マストドンはWebを“場所“にする pixiv運営「Pawoo」開発者が語った未来

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オープンソースが生み出す世界の可能性

清水氏以降のスピーカーでは、インスタンスの実運用についてのコツやNodeの改善について、Androidアプリリリースまでのチーム体制といった専門的な技術や課題解決のノウハウが披露され、会場を沸かせた。

筆者が感じた印象としては、イベント参加者やイベント自体に、余すところなくお互いの技術力をシェアし、問題の改善に努めることを目的としたオープンソース思考がとても強いという空気感だった。

そもそもマストドン自体、その構造となるプログラムやソースコードが開示されているオープンソースSNSだ。筆者は、最後の発表者であるピクシブの石井氏(https://pawoo.net/@alpaca_tc)が語った言葉が強く印象に残っている。

左は司会の川田さん(https://pawoo.net/@furoshiki)⁠、右は登壇した片倉さん(https://pawoo.net/@geta6)。

「世界トップレベルのインスタンスを管理しているPawooだからこそ、僕らがマストドン自体を改善していくしかない。そうすれば本家マストドンも改善され、他のインスタンスも最適化することができる。そうすることでさらに僕らのPawoo高速化することができて皆がハッピーになる」 石井氏

その使命感に、深く感銘を受けた。

マストドンにおけるインスタンスはサーバーごとで区切られ、清水氏も言っていた“街”のような存在でそれぞれが独立していることは確かだ。しかし、独立しているといっても他のインスタンスの状況によってその環境は大きく左右され、それこそ本当の街のように複雑に絡み合ってくる。

利己的に自分のインスタンスだけが良ければいいという道理はマストドンでは通らず、一見独立独歩に感じられる開発者同士もオープンソースで繋がり合っており、それぞれの技術者によって一つ一つの世界が成り立っているのだ。

こういった点は決して開発者だけに言えることではなく、利用するユーザーひとり一人のマインドにも影響してくるのではないだろうか。

これまでの、サービスを提供する側と使う側といった単純な関係ではなく、ユーザーもそのサービス構成する一つの要素なのだと、マストドンによって気付かされたのだ。

マストドンが広まることで、サービスを利用するユーザーの意識がどこまで変化していくのかという点にも注目していきたい。

マストドンはインターネットを変えるのか

筆者は、今回のイベントに個人的な興味から参加しようとしたことから、本稿を執筆することとなった。

これほどまでにマストドンに入れ込んでしまったきっかけは、22歳の大学院生ぬるかる(nullkal)氏がJPドメインでいち早く立ち上げたインスタンス「mstdn.jp」だった。

それが日本のみならず世界最大のインスタンスへと発展する過程で、ぬるかる氏個人サーバでの運用がままならなくなるも、パトロン募集サイト「Enty」で100万円の支援を受け、さくらインターネットの鷲北氏(イベントにも参加、積極的に質問していた)の尽力もあって巨大クラウドサーバへの移転を完了させるというドラマがあった。

さくらインターネットの鷲北氏

その後ニコニコのインスタンス「friend.nico」が立ち上がり、ぬるかる氏のドワンゴ入社が発表され、さらに注目を浴びた。

これらがわずか10日の間で起こった出来事で、これをインターネットドリームと言わずしてなんと言えばいいのだろう。ここまでドラマチックな展開を目の当たりしたインターネットは久しぶりで、こんな体験を与えてくれた「mstdn.jp」というインスタンスには、既に自分の生まれ故郷のような愛着すら湧いている。

筆者にとっての「mstdn.jp」のように、それぞれ「Pawoo.net」や「friends.nico」に対して思い入れを持っているユーザーや開発者は少なからずいるように思える。

オープンソースのマインドによって、開発者であれば技術支援、一般ユーザーでもある意味“ふるさと納税”のような意識で、インスタンスを応援する人も増えてくるかもしれない。

また、拡大していくインスタンスと並行して、より細分化されたインスタンスが多数乱立していくことも容易に想定される。

イベント内で清水氏も話していたが、細分化されたインスタンスがよりマストドンの本来の形に近く、分人主義という、インスタンスごとで文化圏の異なるそれぞれの場所で、人格も異なる在り方が、脱中央集権のSNSとしても適しているのではないかという意見もあった。

マストドンの登場によって、Web上の“街”という概念だけではなく、それこそ“国”や“村”化していくインスタンスもあるだろうし、はたまた“学校”や“部活”“サークル”といったカテゴリにまで細分化していくことで、ソーシャルという言葉以上に社会に近づきつつあるインターネットへと大きく変化しているのかもしれない。

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飯寄雄麻

ディレクター

87年生まれ、静岡出身。
広告代理店を経てフリーランス転向後はLoftworkや2.5Dでディレクターとして携わる。現在で、プロデューサーとしてデザインコンサルティングファーム・THINKRに所属。LIVE CREATIONをテーマにインタラクティブな映像体験やテクノロジー、メディアなど多岐に渡る分野を得意とし、コンテンツ制作に携わる。個人でもカルチャーを発信するプロジェクトを多数主宰。

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