分の発言も初めから誰かに見てもらえるという、ちょっとした構造の違いでTwitterとは異なる大きなコミュニケーションを生み出しているのだ。
マストドンでは、インスタンスへと参加した時点で既にコミュニケーションは始まっており、共通のコンテクスト(文脈)を持ち、インスタンスごとの特徴に寄り添った人が集まることで、単なる一体感を超えて“家族にも似た団結力のあるコミュニケーション”が生まれている。それが、これほどまでに多くのユーザーを虜にしているマストドンの魅力ではないかと筆者は考える。
場所としてのマストドンが機能する時、そこには文化が生まれる
続けて清水氏は、大規模なインスタンスは新宿や渋谷、秋葉原といった“街”に似ているという見解を語る。言うならば、ローカルタイムラインは、そんな街の繁華街で行われている、歩行者天国を見ている感覚に近いというのだ。歩行者天国といえば、よく休日に開催されていて、大道芸やパフォーマンスなどがあらゆるところで行われている。フラッと遊びに来た人でも、ご近所さんや友だちとバッタリ出会って立ち話をするだけで楽しいものだ。
歩行者天国の中では、自分がパフォーマンスをすれば誰かに見てもらえる、見つけてもらえる。
嗜好性の似通ったユーザーが集まる“街”すなわちインスタンスの中では、興味のそそるコンテンツでありさえすれば、ローカルタイムラインは見つけやすい場所で、見つけられやすい場所なのだと清水氏は話す。
少し話は変わるが、若者文化というのはいつも場所と人に紐付いて生まれてきた。戦後から60年代、70年代は若者の中心地は新宿で、ヒッピー文化や学生運動なども盛んに行われていた。
80年代にはその中心地が原宿へと移り、それこそ「ホコ天」という名で歩行者天国の文化が歴史に刻まれ、今の「カワイイ」カルチャーへと移行していったのだ。さらに90年以降は、「渋谷系」という街の名前をそのものを冠したカルチャーを経て、秋葉原でのアイドル文化や萌え文化といった変遷をたどってきた。
清水氏は、秋葉原以降の若者文化が生まれる場所は全てWebへと移動していると考えており、場所に根付く若者文化を、“場所としてのWeb”でも生み出していきたいと以前から思っていた。
“場所としてのWeb”は既にサービスとして多数存在しているが、そのコンテンツはイラストだったり動画だったり音楽だったりテキストだったりと、形式が異なる。
マストドンは、コンテンツの形に縛られることなく、より純粋な場所をWebで提供することができるため、そこに集まる人の手によって文化が形成されるのではないか。
そういった新しい文化が生まれるプラットフォームになりうる可能性をマストドンに感じた清水氏の、「これはもうやるしかない」といった個人的な勢いが「Pawoo.net」を生み出したのである。 ピクシブ株式会社としても、「創作活動を支える」というミッション・ステートメントを掲げており、これまでイラストを学び、発表・交流する場などをテーマにしたサービスも開発してきた。
かねてから“活動の場”をサポートしたいという課題を抱えていたピクシブによるPawoo.netの立ち上げは、それを満たすことができるかもしれない。そうした判断のもと、会社としても力を入れて運用していく方針で進めているということだ。
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飯寄雄麻
ディレクター
87年生まれ、静岡出身。
広告代理店を経てフリーランス転向後はLoftworkや2.5Dでディレクターとして携わる。現在で、プロデューサーとしてデザインコンサルティングファーム・THINKRに所属。LIVE CREATIONをテーマにインタラクティブな映像体験やテクノロジー、メディアなど多岐に渡る分野を得意とし、コンテンツ制作に携わる。個人でもカルチャーを発信するプロジェクトを多数主宰。
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